第217話 ハンゾウの能力

「リル殿、どういう事でござる?どうしてレア殿が女性に……いや、レイナ殿の姿に戻らないといけないのでござるか?」

「理由としては勇者として常に行動していると、他の人間達に狙われる可能性が高いからだね。他にも理由をあげるとしたらレイナという存在を既に国王様や他の人間も知っているのが理由だ。僕は帰還した際にレイナ君を国王様に騎士として入れる事を紹介した。なのに騎士団の中にレイナ君がいなかったら怪しまれるだろう?」

「おおっ!!言われ見れば確かにそうでござったな!!」



レイナという存在は国王との謁見の際に既に披露しているため、もしもこの状況でレイナがいなくなれば国王も怪しむだろう。レイナの外見はレアと似ているという点もあり、彼女の知る人間は印象深く記憶に残っているだろう。


先日、レアはレイナという存在を利用してギャンを追い詰め、彼を陥れた。しかし、それが原因でギャンの派閥に属していた者達はガオ王子を含めて勇者であるレアを憎んでいる。これから先は勇者として行動するときは一切油断は出来ず、命を狙われ続けると予想された。


それならばレイナとして行動すればレアは命を狙われる事はなく、勇者ではなくただの一介の騎士ならば行動を制限される事もない。彼女はあくまでも勇者と顔立ちが似ている少女にしか過ぎず、直接的に命を狙われる可能性は低い。



「これから先はレア君にはレイナ君として行動をしてもらい、必要になった場合はレア君としても活動してもらう。表向きは白狼騎士団は勇者と協力して巨塔の大迷宮に挑む予定だが、あくまでも活動を行うのはレア君ではなくレイナ君だ」

「なるほど……でも、この作戦だと俺(レア)とレイナが同一人物だと悟られないように注意しないといけないんですよね?それだと色々と大変なんじゃ……」

「大丈夫だ、そこでここにいるハンゾウの力を借りる」

「なるほど、そういう事でござったか」



レアは自分とレイナが同一人物だと気付かれる事を恐れるが、そんなレアの不安を拭うためにリルはハンゾウの肩に手を置く。ハンゾウは意図を察した様に頷き、レイナが所有していた制服に手を伸ばす。



「レイナ殿、それを貸して欲しいでござる」

「え?制服を?いったいどうするの?」

「いいからいいから……ほら、ハンゾウ。君の能力を見せてくれ」

「承知!!では少しだけ待っていて欲しいでござる」

「おおっ、またあれをやるんですね」

「あれか……」



ハンゾウは制服を受け取るとそのまま部屋の外へ抜け出し、彼女が何をやろうとして襟うのかリリスとチイは察したのかリルに振り返る。いったい、これから何が起きるのかとレアは不思議に思うと、やがて扉の方から予想外の人物が現れた。



「失礼します。これでどうでしょうか?」

「えっ……!?」





――姿を現したのはレイナと瓜二つの外見をした女性であり、先ほどリルが用意させた制服を着込んだ状態で彼女は部屋に入って来た。


唐突に自分の女性時の姿と瓜二つの外見を持つ人物の登場にレアは焦るが、それを見たリルは彼の反応をみて笑い声をあげる。



「ははははっ、驚いただろう?これがハンゾウの能力「変装」だ。彼女はありとあらゆる人物に変装する事が出来るんだよ。声や口調までそっくりに真似るんだから凄いだろう?」

「リルさん、レアさんを驚かせないでください。ごめんなさい、最初に説明しておくべきでしたね」

「ほ、本当にハンゾウさんなの?実はクロミンが人間に擬態しているんじゃ……」

「ぷるぷるっ(なんでやねんっ)」



レアは目の前に立つ「レイナ」の恰好に変装したハンゾウに動揺を隠せず、彼女が部屋を抜け出してから30秒も経過しないうちに自分そっくりに変装して戻って来た事に動揺を隠せない。リル曰く、これが「忍者」であるハンゾウの能力の一つらしい。



「リル様はあらゆる人物に変装できるといったけど、正確に言えば俺は自分の体形に近い人間にしか化ける事は出来ないんだよ。だから身長が小さいチイさんや、逆に身長が高いリルさんには変装できないわけ」

「へえ、そうだったのか……それにしてもこうしてみると、本当に女になった時の俺にそっくりだな。でも、声はなんか変な感じがする」

「自分が発している声と、他人が聞く自分の声は違うように聞こえるらしいですからね。少なくとも私達が聞く限りでは御二人の声はそっくりですよ」

「でも、レイナの方がレアより少し声が高い気がする」

「女性と男性では声の性質が異なりますからね。さあ、もう十分でしょう。変装を解いてください」

「分かったでござる」

「わあっ!?元に戻った!?」



一瞬だけレアが目を話すと瞬時にハンゾウはレイナの姿から元の姿へと戻る。先ほどまでは間違いなくレイナの姿で話していたのだが、一瞬のうちにレアの前には制服姿になったハンゾウが立っていた。


ここまでくると変装というよりも洗脳ように近く、他の人間にはハンゾウの姿がレアのように見えるように洗脳していたのではないかという程の変わり様だった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る