第214話 副団長の実力
「これが勇者の力だ!!彼はまだこの世界に召喚されてから一か月程度だが、既にその技量はライオネル大将軍にも匹敵する!!それに彼にしか扱えない加護の力を持っている!!今後、白狼騎士団の中に置いて勇者殿は私のもう一人の副団長として働いてもらう!!」
「リルル王女!!質問があります、よろしいでしょうか?」
「許可しよう。何か聞きたい事があるのか?」
青年の騎士が腕を上げると、リルは質問の許可を与えると彼は緊張気味にレアに視線を向け、彼が装備しているアスカロンに視線を向けた。
「その、勇者様が装備している剣は相当な業物だと見受けますが、いったいなんという名前なのでしょうか?」
「なるほど、剣が気になるのか。ならば勇者殿が答えてくれ?」
「え?いいんですか?」
「ああ、どうせ隠していてもいずれは知られるだろうからな」
レアはリルの言葉に驚くが、確かに今後はアスカロンを使うとなればその存在を何時までも隠し通せるはずがない。大盾を簡単に切り裂いた剣の切れ味を見れば誰だって気になるのは当たり前の話であり、レアはアスカロンを抜いて皆に見せつけた。
「この剣は……いや、この聖剣の名前はアスカロンです!!」
「あ、アスカロンだって……!?」
「失われた聖剣……!?」
「まさか、実在したというのか!?」
「アスカロンだと……!?」
アスカロンの名前を口にすると騎士達に動揺が走り、それほどまでにアスカロンの知名度は高かった。伝説の聖剣の一振りにしてその刃は竜の鱗を切り裂き、万物を切り裂く聖剣だと恐れられた。
但し、現在はアスカロンの所在は不明で実際に名前は有名でも外見の形状に関しては後世にも伝わっていない。
「ど、どうして勇者様がアスカロンを……?」
「えっと、この聖剣は……ヒトノ帝国を出る前に挑んだ大迷宮で見つけ出しました」
「あの大迷宮に!?」
「という事は勇者様は大迷宮に挑戦したのか……!!」
大迷宮で発見したという話はレアの出まかせだが、意外と騎士達はレアの話を真に受け、あっさりと信じてしまう。実際に過去の歴史上で聖剣が大迷宮に封印されたという話はいくつも残っており、アスカロンも大迷宮の中で封じられていたとしてもおかしくはなかった。
聖剣アスカロンも所有しているレアに対して騎士達は本当に彼が勇者であると実感する。一方で彼等がレアに対して尊敬の念を抱くのを感じ取ったリルは安心する一方、他に挑戦者はいないのかを問う。
「他に勇者殿に挑みたい者はいないのか?」
「い、いや……」
「僕達如きでは勇者様の相手なんて出来ませんよ……」
「私は勇者様の力を認めます!!」
リルの言葉にオウソウを倒したレアに挑もうとする人間は存在せず、これで勇者としての威厳を守られたレアは安心する。しかし、武器を投げ捨てたオウソウが不満をあらわにした。
「待て!!先ほどの勝負は納得いかん!!」
「またお前か……さっき、敗北を認めたばかりだろう?」
「違う!!俺が負けたのはそいつがアスカロンを持っていたからだ!!武器がアスカロンでなければ俺が負けるはずがない!!」
「往生際の悪い男め……どうするレア君?」
「どうすると言われても……」
レアはオウソウの言葉に困り果て、確かにアスカロンでなければ彼の大盾を切断して降参に追い込む事は出来なかったかもしれない。しかし、アスカロンを使う前からレアとの戦闘で彼に翻弄されていたオウソウがレアに勝てるとは誰も思わず、ここで先ほど質問をした青年の騎士がオウソウに苦言を告げる。
「オウソウ、さっきの勝負はお前の負けだ!!騎士ならば潔く敗北を認めろっ!!」
「うるさい、青二才は黙っていろ!!俺は負けてなどいない!!もう一度だ、もう一度勝負をしろ!!」
「やれやれ、我儘な奴だ……オウソウ、そこまでいうのならば今度はここにいるチイと戦え。彼女も我が騎士団の副団長だ」
「何だと?」
「ふんっ……いいだろう、掛かって来い」
リルに指名されたチイはオウソウに顔を向けると、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。その態度に苛立ちを抱いたオウソウは落ちていた槍を拾い上げると、チイと向かい合う。そして彼女の武器が短剣だと知ると、小馬鹿にしたような態度を取る。
「ふん、こんな小娘が副団長だと?ふざけおって……いいだろう、この女に勝ったら俺は副団長と認めるのか!?」
「ああ、約束しよう」
「いいだろう!!ではいくぞ、小娘っ!!」
レアと比べて今度は相手が小柄な少女である事にオウソウは勝機があると判断すると、ランスを掲げてチイに突っ込む。レベルを考えるとオウソウの方がずっと高いのだが、チイは恐れもせずに短剣を引き抜くとオウソウと向かい合う。
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