第198話 ガーム将軍

「さて、これで君が意外と女好きであるという事が知られるだろう。勿論、陛下もこの程度で諦めたりはしない。きっと、君を取り入れるためにあの手この手で仕掛けてくるだろう。もしかしたら私にも誘惑しろと言い出すかもしれない」

「ええっ!?いくらなんでもそれは……」

「十分にあり得る話さ、それだけ勇者という存在は大きいんだ」



リル曰く、この世界における勇者とは本当に特別な存在らしく、そもそもヒトノ帝国のレアに対する扱いがおかしかったのはウサンのせいにしか過ぎない。もしも彼がいなければレアは普通に他の勇者ほどではないが好待遇を受けていただろう。


勇者の子孫も勇者ほどではないが優秀な人間が多く、実際にヒトノ帝国の王族であるアリシアのように勇者の血を継ぐ者が聖剣に選ばれたりもする。もしもウサンに嫌われていなければ今頃はレアもヒトノ帝国に居た時に先ほどのように取り込もうとされたかもしれない。



「王女である僕が勇者のレア君と結ばれれば君をこの国に留まらせる事が出来るし、それに子供が生まれたらその子供は勇者の血筋でもある。最も子供が生まれてしまえばガオを王位に就かせようとしたい陛下にとっては脅威になりえる存在だから有り得ない話だが……」

「え?でも、ガオ王子はリルさんを殺そうとしたんですよ?それにガオ王子の後ろ盾のギャン宰相もいなくなったのに……」

「ガオ王子の派閥は残念ながらギャン宰相だけじゃないんですよ。勿論、ギャン宰相こそがガオ王子の最大の味方だった事は事実です。ですけど、ガオ王子に味方する勢力はまだ残っています」

「ガオの祖父であり、北方の領地を支配するガームという将軍がいる。この男は10万の精鋭を抱え、いくつもの要害に砦を建設して領地を守っている男だ」



王都においてはガオの味方はギャン宰相が後ろ盾ではあったが、彼の祖父であるガームも彼を王位に就かせようとしている。この国の将軍の中では最大の戦力を保有しており、この王都を守護する兵の3倍近くの兵数を管理している。



「ガームは若い頃は大将軍として名を馳せ、荒れ果てた北方の領地を開墾して人が暮らせる環境を整えた功績もある。兵士からの人望も厚く、先代の王も先々代の王からも信頼が扱った。しかも陛下とは幼馴染の関係にある」

「そんな凄い人がガオ王子の味方なんですか?」

「ああ、正直に言えば私はギャンよりもガーム将軍の方が恐ろしい。その気になれば彼は軍隊を率いて王都に攻め込む事だってできるだろう。最も彼自身は陛下に忠誠を誓っているのでそんな真似をするような男ではない事は分かっているが……」

「あのギャンをやっと捕まえたというのに安心する暇もないでござるな」

「そうとも言えませんよ?今回の件でギャンの悪事は暴かれましたし、勇者を連れ帰って来た王女様も陛下からの信頼を得たと考えれば悪い話ではありません。それに今回の件でガオ王子が処罰を受ける事に関してはガーム将軍も何も言えませんよ」



ギャン宰相が捕まった事で彼の取り調べが行われ、これまでのギャンの悪事が暴かれれば彼に味方していたガオ王子も無事では済まない。とりあえずは最初にリルが国王に要求した彼の処罰に関しては実行されるのは間違いなく、黒狼騎士団の解散は実行されるだろう。


ガームがいくら味方をしているといっても、今回の件は陛下が判断した事なので逆らう事は出来ない。また、ガオに関しても一番の協力者を失った事に変わりはないため、彼が王都に戻って来たときはどのような反応をするのかリルは楽しみでならない。



「ふふふっ……ガオめ、私を殺そうとした報いは受けて貰うぞ。姉より勝る弟などいない事を教えてやろう」

「その台詞、なんか変なフラグが立ちそうな気がするんですけど」

「ふらぐ?ふらぐとは何だ?」

「そのふらぐという言葉は分かりませんけど、意味は何となく理解しました。王女様、こんな時こそ油断してはいけませんよ。足元をすくわれないように気を付けてください」

「ああ、分かっている。さてと……とりあえずの所は今日はもう帰らせてもらうよ。それと、クロミンは念のために君の側に残しておくよ。もしも何かあった時はクロミンを変身させて逃げてくれ」

「はい、分かりました。頼んだよクロミン」

「ぷるぷるっ♪」



レアはクロミンを抱き上げると嬉しそうにクロミンは「任せて!!」という風に震え、護衛役として傍に控える。他の者達は一旦引き返し、明日また話し合う事にした――






――翌日、特に夜中の間に襲撃や夜這いを仕掛けられる事もなくレアは目を覚ますと、朝食が運ばれてきた。今回の食事に関して滋養強壮の効果が高い料理ではなく、普通のシチューとパンが用意されていた。念のために解析の能力で料理を調べた後、毒が入っていない事を確かめるとレアは食事を味わう。

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