第221話 聖剣デュランダル
――城下町を抜けて遂に白狼騎士団は王都の外へと辿り着くと、南方に向けて出発する。この際に騎士団だけではなく、ライオネル大将軍が手配してくれた兵士が騎士団の兵糧物資を運ぶ。出来る限り、騎士達には疲れを残さないように配慮して遅すぎず、早すぎない速度で移動を行う。
大迷宮へ到着するには10日以上の日数が必要になり、その間に道中で魔物を襲撃を何度も受けた。レイナ達だけが旅をしていた時は「魔除けの石」を持っていれば魔物に襲われる心配はなかったが、今回の遠征に関してはレイナが作り出した「魔除けの石」は使わず、先に進む。
魔除けの石を使わない理由は道中で1匹も魔物に襲われなかった場合、団員たちの中で不審に思う人間もいるだろう。勇者レアが特別製の「魔除けの石」を作り出したという話をするわけにもいかず、あくまでもレアの能力は他人に「状態異常」を引き起こす能力だと思わせなければならない。だからこそ道中では何度か命知らずな魔物に襲われる事もあった。
「フゴォオオオッ!!」
「レイナ殿!!そっちにボアがいったでござる!!」
「分かった!!任せて!!」
野営を行う際中、レイナ達の部隊は周囲の見回りを行っているとボアと呼ばれる猪型の魔獣に襲われた。ボアは体長が3メートルを超える大猪であり、しかも牙の部分は槍のように細長く尖っている。まともに突進をうければオーク程度の魔物ならば一撃で殺されるだろうが、レイナは迫りくるボアに身構える。
現在のレイナは勇者レアとして行動していないため、所持している武器は「アスカロン」ではない。レアが聖剣アスカロンを使っている事は既に周知の事実のため、彼と同じ聖剣をレイナが使用すれば怪しまれる。そのためにレイナが扱っているのは文字変換で作り出した新たな聖剣だった。
(デュランダル……実戦で使うのは初めてだな)
――レイナは背中に背負っていた「漆黒の大剣」を引き抜き、ボアと向かい合う。レイナは正面から突進を仕掛けてきたボアに対して大剣を構えると、一気に振り下ろす。
「はああああっ!!」
「プギィッ――!?」
強烈な衝撃音が鳴り響いた瞬間、ボアの巨体が地面にめり込み、頭部を完全に砕かれたボアの死骸が出来上がった。それを見たレイナは大剣を持ち上げると、額の汗を拭う。
刃で斬る、というよりも棍棒のようにボアの頭部を叩き潰したという表現が正しく、大剣にこびり付いたボアの血を振り払いながらレアは背中に戻す。その様子を見て同行していたハンゾウ達は感心の声を上げる。
「おおっ!!見事でござる、しかし……相変わらずその聖剣は使いにくそうでござるな」
「凄く重そう」
「大分慣れてきたようには見えますけど、やっぱり使いづらそうですね」
「うん……でも、他の武器だとすぐに壊れちゃうから」
「きゅろろっ……」
「ぷるぷるっ?」
レイナの元に仲間達が集まり、彼女が所有する「漆黒の大剣」に視線を向ける。この大剣の正体は「聖剣デュランダル」であり、聖剣の中でも「最硬の聖剣」と呼ばれるこの世界で最も硬い金属で構成されているという。
このデュランダルはリルの知り合いでもあるヒトノ国の鍛冶師から購入した代物であり、元々はただの模造品だったが、レイナの能力で「本物」へと作り替えられた正真正銘の聖剣である。
どうしてわざわざ普通の武器ではなく、レイナが聖剣をまたも作り出しかというと、実を言えばレイナの腕力にもう普通の武器では耐え切れない事が判明した。
――先日、レイナは女騎士として活動する以上は他の騎士達と同様の扱いを受けなければならなかった。今までとは違い、リルも彼女の事を部下として扱い、とりあえずは訓練に参加させた。
新しく入った騎士達の実力を計るためにリルは直々に訓練の指導を行うと、レイナが訓練用の武器を使用した時に問題が発生した。それはレイナが本気で武器を扱うと武器その物が耐え切れずにすぐに壊れてしまう。
ケモノ王国の兵士の訓練の一つに「岩石崩し」と呼ばれる物が存在し、これは木刀で巨岩を破壊するという訓練だった。実際に普通の木刀で岩を破壊するなど不可能のように思えるが、この世界の人間は地球の人間よりも身体能力が高く、しかも戦技や魔法と呼ばれる力を扱える。実際にライオネル程の実力者は木刀で巨岩に亀裂を生じさせるほどの威力の一撃を生み出せた。
しかし、騎士達の中でライオネルに匹敵する程の力を持つ武芸者は存在せず、オウソウさえも木刀が砕け散るまで巨岩に叩きつけたが、結局は破壊には至らなかった。しかし、ここでレイナの番になると予想外の出来事が起きた。
『てりゃあっ!!』
気合の掛け声と共にレイナが木刀を振り下ろした瞬間、どんなに木刀を叩きつけられようとびくともしなかった巨岩に亀裂が走り、同時に木刀が砕け散った。その様子を見た団員達は唖然とした表情を浮かべ、レイナ自身も壊れた木刀と亀裂が走った巨岩を見て戸惑う。
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