第216話 黒狼騎士団の不安

「それに不安は他にもある。まず、黒狼騎士団が白狼騎士団に加入した事で人数が一気に増えた。チイ、黒狼騎士団の団員数はどれくらいだ?」

「300人は超えます。その中には恐らくガオ王子と内通している者もいるかと……」

「むうっ……拙者に後輩が出来たのは嬉しいでござるが、一気に増えすぎて名前が覚えられるのか不安でござる」

「心配するところはそこ?」

「でも、人が増えた事で色々と出来るようになったと思う」



黒狼騎士団の加入によって白狼騎士団の団員数は300を超え、しかも一人一人が武芸者なのだから戦力としても期待は出来る。しかし、急な加入なのでリルに対して内心では忠誠を認めていない者も多いだろう。


今後の事を考えればリルは騎士団の団員に忠誠を誓わせる必要があり、彼等と接する必要がある。だが、オウソウのように性格に難がある者も他に存在する可能性も高く、人数が増えたからと言っていい事ばかりではない。



「よし、とりあえずは騎士団の部隊分けを行うとしよう。10人ずつに隊を分けて部隊を統率する人員の選出は私とチイがやろう」

「10人という事は……30の部隊に分けるんですか?」

「大迷宮のような場所の場合、あまりに大人数で動くと動きにくい場合が多いんだ。実際にヒトノ帝国の大迷宮で苦労させられただろう?」



レアはヒトノ帝国の大迷宮に挑んだ時を思い出し、確かに同行していたギルドマスターが居なくなった途端、冒険者達は手柄を争うために解散してしまった。結果的には別々に別れたせいで半分近くの人間が死んでしまい、レア達も危うく命を落としかける事態に陥った。


大迷宮のような場所の探索の場合は基本的に人数は10人程度が最善だと判断され、これぐらいの人数ならば同時に行動していても問題はないと言われている。だが、そうなるとこれまで通りにレア達は行動を共にする機会が少なくなるかもしれない。



「隊を分ける場合、当然だが団長である私と副団長のチイも部隊長として行動する事が多くなるだろう。つまり、一緒に行動する事が出来ない。レア君の場合は経験不足という点で部隊長を勤めるのは難しいだろうしね」

「はい、他の人をいきなり指揮しろと言われても無理です……」

「そこでこれからレア君専用の特別部隊を作りたいと思う。まず、隊員はここにいるネコミンとハンゾウ、それとクロミンとサンちゃんにも入ってもらう。リリスはおまけね」

「拙者もでござるか?」

「ぷるぷるっ?」

「きゅろっ?」

「誰がおまけですかっ」



リルの提案によると彼女は白狼騎士団を今後は部隊分けを行い、その中にレアを隊長とした特殊部隊を用意する。団員はレナの素性を知っている人間に限り、これならばレアが緊張する必要もなく、安全に行動出来るだろうと判断した。



「レア君は隊長といっても、別に無理に他の人間を指導する必要はない。勇者という名目上、君には隊長を勤めて貰うがどうしても無理だと判断すればここにいるハンゾウやリリスに助けてもらうといい。彼女達は何かと役に立つよ」

「その言い方だと私達が都合のいい女のように聞こえますね」

「拙者に頼って欲しいでござる」

「あ、ありがとうございます……じゃあ、よろしくねハン・チャンさん」

「ハンちゃんでござるよ」

「私も頼ってもいい」



今後はレアはハンゾウとネコミンとリリス、そしてクロミンとサンを含めた6人(?)で行動する事が決まると、リルは次の問題の対処を考える。



「さて、次に問題があるとすれば巨塔の大迷宮の攻略の際、勇者であるレア君に近付こうとする輩がいるかもしれない。それを阻止するためにはやはりレイナ君の力が必要になるね」

「レイナ?それはレア殿の女装……ではなかった、女性時の名前でござろう」

「まあ、そうだけど……本当にあの作戦を実行するんですか」

「勿論だとも、リリス用意はしてあるか?」

「はいはい、ちゃんと持ってきましたよ。レイナさんのサイズに合わせた制服です」



リリスは昨晩の内に用意しておいた白狼騎士団の制服を取り出すと、レアに手渡す。それを見たハンゾウは不思議そうに首を傾げた。



「どうして女性物の制服をレア殿に……は、まさかそれをレア殿が着るのでござるか!?俗に言う「男の娘」と書いて「おとこのこ」と呼ぶあれでござるか!?」

「なんでそういう知識を持ってんですかこの忍者は……まあ、着るのは間違いではありませんけどね」

「その通りだ。これはレア君が女性になった時に用意した制服だ」

「ううっ……折角男に戻れたと思ったのに。結局は女の子に戻らないと駄目なのか……はあっ」

「よしよし……」



レアは渡された制服を見てため息を吐き出し、そんな彼を慰めるようにネコミンが頭を撫でる。事情を知らないハンゾウはそんな彼等の反応を見て不思議に思う。

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