第223話 騎士達の心情
「全く、何なんですかねあの人……そんなに私達の事が気に入らないんですかね」
「むうっ……私もあいつは嫌い」
「ネコミン、気持ちは分かるけどもうちょっと声を抑えて……」
「きゅろ、デカブツ!!嫌いっ!!」
「ぷるぷるっ(同感)」
ネコミンとサンは明確にオウソウに対して嫌悪感を抱き、クロミンも同意するようにレイナの頭の上で刎ねる。リリスもハンゾウもオウソウの態度は問題だと感じているらしく、明暗を思いついたとばかりにリリスはレイナに囁く。
「そうだ、レイナさんの魅了であの人を虜にしちゃってくださいよ。やろうと思えば出来るんでしょう?」
「う~ん……別にそこまでやらなくてもいいじゃないかな」
レイナの魅了の力を使えば彼女に敵意を抱いている人間だろうと、それが異性であるならばどんな人物でも虜に出来る。実際にガオ王子の派閥のケマイヌや警備隊長も魅了の能力を利用した瞬間にレイナの命令ならば忠実に従う人形と化した。
だが、魅了の能力を利用してレイナは他の人間を虜にする行為は出来ればもう使いたくはないと思っており、理由があるとすれば魅了を施した相手は人格が変化したのではないかと別人に豹変してしまうからである。自分の力で他の人間の人格を変化させてしまう行為はレイナも躊躇してしまい、それに相手が気に入らないという理由だけで魅了の能力を頻繁に使っていたら彼女の周りには魅了で虜にされた者達に溢れてしまう。
(魅了を使えばオウソウも従うと思うけど、そうするとオウソウが付きまとってきそうで嫌だしな……)
魅了で虜にされた人間は完全にレイナの支配下になるが、ケマイヌの場合は情報を提供する度にレイナに頭を撫でて貰おうとしたり、褒めてくれとせがむ。その行動を思い出してレイナは気味悪がり、むさくるしいおっさんが自分にすり寄ってくる光景を想像するだけで喜色が悪いというのが本音だった。
(それにしてもオウソウはどうしてこんなに突っかかってくるんだろう。俺が女だから気に入らないのかな……でも、勇者の姿の時でも突っかかってくるんだよな)
オウソウは騎士団の中でも特に問題行動が目立ち、相手が勇者であるレアや一応は上官であるレイナに対しても嫌味を言う。オウソウの腕前が騎士団の中でも上位に位置しなければ普通は解雇されていてもおかしくはない。
リルとしてもオウソウの行動は問題視しているが、大迷宮に挑む以上は実力のある者は出来れば一人でも多く連れて行きたいと考え、今の所はオウソウに対して処罰は与えられない。だが、度が過ぎた行動をすれば容赦なく罰を与える事は事前に注意しており、オウソウがこれ以上に問題を起こせば彼女も許さないつもりだった。
(まあ、別にあんな人どうでもいいか……それより、もう少しで大迷宮へ辿り着くのか)
オウソウの事よりもレイナが気がかりなのは「巨塔の大迷宮」であり、この大迷宮を踏破すればリルは今以上に周囲からの信頼を得ると同時にケモノ王国の窮地を救えると考えていた――
――その日の晩、リルの元にレイナ達は集まると、あと数日中に辿り着く大迷宮の攻略するための会議を行う。見張り役はハンゾウに任せ、幕の中でレイナ達は話し合いを行う。
「ここまで道のりは順調に進んでいる、食料に余裕があるとはいえ、道中で魔物を狩ったお陰でさらに余裕が出来た」
「騎士達の士気も高いままですよ。でも、やっぱり黒狼騎士団の時とは勝手が違うから戸惑う人も多いですね」
「話を聞く限りだとガオ王子が指揮していた時は訓練時間も少なく、任務という程の仕事を与えられた様子はないでござる。最も、殆どの者が不満ではなく、むしろ現状の扱いに嬉しく思っているようでござる」
黒狼騎士団に所属していた騎士達の大半はガオ王子の士気の元、彼の言われるがままに動いていたという。だが、ガオは彼等に与えた命令の殆どは雑務らしく、せいぜい自分の身の回りの警護程度しか行わせなかったらしい。ガオにとっては騎士団とは共に働く仲間ではなく、せいぜい自分の身を守る程度の存在にしか過ぎなかった。
ケモノ王国の王子の騎士団に入れると聞いて、数多くの武芸者は自分達が騎士として働き、国のために尽くそうと考えていたとのに与えられる仕事は王子の警護や雑務を手伝うという騎士というよりもただの兵士の仕事を与えられた事に不満を抱く者も多かった。
だが、リルの白狼騎士団に移籍してからは激しい指導訓練の元、大迷宮の攻略を目指すという事に殆どの騎士達が自分達の望んでいた仕事に就けた事に歓喜していた。自分達が騎士になったのは偉業を残し、王女に仕える騎士として歴史に名を残すためであり、彼女達は短い期間ではあるがリルの指導を受け、彼女の性格を知るうちに自分達の求めた理想の上司だと思い始め、徐々に信頼関係を築いていた。
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