第215話 チイVSオウソウ

「これで終わりだっ!!」

「チイさん!!」

「大丈夫だ、チイを信じろ」



槍を構え、チイに向けて突き刺そうとしてきたオウソウを見てレアは反射的に声を上げるが、それをリルが制す。チイは迫りくる槍の刃先に対して笑みを浮かべ、両手の短剣を構えると、刃を重ね合わせて槍の軌道を軽く受け流す。



「ぬうっ!?」

「どうした?その程度か?」

「ぐっ、舐めるな……乱れ突き!!」



オウソウは槍を受け流された事に怒りを抱き、今度は連続で突きを繰り出す。だが、それに対してチイは焦る様子も見せずに両手の短剣で全ての攻撃を受け流す。



「どうした!!その程度の攻撃で私を倒せると思うのか!?」

「こ、この小娘っ……!!」



戦技や技能も使わずにチイはオウソウの攻撃を冷静に全て受け流すと、それを見たレアは驚愕する。そんな彼に対してリルとネコミンが自慢げに答えた。



「チイの戦い方はよく見ておくといい。戦技や技能を扱わずとも戦闘に役立つ技術はいくらでもある」

「チイは強い、だから副団長を勤めている」

「凄い……あんな事、俺には真似できない」



チイの動作は獣人族特融の身体能力と動体視力の高さで攻撃を見切り、迫りくる槍を短剣で受け流す事で攻撃の軌道を逸らす。今のレアでは到底真似できない技量であり、しかも驚くべき事は彼女の動作は技能や戦技の力ではない。


これまでの戦闘で相手との相性の問題でチイの実力は発揮できなかったが、彼女は若いながらに副団長の地位を与えられたのは技量の高さを認められたからである。決して外見だけでリルに認められたわけではなく、副団長の座に相応しい実力を持っていた。



「こ、この……」

「ふんっ、無暗に戦技を使い過ぎだ。体力の配分も考えずに戦技を乱用すれば精度も落ちるし、体力も余計に消耗する。そして……隙を見せればこんな結果になる!!」

「ぐふぅっ!?」



チイは隙を突いて甲冑の隙間に短剣を突き刺し、容赦なくオウソウの右肩に刃を食い込ませる。怪我自体はそれほど深くはないが、右肩を負傷した事でオウソウはランスを取りこぼしてしまい、その場に膝を付く。そんな彼にチイは堂々と言い放った。



「お前に副団長になる資格はない!!下がれ、三下めっ!!」

「く、くそぉっ……!!」

「勝負有り、だ」



リルがチイの勝利を認めると、レアがオウソウを倒したときよりも拍手が響き渡り、彼女の見事な戦いぶりに誰もが称賛を送る。そんな皆の反応にチイは少し照れくさそうに頬を赤く染めて顔を反らす。


一方でオウソウの方は大見得を切ったのに恥を晒され、憎々し気にレアとチイを睨みつける。だが、そんな彼の視線に気付いたリルは淡々と告げた。



「オウソウ、お前は一からやり直せ。お前に王国一の武人を名乗る資格はない」

「な、なんだと!?貴様……!!」

「まずはお前の態度から矯正する必要があるようだな。チイ、ハンゾウ、今後はこの男の指導は厳しく行うように!!」

「分かりました!!」

「承知!!」

「ぐうっ……おのれ、今日の事は絶対に忘れんぞっ……!!」



オウソウは悔し気な表情を浮かべて武器を拾い上げると引き下がり、他の騎士達はそんな彼に哀れみの視線を向ける。


あれほど屈辱的な敗北をしながらまだ素直に受け入れられない彼に呆れるしかなく、気を取り直してリルは残された騎士団に語り掛ける。



「一先ず、今日の所は解散とする。今後の騎士団の活動内容に関しては明日、改めて発表する。寝泊まりに関しては城内の兵士の宿舎を利用してくれ、既に話は通してある」

『はっ!!』



リルの言葉に黒狼騎士団の騎士達は従うと、改めて本日から彼等は白狼騎士団へと加入を果たし、今後は白狼騎士団として行動する事が決まった――






――それからしばらく時間が経過すると、レア達はリルの部屋にて話し合いを行う。ちなみに部屋の中にはずっと留守番をしていたサンとクロミンも存在し、二人は放置されていた事に異議を申し立てるようにレアの身体に纏わりつく。



「ぷるぷるっ!!」

「きゅろっ!!レア、おそいっ!!」

「いててっ……ごめん、ごめんってば……」

「ほう、サンちゃんも大分言葉を話せるようになったな。この調子なら普通に話せるようになるのも時間の問題かもしれないな」

「私が頑張って教えた。えっへん」



サンも多少だが言葉を話せるようになり、レアの膝の上に座り込む。クロミンもレアの頭の上が気に入ったらしく、そんな二人をレアは宥める。



「よ~しよしよし……二人ともいい子にしてて偉いね~」

「きゅろろっ♪」

「ぷるぷるっ♪」

「全く、こうしてみると兄妹というよりも親子だな……それよりもリル様、クロミンはともかく、サンは本当に騎士団に入れるのですか?」

「仕方ないだろう。私達以外に面倒を見れる者はいないし、それにケモノ王国では1匹しかいないサンドワームだ。放置するのはまずいだろう」

「きゅろっ?」



サンは元々はケモノ王国で1体だけ残ったサンドワームであり、現在はレアの能力でダークエルフになってはいるが、戦力的に考えても彼女は側に置いておきたかった。

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