第226話 魔法腕輪

――その夜、レイナは自分の幕内で身体を休めていた。旅の時はキャンピングカーなど用意していたが、後処理に困るという理由もあって白狼騎士団に正式に加入後は野営の際はこの世界の人間の方式に従う。既に勇者レアの能力が他の人間に「状態異常」を引き起こす能力だと知られてしまった以上、今更だが文字変換の能力を使ってこの世界には存在しない道具を取り出す事は出来ない。


見張り役などは基本的には他の人間に任せているため、夜間の間はレイナはゆっくりと身体を休める。これは彼女の事を気遣っての対応というわけだけでもなく、出来る限りはレイナには万全の体調の状態を維持して欲しいというリルの配慮だった。万が一にも窮地に陥った時に力になるのはレイナである事は間違いなく、彼女はレイナの体調を崩さないように最善の処置を行う。


夜の間はレイナは幕の中で他の者達と共に過ごし、早寝早起きを心掛ける。また、勇者レアとして行動を余儀なく場合も想定して男性者の衣服も用意しており、いざという時は男性にすぐに変身する準備も整えていた。



「きゅろろっ……」

「ZZZ……」

「……サンとクロミンはもう寝ちゃったのか。それにしてもクロミンはサンに枕にされてよく怒らないな」

「私も時々枕に使っていた」

「スライム枕は人気がありますからね。餌は水を与えるだけでいいし、手間は掛からないし、正に愛玩動物としては最高の存在ですよ」



幕内ではサンがクロミンを枕にして眠りにつき、この2匹は夜間の間はすぐに眠ってしまう。もしかしたらどちらも昼行性の可能性もあるかとレイナは考える。最もスライムのクロミンはともかく、ダークエルフになったサンも昼行性というのは疑問があるが、その辺の事を気にしても仕方がない。


毛布を蹴り飛ばしたサンにレイナは毛布を改めて掛けなおすと、ネコミンとリリスが集まって何かをしている事に気付き、不思議そうに覗き込むと二人は銀色に光り輝く腕輪を磨いていた。



「二人とも、何してるの?」

「魔法腕輪を磨いているんですよ。万が一の時に備えて、回復魔法を発動させる準備は怠る事は出来ませんからね」

「私も同じ」

「魔法腕輪……確か、魔術師の杖みたいに魔法の触媒の効果を促す魔道具だっけ?」



2人の腕輪には白色に淡く光り輝く水晶玉が装着されており、それを見たレイナは解析の能力を発動させて聖属性の魔石だと見抜く。通常、この世界の魔術師は「魔石」と呼ばれる特殊な鉱石を加工して作り上げられた外見は水晶や宝石のような道具を利用して発動させる事を思い出す。


レイナを追放したウサンも魔石が装着した杖を利用して攻撃魔法を発動しており、基本的にこの世界の人間は魔石を触媒にして魔法の発動を行っている。魔石が存在せずとも魔法の発動事態は可能だが、その場合は魔力の消耗量も多く、大きな効果を生み出せないという。



「魔石は貴重品ですからね。特に聖属性の魔石なんて簡単には手に入りませんから、本来は保管しておきたいところですが……大迷宮に挑むとなると流石に用意せざるを得ません」

「私も使う時は節約するようにチイから言いつけられてる……だから旅をしていた時も魔石を持っていなかったから回復魔法も碌に扱えなかった」

「なるほど、そうだったのか……でも、それって腕輪だよね。杖に付けなくていいの?」

「魔法を発動させるだけなら腕輪だろうが杖だろうが関係ありませんよ。ですが、この白銀製の腕輪は特別製で魔法の効果を高める作用を持ちます」

「どれどれ……解析」



レイナは二人が見せてくれた魔法腕輪を覗き込み、改めて「解析」を発動させて詳細画面を開く。



――魔法腕輪マジックリング――


能力


・魔法効果強化


詳細:装着した魔石の効果を高める腕輪。銀とミスリルの合金なので防具としても扱える。現在の所有者は「リリス・ティスト」


――――――――



「なんか凄い簡素な説明文が出てきたんだけど……」

「いや、そう言われましても……」

「レイナ、私のは?」

「ネコミンのは……うん、性能は同じだね」

「まあ、これは私達が騎士団に入った時に貰った代物ですからね」



2人が所有している魔法腕輪はリルが用意した代物であり、彼女なりに気を遣って性能が高い腕輪を用意したらしい。だが、聖剣の場合は能力が3~4個ほどの能力が付与されているのに対してこちらの方は能力が1つしか表示されていない。


それでも能力が付与されている魔道具は貴重品らしく、二人の魔法腕輪に関しても高級品らしい。だが、文章を見ていたレイナは「魔法効果強化」という文字に気にかかり、本日の文字変換の文字数が残っている事を確認すると二人に告げる。



「この魔法腕輪……俺の能力で強化してみようか?」

「えっ!?そんな事まで出来るんですか?」

「おおっ……流石はレイナ、ならやってみて」

「失敗したらちゃんと元に戻すから怒らないんでね……でも、どういう文字に書き換えようか」



文面に表示されている文字を見てレイナは思い悩み、とりあえずは「強化」という文字の部分を別の文字に変換する事にした。

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