第232話 残党の確保

――取り調べが開始されてから1時間が経過すると、幕舎の中には拘束された5人の騎士が存在した。その全員が放火を実行した犯人であり、しかも「暗殺者」の称号の持ち主だった。どうやら何時の間にか騎士団に紛れ込んでいたらしく、自然と他の騎士達にも怪しまれずに溶け込んでいた辺り、大分前から騎士団に潜入していたらしい。


用心のためにリルも黒狼騎士団の者を加入させるさいは鑑定士と呼ばれる職業の人間を呼び出し、彼等の素性を調べてはいた。だが、300人の人間の顔を数日で覚える事は出来ず、王城で訓練を行っている時から暗殺者たちは忍び込んでいたらしく、誰も気づくことが出来ずに同行していたようである。



「お前達が放火を行った犯人である事は見抜いている。いったい誰の指図を受けてこんな真似をした!?」

『…………』



拘束した5人の男女に対してチイが尋問を行うが、流石に本職の暗殺者というだけはあって全員の口は堅く、誰も話す様子はなかった。だが、そんな手はレアには通用せず、彼等に対して解析を行う。



(解析……なるほど、そういう事か)



解析を発動して5人の詳細画面を開くと、レアは彼等の雇い主の正体を見抜き、全員が同じ人間に命じられて放火を行った事を見抜く。



「リルさん、こいつらの雇い主はどうやらギャンのようです」

『っ!?』

「ほうっ……ギャンの奴め、平民に落とされてもまだ私に逆らうか」



薄々と予想はしていたのかリルは頭を掻きながらため息を吐き出す。一方で暗殺者の方はどうして自分達の雇い主の正体を知っているのかとレアに視線を向けるが、そんな彼等にレアは誤魔化すように呟く。



「あっ……今のはただのかまかけだよ。でも、その様子だと本当にギャンの仕業だったみたいだね」

『なっ……!?』

「あららっ……暗殺者の癖にこんな引っ掛けに簡単に騙されるなんて情けないですね」



レアの言葉を聞いて暗殺者たちは唖然とするが、すぐにリリスがフォローを行い、怪しまれないようにする。暗殺者たちにレアが嘘を見抜く能力以外の能力を持ち合わせている事を悟られないため、チイたちが動いて暗殺者の目と耳を塞ぐ。



「全員に目隠しと耳を塞ぐんだ。自害も出来ないように口も塞ぐのも忘れるな」

「きゅろろっ♪」

「ぐぅっ……こ、この小娘……いででっ!?」

「あ、サン!!そんなに力強く縛っちゃ駄目!!」



目隠しを行う際にサンが全力で縛り付けたせいで危うく何名か失明しかけるが、どうにか耳栓と目隠しと口を封じる事に成功すると、レアは詳細画面を開いて彼等の素性を確認する。


どうやら5人の暗殺者はギャンに昔から仕えている暗殺者らしく、中には外見は若々しいが実年齢は40才を超える人間も存在した。暗殺者はハンゾウと同様に「変装」の技能を身に着けた人間もいるらしく、若々しい姿に変装して紛れ込んでいたようだが、レアの解析の前では通じない。



「リルさん、こいつらがギャンに仕える暗殺者のようです。どうやらギャンが捕まった事で自分達の立場も危うくなり、どうにかギャンに復帰してもらうためにリルさんを襲う計画を立てたようです」

「なるほど……そういう事だったか」

「ギャンは隠していた財産を使って現在は王都に潜伏しているようですけど、この人達はその居場所を知っているようです。どうします?」

「無論、捕まえるさ。平民に落とされるという罰だけで済んだのに、私を陥れようとするなどいい度胸だ。王都へ戻り次第、ギャンを討つ。奴はもうこの国には必要ない男だ」



命だけは助かったにも関わらず、自分を狙おうとしたギャンに対してリルは容赦なく討つ事を決意すると、まずは捕まえた暗殺者5名の件を伝える事にした。



「ここにいる連中が食糧を焼いたのは私達に大迷宮へ向かわせず、王都へと引き換えさせるためだろう。300人分の食糧を一か月分は用意するとなると街に出向いて集めるのも苦労する。それに逃げずに騎士団に留まっていた事を考えても私の暗殺を企てていたと考えるべきだろう。やれやれ、油断ならないね」

「どうして食糧を焼いたんですか?」

「大人数で行動する場合、大迷宮の攻略で最も重要なのは回復薬の類よりも食糧の方が重要だからだ。迷宮内の魔物を倒して食材にするという手もあるが、大迷宮内では地上よりも出現する魔物の数が圧倒的に多い。食材となる魔物を倒しても解体する暇もなく別の魔物に襲われたり、あるいは血の臭いに反応して他の魔物を引き寄せる可能性もある。だからこそ食糧に関しては持参で携帯食料を持ち込むのが一番だ」

「大迷宮内では滅多な事がない限り、料理を行う事も出来ないからな……食べ物の臭いに釣られて他の魔物を引き寄せる危険性もある。だから今回の食糧は長期保存が出来て栄養も高い物を用意していたんだが……」

「その大事な食糧の大半も失った……この様子だと大迷宮に潜れる日数は制限されるだろう。そうなった場合、私達は王都へ引き返すしかない」

「あれ……想像以上にまずい状況ですか?」

「ああ、不味いな」



暗殺者たちの仕出かした行為の問題の大きさを知ったレアは冷や汗を流し、他の者達もため息を吐く。だが、ここでサンが元気よく腕を上げてレアを指差す。

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