第219話 薬剤師リリスの価値
「現在、この国では深刻な薬草不足に陥ってます。その理由は大量の回復薬の生産のせいで薬草の栽培が追い付いていないからです」
「そんなに回復薬が必要なの?」
「当然ですね、この国の強みは薬草が最も育ちやすい環境だからです。だからこそヒトノ帝国はこの国から薬草を輸入しますし、それに薬草の質も高いんです。ですけど、回復薬の生産する場合は大量の薬草を消耗します」
「具体的にはどれくらい……?」
「素材として使用する薬草が多い程に回復薬の品質は高まります。だいたい、市販の回復薬に使用されている薬草は3~4つです。だけど、高品質な回復薬を生み出すにはこの倍も必要になりますからね。他にも薬草には色々と種類があるんですが、この国で自生している「三日月草」や「満月草」と呼ばれる薬草が最も回復薬の調合の素材として役立ちます」
「三日月草と満月草……」
「名前の通りに外見は三日月や、満月のような葉の形をした薬草。でも、どちらも魔物が好んで食べるから自然界では滅多に見つからない」
「なので栽培して薬草を増やすしかないんです。最も、今までの回復薬の製法では薬草を大量に消耗します。なので国中の薬剤師は新しい製法で薬草の消耗する数を増やし、それでいながら品質を落とさないように回復薬を調合するための研究を強いられています。全く、無茶な命令ですよ」
説明を受けたレアは現在のケモノ王国が薬草不足である事、その薬草を調合する薬剤師が重宝されている事を知る。リリスが薬剤師である以上は彼女も狙う輩は多く、白狼騎士団に所属する彼女が薬剤師として功績を立てれば上司であるリルの功績にもなるのでリリスの事を快く思わない輩は多いという。
ハンゾウは職業柄、影でリリスの護衛を行うのに適任のため、彼女は常日頃からリリスの側に控える必要がある。リリスを狙う者がいれば彼女が守り、あるいはリリスを狙う輩の始末も行う。
「拙者の役目はリリス殿の護衛なので、リリス殿からは離れられないでござる。だから今までの潜入活動では同行出来なかったのでござる」
「なるほど……薬剤師のリリスさんを他国へ潜入させるわけにもいかないもんね」
「そういう事です。そもそも私、戦闘ではなく後方支援が得意なんですよ。リルさん達が所有している回復薬も私が作った物ですからね」
「ああ、リリスの調合した回復薬は本当に良く効く。潜入活動を行う時は助かってるよ」
「ぷるぷるっ♪」
「うちのクロミンも中々美味かったと言ってます」
「いえいえ、それなら良かったです……って、私の回復薬をスライムのおやつに与えないで下さい!?」
レアの言葉にリリスは突っ込みを返すと、とりあえずはこの国の現状と薬剤師の価値を知ったレアは考え込む。薬草の問題に関して自分も何が出来る事はないのかと考えるが、上手く思いつかない。
(異世界小説のテンプレだと、地球の肥料とかを使えば植物が急速に育つとかはあるけど、そんなに上手くいくのかな……?)
この世界の植物が地球の肥料に適応するのかは分からないが、とりあえずは薬草の栽培に役立ちそうな道具を文字変換の能力で作り出してリリスに渡してみる事にした。レアは適当な道具を取り出して文字変換の能力を発動しようとした時、何時の間にか着替えたハンゾウが制服を差し出す。
「レア殿、これはお返しするでござる。拙者は自分の制服を持っているからこれはレア殿にお返しするでござる」
「あ、うん……制服か、またこういうのを着る羽目になるとは」
「すまないがこの国に居る間は我慢してくれ。私が陛下に頼んで何処かの領地を分けて貰えれば安心して君が暮らせる環境を用意できるが、今は我慢してくれ」
「はあ……分かりました」
女物の制服を受け取ったレアは仕方なく、今度は「女騎士」として生きていく事を覚悟するとひとまずは自分の部屋に戻る事にした。尚、単独行動だと危険なの城内存在するときは白狼騎士団の何人かと常に行動を共にするように気を付ける。
騎士団の誰かと常に行動を共にするのは不自然に思われないかとレアは考えたが、先日の件でレアは夜な夜な白狼騎士団の団員と肉体関係を築いているという噂は既に城内に知れ渡り、城内の女性の使用人からは冷ややかな視線で見られている。仕方ない事とは言え、今後はこんな視線にも耐えなければならないのかと嘆く。
(早く元の世界へ戻りたい……でも、その前に色々と問題を解決しないと駄目か)
ヒトノ帝国に残してきたクラスメイト達の事も気にかかり、他にもケモノ王国まで連れて来てくれたリル達の力にもならなければならない。ここまでの道中でリル達のお陰で命拾いした場面もあり、彼女達の力にもなりたいという気持ちはあった。
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