第231話 犯人の特定

(信じてください、ね。なるほど……この言葉だけだと嘘だと判断はしにくいな。だけど、俺の能力を嘘を見抜く力だと勘違いしているのか?)



質問に対して他の人物の答えに乗って曖昧な返事をした騎士の一人にレアは視線を向け、相手が20代前半の男性騎士である事を確認する。外見は騎士を装っているが、称号に関しては事前に調査した限りでは白狼騎士団に存在しないはずの称号の持ち主だった。


放火魔だと思われる犯人を一人発見したレアは表面上は平静を保ち、まずはリルに目配せを行い、彼女に犯人が混じっている事を注意する。事情を察したリルは事前の打ち合わせ通りに行動する。



「質問をもう一度行う。君達の中に放火を引き起こした人間はいるのか?自分が無実であるのならば「私は放火をしていない」とだけ答えるんだ」

「えっ……は、はい。分かりました」

「それだけでいいんですか?」

「ああ、それだけでいいんだ。さあ、答えてくれ」

「…………」



リルの言葉に騎士達は困惑するが、その中で犯人と思われる人物の顔色は変わった。それを見てレアは彼が犯人だと確信し、即座に注意を行う。



「そこの男が犯人だ!!捕まえて!!」

「ちぃっ!!」



レアの言葉にリル達は武器を取ると、男性の騎士は抵抗するつもりなのか剣を引き抜く。それを見て真っ先にハンゾウが動き、彼女は背中に抱えていたフラガラッハを振り下ろす。



「ぬんっ!!」

「うわっ!?」



フラガラッハの攻撃力3倍増の効果のお陰か、ハンゾウが振り下ろした刃は男性騎士の所持していた剣の刃を叩き割り、更に彼女は左手を繰り出して顎に掌底を叩き込む。その結果、男性騎士は一撃で意識を奪われ、床に倒れ込む。



「ぐはぁっ……!?」

「おろ?そこまで強く叩いたつもりはないでござるが……」



ハンゾウとしては相手を怯ませる程度の威力で掌底を叩き込んだのだが、フラガラッハの効果のお陰か彼女の腕力も強化されていたらしく、男性騎士は白目を剥いて倒れてしまう。すぐに他の物が駆けつけ、騎士を拘束するとリルがレアに振り返る。



「レア君、こいつが犯人か?」

「はい、間違いありません。こいつが犯人のようです、しかも称号も暗殺者です」

「暗殺者?うちの騎士団に暗殺者なんていないはずなのに……いつの間にか紛れ込んでいたんでしょうね」

「なるほど、やはり暗殺者を使って放火を行ったのか」



拘束した男性騎士が暗殺者だと見抜いた事でレア達は逃げられないようにしっかりと縛り付け、用心のために怪我は治さない。犯人を捕まえる事には成功したが、その様子を見ていた他の騎士達はいったい何が起きたのかと理解出来ない様子だった。



「あ、あの……勇者様、そいつが犯人だというのは本当なんですか?」

「本当だよ、こいつは俺の質問にちゃんと答えようとしなかった。だからかまをかけてみたけど、案の定逃げようとしたでしょ?」

「な、なるほど……勇者様は嘘を見抜く力もあるんですね」

「その通りだ。だが、この能力の事は内密にするんだぞ」

「は、はい!!」



騎士達はレアが本当に他人の嘘を見抜く能力を持ち合わせていると信じたが、実際の所はレアの能力は嘘を見抜く事も出来るだけに過ぎない。だが、いちいち説明する必要もなく、勇者としての能力を不用意に明かすわけにもいかないので適当に誤魔化す。


一方でリリスに麻痺状態に陥ったオウソウの方は倒れた状態で無言のままレアを睨みつけ、若干涙ぐんでいた。身体が動かす事も出来ず、惨めな姿で倒れ続けている事に心が折れかけていた。



「レアさん、こっちの人は犯人じゃないですか?なんかずっと睨んできて気味悪いんですけど……」

「動けないようにしたのはリリスのくせに……オウソウ、あんたは放火魔なの?」

「ぐ、ぐううっ……!!」



まともにしゃべる事も出来ないのかオウソウは嗚咽を漏らすが、詳細画面を確認して特に変化がない事を確認したレアは仕方なく彼を治す事にした。前にリルを「麻痺」に追い込んだ時のように文字変換の能力で「薬」を作り出し、オウソウの口の中へと放り込む。



「ほら、これを飲んで……」

「うぐっ……ぶはぁっ!?」

「うわ、びっくりした!?」



薬を飲み込んだ瞬間にオウソウの麻痺は解除され、彼は勢いよく立ち上がる。そして自分の身体が動ける事に感動した様に両手の指を動かすが、すぐにリリスに振り返って怒鳴りつける。



「こ、この女ぁっ!!」

「おっと、近づかないでください。また注射されたいんですか?」

「ひぃっ!?」



注射器を取り出したリリスを見てオウソウは怯み、どうやら余程注射器を打たれた事がトラウマなのか、まるで予防接種を受ける前の子犬のように震えてしまう。その姿を見てリルはため息を吐き出し、他の騎士達も含めて出ていくように促す。



「君達の無実は証明された。外へ待機していなさい」

『はっ!!』

「……ああっ」



他の騎士達と共に気落ちしたオウソウも後に続き、レア、チイに続いてまさか非戦闘員のリリスにも敗れたという事実に落ち込み、彼はとぼとぼと幕舎から去っていった――

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