第199話 国王との謁見
「うん、やっぱりこっちの料理は美味しいな。食材の質がいいのかもしれない」
「ぷるぷるっ(あちちっ)」
レアはパンを食べる一方、クロミンにシチューを与えながら今後は自分がどのように扱われるのかを考える。今の所はヒトノ帝国に居た頃と違い、大切に扱われているように感じられた。
しかし、勇者として迎えられた以上は国の厄介事を解決するように依頼されるかもしれないという話をリルから伺っていたレアは食事を終えると武器を取り出す。文字変換の能力があるとはいえ、もしも敵と戦う場合に陥った時に備えて訓練を行う。
(俺はどうも戦技や魔法を覚えられないみたいだし……地道に鍛えるしかないか)
勇者でありながら他の勇者と違ってレアは戦闘職の称号を持つ人間が扱う「戦技」魔術師の「魔法」と呼ばれる能力を覚える事が出来ない。だが、かわりにSPを消費して覚えた技能は多数存在し、それらを利用してレアは今まで強敵との戦闘に勝利してきた。
(文字変換の能力で地球の武器を作り出すのもいいけど……やっぱり、文字変換の能力に頼れないときの戦闘に備えてちゃんと剣も扱えるようにならないとな)
素振りを行いながらレアは先日に襲ってきた盗賊の事を思い出し、彼等が死ぬ瞬間を思い出して無意識に身体が止まってしまう。仕方がない事だとはいえ、いずれは自分も人を殺す日が訪れるかもしれないという現実に恐れを抱く。
(……今までは考えないようにしてたけど、もしかしたら本当に人を斬る時がくるかもしれない。でも、俺に本当に人が切れるのか?)
これまでに人型の魔物や、あるいは吸血鬼といった魔人族を倒したレアだが、本当の意味で正真正銘の人間を斬った事はない。だが、リル達と行動を共にする以上、彼女と敵対する人間と交戦する可能性は高い。
リルに関わらずともこの世界では地球よりも治安が悪く、当たり前の様に盗賊などが存在する。そんな輩を相手にレアは戦えるのか自信はなかった。だが、戦わなければ自分が殺されるだけであり、覚悟を決めるようにレアは剣を振る。
(戦うんだ……元の世界に帰るためにも)
レアはここでこの国に訪れた理由を思い出し、このケモノ王国では過去に勇者が召喚されたという話をリルから聞いていた。その勇者を召喚する際の経緯を聞けば元の世界に戻れる可能性もあり、早速だがレアはリル達が訪れればその話を聞こうとした時に扉がノックされた。
『勇者様、国王陛下がお会いしたいそうです』
――唐突に国王に呼び出されたレアは戸惑うが、迎えに訪れた兵士と共に玉座の間へと向かう。そこには書類仕事を行う国王と大臣の姿が存在し、生憎とリル達の姿は見えなかった。レアが玉座の間に訪れると大臣と兵士達は即座に並び、国王は彼を笑顔で迎え入れた。
「おお、勇者殿よく来てくれた。ささ、遠慮せずにこちらへ来てくれ」
「はあ……分かりました」
国王に呼びだれたレアは不思議に思いながらも彼に近付こうとすると、その途中で異様にいかつい顔立ちの鎧を纏った大男が存在する事に気付く。ただの兵士ではなく、恐らくは将軍だと思われるが、国王に近付こうとした途端にレアを睨みつける。
将軍らしき大男に睨まれたレアは驚くが、その反応を見て大男は小馬鹿にしたような表情を抱き、そんな彼を見てレアは眉を顰めた。
(何だこの人……気配感知が発動した。という事は俺に対して敵意を抱いている?)
レアが習得している気配感知の技能は他の生物の位置を調べるだけではなく、その生物が敵意や悪意を見抜く能力もある。レアは明確に自分に対して良い感情を抱いていない大男の反応に疑問を抱くが、国王の前に赴く。
「勇者殿、昨日は本当にすまなかったのう……怪我の具合はどうだ?」
「大丈夫です、もう傷はすっかりと治りました」
「おお、それは良かった。それと……昨日はその、お楽しみだったようだな」
国王はにやにやとした表情を浮かべ、レアは昨日の件が知られている事を知り、とりあえずは苦笑いを浮かべる。
「いやはや、まさか勇者殿がこんなにも手が早い御方だとは思わなかったぞ。おっと、別に責めているわけではないぞ?何を隠そう、儂も若い頃は色々な女性と関係を持ったからのう」
「はあ……」
「しかし、まさかリルの白狼騎士団の婦女子たちに手を出すとは……その、まさかとは思うがリルともそういう関係なのか?」
「え?いや、違いますよ……リルさんとはただの友達です。それに本人も女の子にしか興味ないと言ってました」
「そ、そうか……それを聞いて安心したぞ。だが、よりにもよってあのリルが集めた者達に手を出すとは……勇者殿も中々に人が悪い」
「そうですかね……あはは」
国王はリルと関係を結んでいないというレアの発言に安心する。いくら義理とはいえ、自分の娘が何人もの女子に手を出す輩と関係を築いていたとすればいい気分はしないだろう。
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