第172話 リルの帰還
王都の城門に辿り着くと、最初に出迎えたのは見張りの兵士達であり、彼等は縛られたケマイヌを引き連れるリルの姿を見て驚愕した。なにしろ一か月先に戻ってくるはずの王女が何故か弟の側近のケマイヌを縛り付けて戻って来たのだから当然の話である。
「り、リルル王女様!?お戻りになられたのですか!?」
「リルル様だ!!リルル様が帰ってこられたぞ!!」
「何だと!?」
「うろたえるな!!すぐに城門を開いて通してくれ!!」
リルルが帰還した事に城壁の兵士達は慌てふためくが、彼女が一喝すると慌てて兵士達は城門を開き、中へと招き入れる。そしてリルたちが城下町に入ると、民衆も彼女が戻って来た事に気付いて驚愕した。
「お、おい!!あれはリルル王女様じゃないか!?」
「そうよ!!間違いないわ、あの凛々しい顔立ちは間違いなくリルル王女様よ!!」
「もうお戻りになられたのか!!」
「キャー!!リル様ぁっ!!」
民衆の間でもリルは人気が高いらしく、彼女の姿を見た者達が騒ぎ立てる。そんな彼等に対してリルは手を振りながら引き連れてきた兵士達を中に入れると、まずは縄で縛りつけたケマイヌを民衆の前に晒す。
「皆、聞いてくれ!!この男の事は知っているだろう、そう我が弟の部下であるケマイヌだ!!」
「ケマイヌ?」
「あ、こいつ見たことがあるぞ!!いつもガオ王子様の傍にいる奴だ!!」
「どうして捕まってるんだ?」
ケマイヌを差し出したリルに対して民衆は戸惑うが、彼女はケマイヌの悪行を縄を掴んで彼を捕縛した理由を大声で告げた。
「この男は私の命を狙い、しかもその罪をここにいる彼等に擦り付けようとした!!これは絶対に許されない事であり、今から私はこの男を国王陛下に突き出す!!」
「なんだって!?」
「リルル様の命を!?」
「なんてやろうだ!!このクズめ!!」
「ガオ王子の配下がどうしてそんな事を……」
縄で縛られたケマイヌに民衆は視線を向け、中には憎々し気な表情を浮かべる物も少なくはない。それだけリルが人気という事らしく、石を投げつけてくる一般人もいた。
本来ならばケマイヌはこの時点で怯えて震え上がっただろうが、レイナの魅了の能力のお陰で素直に従順に従い、黙ったままリルに従う。その光景を見て他の者達は不気味に思い、石を投げるのを止める。
「り、リルル王女様!!これはいったい何の騒ぎですか!?」
「おお、警備隊長か。丁度良かった、この男は罪を犯した。私はこの男を連れて城へと戻るぞ」
街道から大勢の兵士を引き連れた初老の兵士が現れると、彼は縄で縛りつけられたケマイヌに気付き、顔色を変えた。その反応を見てレイナは疑問を抱くと、警備隊長と呼ばれた男は険しい表情で立ち塞がった。
「王女様、これはどういう事ですか?どうしてケマイヌ殿にこんな仕打ちを……」
「ほう、そうか。なるほど、お前もガオの傘下の人間だったか」
「なっ!?い、いったい何の話しですかな?」
「惚けるな!!お前がこの男に協力してこの街の人間の中で借金に困る者達を情報を伝えたんだろう?」
「なななっ!?何を言っているのですか!?」
リルのかまかけに警備隊長は明らかに動揺し、その反応を見てレイナ達も納得した。この城下町の警備を任されている立場の人間ならば借金で困る人間の素性を知っていてもおかしくはなく、その情報をケマイヌに流したのだろう。
ケマイヌは借金で困る者達に兵士になるように話を持ち掛け、リル王女の暗殺のための準備を整える。そう考えるとこの警備隊長の男もリルの暗殺に加担したといえるため、チイは険しい表情を浮かべて怒鳴りつけた。
「警備隊長!!この男は罪を犯した、いまからその罪を国王陛下の前で自白させる!!言っておくが、貴様がもしもこの男に加担していたというのならば容赦はしないぞ!!」
「な、何だと!?ふざけるな、この小娘……!!」
「私の配下によくもそんな口が利けるな。仮にも彼女は私の側近だぞ、立場を弁えろ!!」
「ひいっ!?も、申し訳ございません……!!」
リルが一喝すると警備隊長の男はその場で土下座をして謝罪するが、その様子をリルが連れて来た兵士達は憎々し気に睨みつける。彼らとしても自分の情報をケマイヌに流した男に対して良い感情を抱くはずがない。念のためにレイナはケマイヌに事情を問う。
「ケマイヌ、正直に答えて。この男から本当に情報を貰ったの?」
「はい!!その通りでございます!!この男は金と引き換えにこ奴等の素性を教えてくれました!!」
「なっ!?何を言っているのだケマイヌ殿!!」
あっさりと情報を流した事を暴露したケマイヌに対して警備隊長は信じられない表情を抱くが、レイナの虜になったケマイヌは嬉々として質問に答える。
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