第222話 レイナの力

『え、あれ……あの子、今何をした?』

『おい、岩に亀裂が走ってるぞ……』

『嘘だろ、おい……』



レイナが巨岩に亀裂を生じさせる程の威力の一撃を出した事に他の騎士達は動揺を隠せず、真っ先にオウソウが反応する。



『ば、馬鹿なっ……有り得んっ!!あんな小娘にあの大岩に亀裂を与えるなど、何かの間違いだ!!木刀に細工をしたんじゃないのか?』

『いや、でも……木刀も普通に砕け散ったぞ?』

『それに仮に木刀に細工していてたとしても、あの頑丈な岩に亀裂を与えるぐらいの威力を出したのは事実だろ?』

『うるさい!!認めん、俺は認めんぞ!!』



オウソウはレイナが大岩に亀裂を与えるほどの一撃を与えた事を信じなかったが、その後の訓練においてもレイナの力は他の騎士達を遥かに凌駕していた事を証明した――






――組手の試合でレイナはオウソウと対峙し、巨岩を破壊したのはまぐれである事を証明するため、オウソウの方から真っ先にレイナを指名した。男性時の時には勝利した相手だが、今回は女性の姿で戦う事になる。



『うおおおっ!!』

『うわっとと……!?』

『す、凄い……互角に打ち合ってるぞ!!』



オウソウはがむしゃらに攻めてきたが、レイナはその攻撃を全て受け切り、全く互角にやりあう。その様子を見て他の騎士達はレイナが勇者のお気に入りという理由だけで騎士に迎え入れられたわけではない事を認識し、実力もある事を知った。


しかし、オウソウとしては自分よりも上の立場の人間が全員女性である事が気に喰わず、意地でもレイナを倒そうと訓練の時は使用を禁止されている戦技を発動させる。



『兜割りっ!!』

『うわっ!?』

『なっ!?オウソウ、戦技は禁止だと言われただろう!!』

『この卑怯者っ!!』

『うるさい、黙っていろ!!』



戦技を発動させたオウソウに他の騎士達は非難の声を掛けるが、オウソウはそれを無視してレイナに戦技を発動させた。だが、それに対してレイナも流石に我慢は出来ず、ここで彼女は相手が戦技を使うのならばと自分も奥の手を使う。



『……オウソウさん』

『ぬうっ……き、貴様!?何をした!?』



戦闘中にレイナは「魅了」を発動させると、唐突にオウソウの動作が鈍ってしまう。本人は気付いていないが、レイナの魅了の能力によって身体が彼女に反応してしまい、上手く動けなくなってしまう。その隙を逃さずにレイナは攻撃を行った。



『はああっ!!』

『ぐはぁっ!?』



巨岩に亀裂を生じさせる程の腕力で放たれたレイナの一撃により、オウソウは地面に叩きつけられた。その様子を見ていた他の騎士達は驚愕の声を上げ、レイナの強さを思い知る。だが、レイナはこの時にオウソウを攻撃したときに木刀を再び壊してしまい、この時にレイナは自分の腕力のせいで並の武器が耐え切れない事を悟った。





現在のレイナは「剛力(攻撃力が9倍加)」の効果によって腕力が限界近くまで強化されており、もしも全力で武器を扱うと武器その物に大きな負担を与えてしまう。しかも「神速(速度が9倍加)」の効果によって脚力の方も上昇し、更に言えば「金剛(防御力が9倍加)」によって肉体の耐久力まで上昇している。


リリスの見立てによるとレイナの肉体はこの3つの技能のお陰で限界近くまで身体能力が強化されており、その強さは最早レベルの域を超えているという。だからこそ並み大抵の武器ではレイナが扱うと壊れてしまい、聖剣級の能力を誇る武器しか耐えられない事が発覚した。


そこでレイナは仕方なく文字変換の能力を使い、新しい聖剣を作り出す事にした。色々と相談した結果、ケモノ王国では知名度が低く、それでいながら頑丈さという点では他の聖剣の中で最も秀でている「デュランダル」がレイナの武器として選ばれた経緯だった。



「ふうっ……大分、戦闘も慣れてきたな」

「お見事でござるレイナ殿!!今日はボアの猪鍋でござるな!!」

「豚汁も捨てがたい」

「私はとんかつ派ですね」

「ぷるぷるっ(生姜焼きがいい)」

「きゅろっ……丸焼き!!」



ボアを倒したレイナ達は荷車に乗せたボアを野営地まで運び込み、他の騎士達に迎え入れられる。レイナ達が戻ると、すぐに若手の騎士達が迎えに来た。



「レイナさん!!それに他の皆さんもお帰りなさい!!」

「おい、レイナさんの部隊がボアを狩ってきたぞ!!」

「おおっ……流石はレイナさんだ!!」

「はいはい、騒いでないで運ぶのを手伝ってください」



荷車に積まれたボアを見て騎士達は驚きの声をあげる中、リリスが指示を出して自分達が運んできたボアを他の騎士達に任せる。どうやらレイナ達の部隊が一番の大物を狩ったらしく、一角兎と呼ばれる兎型の魔獣を手にしたオウソウがつまらなそうに答える。



「ちっ……たかがボア如きで騒ぎおって」

「聞こえてるでござるよ、オウソウ。一応は拙者達はお主の上官なのだから口に気を付けて欲しいでござる」

「ふんっ!!」



ハンゾウの注意の言葉にオウソウは不機嫌そうに鼻を鳴らして立ち去り、そんな彼の態度を見てリリス不愉快そうに眉を顰めた。

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