第173話 警備隊長の捕縛

「この人はこんな事言ってるけど、本当にこの人から貰ったの?」

「間違いありません!!私がこの男を呼び寄せ、金を渡してこの街の人間の中で借金に困る者達の情報を調べさせて報告するように命じましたから!!」

「き、貴様!!私を裏切るつもりか!?」

「ほう……それが面白い事を聞いた。警備兵!!この男をひっとらえろ!!」

「えっ……た、隊長をですか?」

「リルルの言う事が聞けないの?」



警備隊長の傍にいた兵士達はリルの命令に戸惑うが、ネコミンが王女の言葉に従えないのかを問うと、兵士達は慌てて警備隊長を拘束した。



「警備隊長!!申し訳ありません!!」

「なっ!?辞めんか貴様等!?私を誰だと思っている!?」

「大人しくしろ!!これ以上に抵抗すれば罪が重くなるだけだぞ!!」

「ひいっ!?」



警備隊長の男は必死に抵抗しようとするが、リルが一喝すると震えあがり、あっさりと縄で縛りつけられる。そしてケマイヌと共に並んで連れて行かれ、残された警備兵にリルは命令を与える。



「引き続き、業務に戻れ。しばらくの間はお前達の隊長は戻ってこないと考えろ」

『はっ!!』

「お、おのれ貴様等……」

「いいから早く行ってください。後がつかえているので……」



ケマイヌと共に警備隊長は縛られた状態で前を歩き、あまりの屈辱に頬を真っ赤に紅潮させるが、その様子を見ていた民衆は囁く。



「うわぁっ……あの警備隊長、リルル王女様の命を狙ったみたいね」

「なんて奴だ、あんなのが街を守る警備隊の隊長なのか?」

「俺は前々からあの男が怪しいと思っていたんだ。やっぱり、ろくでもない奴だったぜ」



民衆の話し声が聞こえてきたのか警備隊長の男は身体を震わせ、血走った目を彼等に向けるが、ケマイヌの方は平然とした態度を崩さない。そんな彼を見て警備隊長は違和感を抱く。



「ケマイヌ殿、いったい何を考えている?ガオ王子を裏切るような真似をして……ま、まさかリルル王女に寝返るつもりか?」

「……王女?そんな事はどうでもいいのだ。私はあの方に褒美を頂けるのであれば何でもするぞ」

「あの方だと?いったい何の話を……」

「おい、黙って歩け!!ひそひそと話すな!!」



チイが叱りつけるとケマイヌと警備隊長は慌てて急ぎ足になり、王城へと向かう。その様子を多くの民衆が目撃し、いったい何が起きているのかとリル達の後に大勢の一般人が続く。


王城へ辿り着く頃には兵士だけではなく、大量の一般人も同行しており、王城の城門の前に数百人の獣人が集まっていた。リルが城門に辿り着くと、早速兵士達に命じた。



「城門を開け!!」

「り、リルル王女様!?」

「どうしてお戻りに……」

「いいから開けといっている!!」



兵士達は戻って来たリルの姿を見て驚くが、相手が王女である事で逆らう事が出来ず、すぐに城門を開く。そして城内にリルは入り込むと、同行した一般人たちに声を掛ける。



「見送り、ご苦労!!だが、ここから先は私達に任せてくれ。この二人の悪事を国王陛下の前で自白させる!!それがこの国平和に繋がると私は信じている!!」

『おおっ!!』



リルの言葉に民衆は歓声を上げ、彼等と別れてリル達は城内へと入り込む。その際にレイナはリルに話しかけた。



「あの、本当にこの恰好のままで来ちゃったんですけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫、私を信じてくれ。それと君に頼みたい事があるんだが……」



ケマイヌと警備隊長を国王陛下に合わせる前にリルはレイナに何事かを伝えると、レイナは彼女の言葉に驚くが、すぐに行動を開始した――






――それからしばらくすると、大勢の兵士を引き連れて入り込んできたリルの元に慌てて城内の兵士が駆けつけ、家臣たちも出迎える。急遽、戻って来たリルを見て彼等は戸惑いを隠せず、本来の予定ではリルは一か月後に戻ってくるはずだった。しかしも使者として同行させた物も連れてこずに戻って来たので彼等が戸惑うのも当たり前だった。


まずはリルを呼び出したのは国王であり、彼は玉座の間に彼女を呼び出す。この際にリルはケマイヌと警備隊長を引き連れ、自分の護衛であるチイとネコミン、そしてレイナも同行させる。後は兵士の代表として一番の年配者を連れて行くと、玉座の間にて遂に国王と対面する。



「リルルよ!!お主はいったい何を考えておる!!外の騒ぎは何だ!?」

「国王陛下、まずは落ち着いて私の話を聞いてください」

「これが落ち着いていられるか!!」

「ま、まあまあ……陛下落ち着いてください」

「まずはリル様の話を聞きましょう」



玉座の間に辿り着いて早々、リルは玉座に座る中年男性に怒鳴りつけられた。この男性こそがリルの養父にして彼女の弟のガオの実父でもある「ガル・ウォン」だった。


国王である彼は戻ってきて早々に騒ぎを引き起こしたリルに対して怒り心頭だったが、彼女が連れて来たケマイヌと警備隊長、そして見慣れぬ女性(レイナ)と兵士を見て不思議に思う。

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