第182話 白狼騎士団の人気

――時刻が夕方を迎え、城門が閉鎖される寸前にチイ達は引き返す。兵士達はフードを纏った人物を連れ帰ったチイとネコミンに驚くが、事前に話を聞いていたので彼女達が連れて帰ってきた人物が勇者だと悟る。



「お帰りなさいませ、チイ副団長……その御方が例の?」

「ああ、そうだ。言っておくが、勇者の存在を不用意に知られるわけにはいかない。悪いがこのまま連れて帰らせてもらうぞ」

「そ、そうですか……分かりました。お気を付けください」



チイの言葉を聞いて兵士達は戸惑うが、追及せずにチイとネコミンを通す。城まで二人は怪しまれないようにフードで覆い隠した人物を移動させる。



「……チイ、尾行されてる」

「ああ、気付いている。今度は逃すつもりはなさそうだな」



街道を移動中、チイは直感、ネコミンは嗅覚で自分達が尾行されている事に気付く。どうやら勇者を連れ帰ったチイ達を狙うあたり、恐らくはギャンが送り込んだ刺客だと考えられ、どうやらチイ達を始末するつもりらしい。


殺気を感じ取った二人はシロとクロに目配せを行い、チイは自分の背中に乗る人物に声を掛けて逃げる事を伝える。



「いいか、しっかりと私に掴まるんだぞ。絶対に離れるなよ」

「…………」



フードで身を隠した人物は頷くと、ネコミンはその様子を見て自分が乗り込んでいるシロの頭を撫でながら街道の様子を伺う。間もなく時刻は夕方から夜を迎えようとしているので人は少なくなってきたが、それでも無人とは言えない。


人混みに紛れて急に襲われるより、自分達が敢えて人気のない場所に逃げ出した方が安全だと判断したチイとネコミンは目配せを行い、左右に広がった道にて二手に分かれた。



「行け!!クロ!!」

「シロ、頑張って!!」

「「ウォンッ!!」」

「なっ……逃がすな!!捕まえろっ!!」



王城へ向かうと思いこんでいた尾行者達は二人の行動に驚くが、すぐに自分達の狙いに気付かれたと判断して追跡を開始した。



「すまない、通してくれ!!」

「ウォ~ンッ!!」

「うわっ!?」

「な、何だ!?」

「おい、気を付けろよ姉ちゃん1!」



人が少なくなってきたとはいえ、街道には一般人も多く、チイともう一人を乗せたクロは彼等を避けて走らなければならなかったので全速力は出せない。一方で追跡者の方は獣人族の優れた身体能力とフットワークを生かし、上手く人混みを避けながら追跡を行う。


障害物さえなければクロの脚力で十分に逃げ切れただろうが、街道に一般人が存在する限りは撒く事は難しい。屋根の上に逃げるという手段も使えず、もしも人を二人を乗せた状態では流石のクロでも屋根の上を飛び回る事は出来ない。



「待て!!逃げられると思うなっ!!」

「追い込め、先回りしろっ!!」

「な、何だなんだ!?何の騒ぎだ!?」

「どうしたってんだ!?」



チイとフードで覆い隠した人物を乗せたクロを十数名の一般人に化けた刺客が追いかける光景に街道の住民達は戸惑うが、ある程度まで逃げるとチイは笑みを浮かべ、背中にしがみつく人物に合図を送る。



「よし、飛ぶぞ!!」

「きゅろろっ!!」

「ぷるるんっ!!」

『な、なにぃっ!?』



逃走の際中、チイはクロの背中から跳躍すると、そのまま近くの建物の屋根の上へと移動を行う。その際に彼女の背中に抱き着いていたフードで覆い隠した人物の正体も露わになり、フードの中から頭にクロミンを乗せた少女が出てきた。


二人を追跡していた刺客たちはチイに張り付いた少女の顔を見て驚き、勇者が女の子だったのか動揺する。しかし、すぐに彼等はリルが連れ帰ったのは男性の勇者である事を国王に報告していた事をギャンから受けており、すぐに少女が「影武者」だと見抜く。



「そ、そうか……こいつは偽物だ!!本物の勇者じゃないぞ!!」

「くそ、我等を騙したか小娘!!」

「ふん、今頃気付いたのか!!生憎だが本物の勇者はもう当の昔にここへ訪れているぞ!!」

「きゅろろ~」

「ぷるるんっ♪」



チイはサンを背負った状態で自分達を追跡してきた者達に小馬鹿にした態度を取ると、クロミンも楽しそうに頭の上を跳ねる。それを見た追跡者達は自分達が嵌められた事に気付き、同時に怒りを抱く。



「貴様……!!生かしては帰さんぞ!!」

「おい、さっきから何を騒いでんだてめえらっ!!」

「人の家のまでうるさいぞ!!」

「ん?おいこいつら、武器を抜いてるぞ!!街中で殺し合いでもおっぱじめる気か!!」

「きゃああっ!!通り魔よ、通り魔が現れたわ!!警備兵を呼んできてちょうだい!!」

「おい、あの屋根の上に乗っている子の服……あれは白狼騎士団の制服じゃないか!?」

「白狼騎士団だと!?本物なのか!?」



追跡者達はチイの発言に怒りを抱いて武器を抜くが、すぐに街道の人々が悲鳴を上げ、大騒ぎとなる。彼等の反応に気付いた追跡者達はここで戦うのはまずいと判断したのか、悔し気な表情を浮かべてチイを見上げた。


ここでチイを殺してしまえば大勢の人間に見られてしまい、そうなると色々と問題があった。白狼騎士団は民衆からも人気が高く、そんな白狼騎士団のチイが襲われていると知れば気性の荒い性格が多い獣人族の一般人が黙っているはずがない。実際に屋根の上に立っているチイの制服姿を見て、彼女の正体に気付いた者もいた。

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