第181話 入れ替え
「城門が見えてきた。ネコミン、尾行している奴等の様子はどうだ?」
「まだ追ってきてる……けど、そろそろ何処かで馬か狼種に乗り換えると思う」
「狼種?」
「シロやクロのような狼の魔獣の事だ。最も白狼種と黒狼種を飼っているのはリル様ぐらいだがな」
「「ウォンッ!!」」
チイの言葉にシロとクロが元気よく返事を行い、レイナは獣人国ではてっきり白狼種と黒狼種を馬代わりに利用していると思っていたので意外に思う。最もここまでの旅路で馬を乗りこなす者も多く見てきたため、獣人国でも馬は扱われているらしい。
考えている間にもレイナ達は城門まで辿り着くと、兵士達はチイとネコミンの恰好を見て慌てて敬礼を行う。現在の二人は騎士服の姿となっており、白狼騎士団の紋章である「白狼」が刻まれたメダルを見せつける。
「白狼騎士団、副団長のチイだ!!王命を受け、城門を通過するぞ!!」
「同じく白狼騎士団隊員のネコミン……こっちは新人のレイナ、通ってもいい?」
「は、はい!!白狼騎士団の皆様が来れば通すように命令は受けています!!ですが、夜を迎えると城門を閉じますので注意してください!!」
「分かっている、そんなに時間は掛からない。すぐに通させてもらうぞ、それと怪しい人間がいたらしっかりと検問を行えっ!!」
『はっ!!』
チイは手短に城門の兵士達に通過する事を告げると、尾行者を足止めさせるために兵士に注意を行う。時間帯はそろそろ城門の閉鎖時間を迎えようとしており、この機を逃さずに早急へ城門を潜り抜けてチイ達は王都の外へ飛び出す。
それからしばらくは草原を駆け抜け、尾行者が追跡していないのか様子を伺う。ある程度まで王都を離れ、人気のない場所に移動する必要があったため、ネコミンがしきりに鼻を鳴らして周囲を警戒する。
「すんすん……大丈夫、周りには人の臭いはしない」
「今の所は追手が見えないな……よし、あそこに行こう」
チイは草原に流れている小川を発見し、見通しが良い事と隠れられる場所が近くに存在しない事を確かめると、急いで移動を行う。そしてレイナを下ろすと、周囲を警戒しながら着替えるように促す。
「よし、ここなら大丈夫だろう。すぐに着替えるんだ、他の人間に見つかる前に早くしろ!!」
「は、はい……よいしょっと……」
「ば、馬鹿!!目の前で着替える奴があるか!!ちゃんと私達が離れてから着替えろ!!」
「ええっ……」
「チイ、落ち着いて……女の子同士だから今は恥ずかしがる必要はない」
目の前で服を脱ぎ始めたレイナにチイは焦るが、ネコミンが冷静に突っ込みを行う。レイナはすぐに下着姿になると、リルの助言を思い出す。
『着替える服は出来る限り異界……いや、レイナ君の世界の服にしてくれ。その方が勇者だと信じられやすいと思う』
リルの言葉を思い出したレイナは大迷宮で自分の「一軒家」を作り出した時、クローゼットの中に入っていた「学生服」を取り出す。こちらの世界に来てからこちらの人間が身に着ける衣服を見てきたが、学生服のようなデザインはなかったのでこれを斬る事にした。
「う~ん……これ、着れるかな?」
「レイナ、手伝う?」
「あ、うん……じゃあ、手伝って貰っていい?」
「ああ、もう……早くしてくれ、見つかる前に着替えなければ……」
学生服を掴んで困った表情を浮かべるレイナに対し、ネコミンが着替えを手伝ってもらう――
――準備を終えると、無事に学生服を身に着けたレイナは少し苦しそうな表情を浮かべながらも今度は顔の手入れを行う。手先が器用なチイにも手伝ってもらい、無事に準備を終えると二人の前には召喚されたばかりの頃のレイナ、改め「レア」が立っていた。
「ふうっ……どんな感じ?」
「おおっ……ちゃんと男の子になってる」
「こうしてみると、女の姿の時と顔立ちはあまり変わりないな」
「コンプレックスなんだからそこは指摘しないでよ」
「よし、では戻るぞ。だが、そのままの状態で戻るわけにはいかない。まずはこれで身体を隠せ」
チイはフードを取り出すとレアの身体に纏わせ、これで遠目からレアの姿を見破られる事はない。チイはすぐに着替えを終えたレイナをシロに乗せると、ネコミンが後ろに乗り込む。
「レイナ……いや、今はレアと呼んだ方が良い?」
「うん、この恰好の時はレアと呼んで欲しいかな」
「分かった。ならこれからレアと呼ぶ」
「間違っても他の人間がいる時に名前を間違えるんじゃないぞ。正体を気付かれる恐れがあるからな……よし、しばらく時間が経過したら戻ろう」
「すぐに戻らないの?」
「あまりに早く帰りすぎると怪しまれる可能性があるからな。城門が閉鎖される前の時間帯になった戻ろう」
時刻は夕方を迎えており、間もなく王都の城門が閉じられる時間帯を迎える。チイは敢えて時間をおいて戻る事を提案すると、その間に周囲の警戒を行う。
幸いというべきかギャンが送り付けた尾行者が現れる様子はなく、恐らくは王都の城門の兵士達に足止めを喰らったか、あるいはチイ達が戻ってくるのを待ち構えているのだろう。
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