第229話 放火魔の正体

「おい、さっきから何をこそこそと話している!!」

「……口に気を付けろ、オウソウ。お前はただの団員に過ぎない、それがこの国の王女であるリル様に対する言葉遣いか!!」

「ぬうっ……失言だった」



レイナ達が話し合っていると焦らされた気分に陥ったのかオウソウが口を挟む。だが、そんな彼の態度にチイが怒鳴りつけると、意外な事にあっさりと引いてしまう。流石に自分の立場は理解しているのか、悔し気な表情を浮かべながらもリルに伺う。



「リル王女……様、今回の火事の件はどう対処するつもりだ……いや、するつもりですか?」

「ふむ……一先ず、今回の火事の経緯を調べる必要があるな。いったい、どうしてこんな事が起きた?」

「あ、あの!!私、夜中でこそこそと動き回っている人たちを見つけました!!」

「俺もです!!多分、そいつらが放火を……」



団員の中には今回の火事が引き起こされる前に怪しい人物を見たという者達が複数存在し、彼等によるとその者達の仕業で火事が引き起こされたのかもしれないという。その話を聞いたリルは真っ先に気になったのはどうしてそれを見た者達は怪しまなかったのかである。



「お前達はその怪しい奴等を見て何もしなかったのか?」

「ち、違います!!話しかけようとはしたんですが、そいつは急に姿を消したんです!!」

「姿を消した?」

「はい、近付いた瞬間に何時の間にか消えてしまって……それでも臭いを辿ろうとしたんですが、火事が急に起きて止める暇なくて……」

「リル様、これは……」

「ああ、暗殺者の隠密の技能だろうね」



団員達の話を聞いていたリルは放火の犯人が複数人である事、それと暗殺者の「隠密」と呼ばれる存在感を消し去る技能を持っていると確信した。ここでリルは改めて周囲の被害状況を確認した後、チイに尋ねる。



「チイ、被害の規模は?」

「運んできた食糧の大部分が燃やされ、先ほどの豪雨のせいで残った食糧の大半も使い物になりません。武具や薬剤の類は警備を固めていたので無事ですが……」

「そうか、つまり我々はこんな場所で食料を失ったというのか」

「ですが人里までそれほど遠くはありませんし、ライオネル大将軍が同行させた兵士達の食糧を分けて貰えばどうにでもなります。問題なのは放火した犯人が未だに捕まっていないという事ですが……」

「犯人の正体だと?それなら分かり切っている、この中に犯人がいるに決まっているだろう!!」



チイの言葉にオウソウが口を挟むと、憎々し気に周囲の者達に視線を向ける。そんな彼の言葉に他の団員たちも薄々は気付いていたのか、全員の顔色が悪い。



「この騎士団の中に放火犯が存在する!!そうでなければ火事を引き起こすはずがない!!野盗の仕業だとしてもこんな見晴らしの良い場所で襲うはずがないだろう!!」

「オウソウ、ではお前は僕達の中に放火を行った犯人がいるというのか?」

「当然だ!!この中の誰かが裏切り者だ!!」

「裏切り者……?」

「リル王女、貴女も理解しているはずだ!!自分がどれほどの相手に命を狙われているのかをな!!この中には王女の命を狙う輩も混じっているんだろう!!」

「な、何を言うか貴様!!」

「訂正しろ!!我々は騎士だ、リル王女様に忠誠を誓ったんだぞ!!主君を裏切るような真似などしない!!」



オウソウの言葉に他の団員たちも黙っていられずに反発するが、彼等自身も自分以外の者達を疑っているのか声が震えていた。その様子を見てリルは肩をすくめ、チイは頭を抱える。


状況的に考えて今回の火事が事故だとは考えられず、同時刻に別々の場所で火事が発生した事を考えても計画的な行動だろう。恐らく犯人の正体はリルの命を狙う派閥の者達が送り込んだ刺客で間違いなく、オウソウの考えもあながち否定できない。



(この中に裏切り者が……?)



レイナは団員たちを見渡して本当に裏切り者が存在するのかと思ったが、見ただけでは誰が裏切り者など分かるはずがない――普通の人間ならば。



(まてよ……そうだ、解析を使えば犯人が分かるか?)



ここでレイナは解析の能力を思い出すと、リルに振り返って提案を行う。だが、馬鹿正直に自分が解析を使えばなどという話はせず、あくまでもレイナという騎士の立場として意見を告げる。



「リル……様。ここは勇者様にお力を借りたらどうでしょうか?」

「ん?どういう事だレイナ君?」

「きゅろっ?勇者はレイ……むぐっ!?」

「はいはい、ちょっと静かにしてましょうね」



危うくレイナの正体を口にしそうになったサンをリリスが抑えつけ、そんな彼女に感謝しながらレイナは自分の能力ならば放火犯を捕まえられるかどうか確かめる事が出来る事を告げた。



「勇者様の持つ能力ならば犯人を見つけ出す事が出来るかもしれません。ここは勇者様に任せませんか?」

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