第220話 大迷宮へ向けての準備

――数日後、遂にリルは白狼騎士団を全員引き連れて大迷宮へ向かう準備を開始した。この数日の間は新しく入った騎士達の一人一人の能力と性格を確認し、部隊分けを行う時に誰が部隊長に相応しいのかを選定する。その結果、30人の隊長と30の部隊が出来上がった。


今回の部隊に関しては大迷宮攻略のために急遽作り出された部隊に過ぎず、大迷宮の攻略が終わり次第に解散される予定だった。また、立場的にリルとチイは全部隊の管理を行い、各部隊と連絡を取って指示を出す立場となる。今まで通りに二人が率先して動いて大迷宮の攻略を行うわけにはいかない。


ガオ王子が謹慎処分を言い渡された事から、城内の殆どの家臣はリルが王位継承者となると確信し、そんな彼女を危険な目に遭わせる事を難色を示している。しかし、大迷宮の攻略を果たせばそれは歴史的な偉業であり、いずれこの国の王となるリルがその偉業を果たせば国中の誰もが彼女を王と認める正に千載一遇の機会である。今回の任務を成功させるか否かで彼女が王位に就けるかどうか決まるといっても過言ではなかった。




大迷宮へ挑む前に行う準備としてまずは一か月分の食糧、それと武器や防具の準備も行う。他にもケモノ王国では貴重になりつつある回復薬も用意する必要があり、この時に薬剤師のリリスが活躍する。彼女は国が保管していた薬草を許可された限りの範囲で利用し、一先ずは30名分の回復薬を用意した。これらを隊長に渡すと、回復薬を使用するときは判断を誤らないように注意を行う。



『いいですか?私の回復薬は少量でも効果を発揮します。なので回復薬を使用するときは一気に使わず、必要最低限の量で留めてください。それと迷宮内で発見した薬草は必ず私に届けてくださいよ。大迷宮に生えている薬草は地上の薬草よりも効果が高いですからね』



リリスは隊長たちに渡すときに念入りに注意を行い、必ず探索中に見つけた薬草は自分に渡すように告げる。ちなみにレア達の部隊は治癒魔導士のネコミンと文字変換の能力で治療を行えるレアがいるために用意されていない。



『さて、出発する前に君の服と住む場所も用意しないといけないな』

『服、ですか?』

『旅の時はともかく、女の子として過ごすならもっと可愛げのある服を用意しておいた方が良いだろう?』



リルの男にはよく分からない理論によって「レイナ」の姿で騎士となったレアは彼女の言葉通りに城内に専用の部屋を用意され、女物の服と下着を用意される。ちなみに最初から騎士団に所属していたチイ、ネコミン、ハンゾウ、リリスの4名とレイナに関しては騎士団の中でも別格扱いされ、他の騎士達よりも位は高い。


最初からリルに従っていた4名はともかく、加入時期に関しては黒狼騎士団の者達と殆ど変わりがないレイナがチイ達と同じ扱いを受ける事に不満を抱く者が現れるのではないかと危惧したが、そんな輩に対してリルは堂々と言い放つ。



『ここにいるレイナ君は勇者殿の一番のお気に入りだ。もしも彼女に何かあれば勇者殿が許さないから態度には気を付けるんだぞ』

『ちょっと!?』



堂々と騎士達の前でリルがレイナの紹介を行ったせいで、レイナは勇者であるレアのお気に入りの相手と認識されてしまい、騎士達の間でもぞんざいな扱いはされなくなる。それでも嫉妬する者は少なからず存在し、特にオウソウのような騎士は彼女の存在を煙たがった。



『ちっ……勇者の腰巾着め、偉そうにしおって』



廊下ですれ違った時にオウソウはレイナに対して陰口を叩き、そんな彼にレイナは何も言い返せずにため息を吐く事しか出来なかった。こんな事でこれから女騎士として上手くやっていけるのかという不安もあるが、レイナの気持ちはともかく大迷宮攻略のための準備は進み、遂に白狼騎士団は大迷宮へ向けて出発を開始した。



「行くぞ!!必ずや我々の手で大迷宮を攻略し、ケモノ王国の安泰を取り戻すんだ!!」

『おおっ!!』



リルの号令の元、白馬に跨った騎士達が続き、城下町を抜けて南方に存在する「巨塔の大迷宮」へと向かう。この際にリルは事前に黒狼騎士団に所属していた者達の鎧は白く染め上げ、正に白狼騎士団の名前に相応しい恰好にさせる。


純白の鎧を纏った騎士達の行進を見て民衆は何事かと驚くが、その先頭を歩くリルを見て遂に王女である彼女が騎士団を率いている姿を見て重大な任務を与えられた事を悟る。



「リルル王女様!!どうかお気を付けて!!」

「頑張って王女様~!!」

「ご武運をっ!!」



民衆の人気が高いリルは行進するだけでも数多くの人々の声援を受け、そんな彼等にリルは微笑みながら手を振る。そんな彼女を見ていると本当にこのくに王女である事をレイナは認識し、一方で民衆の期待に応えるために今回の任務を成功させなければという思いを抱く。



(巨塔の大迷宮か……どんな場所だろう)



ヒトノ帝国にてレイナは大迷宮に挑んだ事はあるが、今回の巨塔の大迷宮はリル達によるとヒトノ帝国の大迷宮よりも厄介な場所らしく、決して油断は出来ない。


だが、ヒトノ帝国にいた頃よりもレイナの側には心強い味方が存在し、レイナ自身も強くなった。この仲間達ならば共に戦えると信じてレイナはリルの後に続いた――

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