閑話 その頃、勇者達は……

――レイナがケモノ王国にてリル達と共に王都へ向かっている頃、ヒトノ帝国の帝都に残った3人の勇者達も本格的な戦闘訓練を受けていた。勇者という素質を持つだけはあり、彼等3人は短期間の間に戦闘技術を身に着けていた。



「おらぁっ!!」

「ぐあっ!?」

「し、シゲル殿!!もう少し手加減をして……うわっ!?」

「馬鹿かお前等!!手加減なんてしてたら訓練の意味が無いだろうが!!」



拳の勇者として召喚され、拳の加護を持つ「大木田茂」彼は大きな盾を所有した兵士に対して素手で殴りつけ、兵士を吹き飛ばす。その拳の重さは正に鋼鉄の塊を想像させ、殴りつけられる兵士達は必死な思いで耐え凌ぐ。


最初に召喚された頃はレベルが低く、自分の能力も使いこなせなかった茂だが、現在は自分よりもレベルが10以上も高い兵士を相手に圧倒する膂力を身に着けていた。彼は拳の加護の恩恵で身体能力を上昇させる殆どの技能を最初から持ち合わせていた。



「皆さん、本気で来て下さい!!僕が勇者だからといって手加減は不要です!!」

「い、いや……別に手加減しているわけでは」

「そうです!!我々も本気で戦っています!!」

「なんという上達ぶり……もう、我々では勇者様の相手にもならないのか……」



一方で剣の勇者として召喚され、剣の加護で「剣士」と「騎士」の系統の職業の技能を全て覚えている「佐藤瞬」は5人がかりで向かってくる兵士達を軽くあしらう。10日ほど前までは1人の兵士に苦戦していたが、今現在は数人がかりの兵士を同時に相手にするだけの剣の上達ぶりを見せていた。


瞬は勇者の中でも特に努力家で心優しく、この国の人間の助けになるために日夜訓練を欠かさない好青年であった。それだけに兵士からの人気が高く、また容姿に関しても優れているので女性の使用人からも人気は高い。



「えっと、こんな感じで良いのかな?」

「ちょ、ヒナ様!?それでは魔力を込めすぎです!!暴発してしまいますよ!?」

「わわっ!?ど、どうしよう!!」



しかし、魔法の勇者である「卯月雛」に関しては召喚された勇者の中で最も素質が高く、しかも魔法の加護の恩恵で「全ての魔法」が扱える彼女だけは訓練が難航していた。現在の彼女は「初級魔法」と呼ばれる魔術師ならば誰もが覚えられる簡単な魔法を利用して魔力の使い方を学ぼうとしていたが、未だに上手く行かない。


雛の手元にはバスケットボール程の大きさの炎の塊が存在し、この魔法は本来は「火球」と呼ばれる初級魔法で普通の魔術師が扱えばマッチ程度の火しか生み出せない。しかし、勇者である雛が扱うとマッチどころか炎の塊を作り出してしまい、しまいには爆発してしまう。



「ど、どうすればいいの先生!?」

「ああ、もう!!空に向けて投げてください!!」

「投げるんだね!?分かった、え~いっ!!」

「えっ!?ヒナ様、投げると言っても手掴みでなげるのではなく……きゃああっ!?」




講師役の魔術師の言葉に雛は火球を素手で掴むと、そのまま上空へ向けて放り投げる。雛の元から離れた火球はやがて膨らみ始め、それを見た地上の兵士と二人の勇者は目を見開く。



「うおっ!?やべぇっ!?」

「ま、まずい!!皆、逃げろっ!?」

『わああああっ!?』



空中に1メートルほど大きさを増した火球を見て兵士と勇者達は逃げ出すと、直後に火球が爆発してしまう。その結果、文字通りの「火の雨」が降り注ぎ、地上に存在した人間達は慌てふためく。



「ま、またヒナ様の魔法が暴発したぞ!!」

「いかん、このままでは城が燃えてしまう!!すぐに消火活動に入るのだ!!」

「落ち着いてください、魔法の炎は長続きしません!!時間が経過すれば消えますから……」

「ふぇえっ……み、皆ごめんね~」



自分の魔法によって大騒ぎを引き起こした事に雛は涙目で謝罪するが、その様子を遠目から見ていた人物が存在した。それはヒトノ帝国の大臣を務めるウサンであった。彼は裏庭の方にて訓練を行う3人の勇者に視線を向けると、自分が引き連れた側近の兵士達に語り掛ける。



「見よ、あれが勇者の力だ。やはり伝承通り、凄まじい力を身に着けておる……これを上手く利用しない手はない」

「はあ……ですが大臣、勇者達は確かに力はありますがまだ子供です。能力が優れているのは確かですが、精神はまだ未熟です。彼等を外に出すのはまだ危険では……」

「何を言うか、勇者が召喚されてから大分時が経過しておる。そろそろ民衆にも勇者達の存在を知らしめる必要がある……ふん、それよりも奴の捜索はどうした?」

「現在、ヒトノ帝国の領地内を隈なく捜索していますが、未だに手がかりの一つも掴めていません」

「ちっ……あのガキめ、いったい何処に消えおった!!」



ウサンは忌々し気に傍に存在した柱を蹴りつけ、帝都から姿を消した「霧崎レア」の事を思い浮かべる。彼はレアのせいで皇帝からの信頼を失いかけており、しかも捜索を開始してからかなり時間が経過しているのに未だに手がかり一つも掴めていない事に苛立ちを隠せないでいた。

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