閑話 ウサンの天敵 ミーム・ミレイ

「ウサン大臣、解析の勇者の件はともかく、例の消えた4人組の冒険者の件はどうしますか?」

「冒険者だと?あの何とか隊という奴等の事か……」

「はい。大迷宮にてアリシア皇女を救出した後、冒険者ギルドにて姿を消したまま未だに行方不明のままです。彼女達が最後に存在した更衣室には魔王軍の紋章が残っていたとありますが……本当にウサン様は何も知らないのですか?」

「知らんわそんな奴等の事は!!」



兵士の言葉にウサンは声を荒げて怒鳴りつけ、柱に何度も蹴りつける。アリシア皇女を救い出したはずの「銀狼隊」と呼ばれる冒険者集団が姿を消した事は噂に民衆の間でもなっており、しかも魔王軍の紋章が現場に残されていた事もあって人々の間には遂に王都にも魔王軍の魔の手が伸びたのかと噂していた。


冒険者ギルドの方は銀狼隊の事を他国から訪れた冒険者としか把握しておらず、現在はケモノ王国の方で確認を取っている。だが、ケモノ王国に確認を取るにしても時間が掛かるため、その間にも消えた銀狼隊の事で様々な憶測が民衆の間に広がる。


アリシア皇女を救い出した銀狼隊は魔王軍に攫われた、実は銀狼隊は魔王軍の一員だった、魔王軍の狙いはアリシア皇女だった、様々な推測が行きかう。だが、どの推測も共通しているのは銀狼隊が消えた事が魔王軍に関係しているという点だけである。


魔王軍を裏で操るといわれているウサンに対し、彼の部下である兵士達が本当に銀狼隊の件に魔王軍が関わっていないのかを尋ねるのは自然の事であり、いくらウサンが否定しても兵士達は自分達に隠し事をしているのではないかと疑う。皇帝だけではなく、部下たちにも猜疑の目を向けられる事にウサンは益々怒りを抱く。



(くそ、あの小僧の件だけでも手一杯だというのに……)



ウサンは現在の状況が自分の不利に動いている事を重々承知しているが、特に何も手を打っていなかった。理由としては現在のウサンは先のレアの件で虚偽の報告を皇帝に行っていた事が判明し、現在は皇帝からも疑われて監視されている。


他にも怪我から復帰したアリシアが今回の遠征で失った騎士団の補充を行うために動いており、その動向を探る意味もあって彼は帝都から離れる事が出来なかった。



「くそっ……くそっ……くそっ……」

「あの、大臣……」

「何だ!?人が悩んでいる時に話しかけるな!!」

「いや、しかし……」



兵士に話しかけられたウサンは忌々し気に振り返ると、兵士達は顔色を青くして彼の後方に視線を促す。その態度を見てウサンは疑問を抱くと、誰かが肩を握り締める。



「随分と荒れているようだね、ウサン」

「何だと!?いったい誰、だ……!?」



肩を掴まれたウサンは背後を振り返ると、そこには老婆が立っていた。傍には武装した女騎士が数名控えており、老婆自身も鎧を身に着けていた。この国でたった一人の「女将軍」でもあり、ウサンが皇帝の次に恐れる存在だった。



「こ、これはミレイ将軍……お戻りになられていたのですか?」

「ふん、相変わらず冴えない顔だね」



仮にも大臣であるウサンに対してミレイと呼ばれた女性は小馬鹿にしたような態度を取るが、普段のウサンならば激高するところだがミレイを目にした途端、彼は怯えて言い返す事も出来ない。




――ヒトノ帝国の女性でありながら将軍職に就いた「ミーム・ミレイ」はアリシアの剣の師でもあり、皇帝からも絶対の信頼を持つ女将軍だった。彼女に対してだけはウサンも普段のように傲慢な態度をとれないのは過去に彼はミレイに逆らって殺されかけた事がある。




ミレイは過去にウサンの態度が気に喰わずに殴りつけた事があり、それを恨んだウサンは彼女に暗殺者を送り込む。だが、ミレイはウサンが送り込んだ暗殺者全員を逆に返り討ちにした後、彼の屋敷に押し入って捕まえた暗殺者を突き返した事があった。




『お前如きがあたしの命を奪えると思ってるのか?次に変な真似をすればあんたの鼻を切り落とすよ!!』

『ひいいっ!?』



屋敷の護衛のために兵士を全員叩きのめしたミレイに対してウサンは恐怖して漏らしてしまい、しかも彼が暗殺者と繋がっていたという有力な証拠を掴まれてしまう。これによってウサンはミレイに対して逆らう事が出来なかった。


そんなミレイが最近は城に顔を出さなかった理由は帝国領地で出現した「魔王軍」と呼ばれる組織の捜索のためであり、彼女はその任務の報告のために帝都へ戻って来た。そして裏庭で訓練を行っている勇者達の存在に気付き、目を細める。



「ほう、あれが勇者かい……なるほど、これは確かに指導のしがいがありそうだね」

「し、指導?それはどういう意味ですかミレイ将軍?」

「言葉通りの意味さ、今後は勇者達の指導はあたしが行う事が決まったんだよ。あの子達はしばらくの間はあたしが面倒を見させてもらう」

「なぁっ!?」



ミレイの言葉にウサンは目を見開き、よりにもよって自分の事を快く思っていないミレイに勇者たちが管理されると聞いて慌てて止めようとしたが、ミレイは淡々と告げた。



「これは皇帝陛下の命令だよ。あんたにはもう勇者を任せられないって事さね」

「そ、そんな……」



ミレイの言葉を受けてウサンは愕然とした表情を浮かべ、その場に膝を崩した――

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