第228話 魔法腕輪の効果

「うう、いてぇっ……」

「お、お願いします……」

「は、早く治してくれ……」

「これは……思ったよりも重傷者が多いですね」

「頑張る」



火傷を負った者達がネコミンとリリスの前に並び、事前に応急処置を受けている人間もいるが、重傷者が多い。火傷の類は回復薬では治りにくく、回復液の振りかけた箇所だけが再生して歪な形になる可能性もある。


負傷者の中でも軽症者には適切な量の回復薬を与え、次に重傷者にはネコミンとリリスは回復魔法を施す。二人は腕輪をしっかりと装着すると、意識を集中するように魔法を発動させた。



「ヒーリング」

「うあっ……」

「にゃああっ……」

「ほわぁっ!?」



リリスとネコミンは掌を翳して回復魔法を発動させると、二人の手から光の球体が出現して傷口を覆いこむ。詠唱を行うリリスに対してネコミンは猫のような声を上げるのが気になる所だが、治療を受けた患者は瞬く間に火傷の跡が塞がり、元の皮膚へと戻る。


その光景を見て驚いたのは他の人間達であり、ネコミンとリリスも自分達の回復魔法の効果に驚いた表情を浮かべていた。その様子を見てレイナは魔法腕輪の効果の事を思い出し、どうやら「強化」という文字を「増大」に変換させた事で回復魔法の効能が進化したらしい。



「なるほど、これは素晴らしいですね。この調子ならどんどんと治療が出来そうです」

「次の人、早く」

「お、俺もお願いします!!」

「こっちも……」



負傷が大きくて動けない人間は二人を呼び寄せ、回復魔法を施してもらう。その結果、十数名の重症者達は時間を巻き戻したかのように完璧に身体が元に戻ると、二人はやり遂げた表情を浮かべる。



「ふう、これで治療は完了ですね」

「久々にこんなに回復魔法を使った……でも、あんまり疲れてない?」

「それもこの魔法腕輪のお陰かも知れませんね……あれ、でも魔石の輝きが小さくなったような……おかしいですね、最近替えたばかりだから魔力が切れるはずがないんですが」



魔法腕輪を見てリリスとネコミンは満足そうに頷くが、ここでリリスは装着している聖属性の魔石の光と色合いが変化している事に気付いて魔石に触れようとした瞬間、二人の魔法腕輪の魔石に亀裂が走り、砕け散ってしまう。



「わっ!?」

「にゃっ!?」

「だ、大丈夫でござるか二人とも!?」

「どうした急に!?」

「い、いや……急に魔石が割れて、おかしいですね。どうやら魔力切れを起こしたみたいです」

「魔力切れ?」



2人の元にレナ達は集まると、リリスは驚いた表情を浮かべながらも砕けた魔石の破片を拾い上げ、ただの水晶と化している事を確認する。それを見たレイナは不思議に思うと、リルが代わりに説明を行う。



「魔石に蓄積されている魔力が完全になくなった場合、魔石は色と光を失う。魔力を失った魔石の器は時間が経過すると砕け散る性質を持っているんだ。だが、二人に渡した魔石は最近加工されたばかりの者だ。本来ならば数十回程度は持つはずだが……」

「おかしいですね……あ、多分ですけどこの腕輪のせいですね」

「えっ!?」



リリスは砕けた破片を拾い上げ、破片から魔力の残滓すらも感じない事を調べると、不意に自分の腕輪が視界に入って原因を思い至る。



「今回の回復魔法、何故か普段よりも上手くいったと思ったんですけど、どうやら腕輪が魔石の魔力を通常よりも消費した事で回復魔法の効果が高まり、私達の負担も減っているようです。その証拠に普段は4、5人も治療すると水を浴びせられた猫のように元気がなくなるネコミンさんが元気はつらつです」

「おおっ、道理で今日は調子が良いと思った」

「だが、そんな事が有り得るのか?その腕輪はあくまでも魔法の効果を少し強化する程度の代物だぞ?」

「それがですね、実はここにいるレイナさん、いやレアさんの能力で魔法腕輪に改造を施して貰ったんですが……」



簡単にリリスは先ほど魔法腕輪をレイナの手で能力強化してもらった事を説明した後、どうやら腕輪は能力の強化には成功したが、逆に強化前よりも魔石の負担が大きくなったらしい。



「レイナさんのお陰で「魔法効果強化」から「魔法効果増大」へと変化したこの腕輪は、どうやら効果が文字通りに増大化したお陰で使い手である私達の負担も少なくなり、通常よりも回復魔法も確かに強化されていました。しかし反面に魔法を使用する際の魔石の負担の方も増大化していたようです」

「じゃあ、俺のせいで魔石が壊れたの?なんか、ごめんなさい……」

「いえいえ、こうなる事は誰にも予測できませんし、それに魔石を失ったのは痛いですがお陰で回復魔法の効果が強化されたのは確かです。要するに今まで以上に回復魔法の効果が高まった分、魔力の消耗が増えただけに過ぎません。何も失敗したというわけではないですよ」

「なるほど、確かに回復魔法の効果が高まるのは素晴らしい事だ。だが、この調子だと今後は聖属性の魔石の消耗量が多くなりそうだな……まあ、それぐらいだったらどうにでもなるか」

「私はこの腕輪が気に入った」



魔法腕輪のメリットとデメリットを考えると今回の強化は成功したといえ、魔石の消耗は痛いがその分にこれからの治療はより早く、より大きな怪我も治せそうだった。

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