第169話 ケマイヌの選択肢

「なるほど、お前達の計画はよく分かった。しかし、いくら私を殺したとしても平民である彼等に罪を擦り付けるのは少々無理があるんじゃないのか?彼等に私を殺す動機が無いだろう?」

「が、ガオ様はとにかくリル様を殺して他の人間に罪を擦り付ければどうにでもなると……」

「やれやれ、相変わらず詰めが甘いな。そんな作戦のためにお前は律儀にこんな場所を見回っていたのか?」

「ぐうっ……!!」



ケマイヌは悔しそうな表情を浮かべるが、そんな彼に対してリルは見下した態度を取ると、周囲の兵士に振り返る。既に彼等に戦意はなく、自分達が利用されようとしていた事を知ってガオに対する忠誠心など既に失っていた。



「聞いての通りだ、君たちの雇い主のガオは君たちを裏切った。それでもまだ私達と敵対するか?」

「それは……」

「……お、お許しください!!我々は王女様の命を狙うつもりなどありませんでした!!」

「ここにいる全員、この場で王女様に忠誠を誓います!!」



リルの問いかけに兵士達はその場で跪くと、ガオではなくリルに忠誠を誓う。そんな彼等を見てリルは頷き、ケマイヌを強制的に絶たせる。



「ケマイヌ、お前はこれから私達と共に王都へ来てもらう。そしてガオの計画の事を話してもらうぞ」

「なっ!?そ、そんな事をすれば私の立場が……!!」

「お前の都合など知った事か!?ここで死にたいのか!!」

「ひいっ!?」

「チイ、落ち着いて」



未だに自分の立場をよく理解していないケマイヌに対してチイが苛立った表情で短剣を向けると、ネコミンが落ち着かせる。



「ケマイヌ、お前が捕まった事を知ればガオは容赦なくお前を殺すぞ」

「そ、そんな馬鹿な……私はあの御方をずっと支えてきたのですぞ!!」

「ガオにとってお前はただの手駒でしかない。奴の性格を知っているだろう?」

「ぐうっ……」

「王族である私を殺そうとした罪は重い。もしも私達に従えないのであればお前も、お前の家族も罰則を受ける事態に陥るぞ。よく考えろ、ここでお前が私に従えば最悪でもお前の家族には危害が及ばないように配慮してやる。さあ、どうする?」

「ぐぐぐっ……」



リルの言葉にケマイヌは思い悩み、頭の中で葛藤する。ここでリルに従えばガオに殺される可能性があり、逆に従わなければリルに殺されてしまう。どうしたものかと悩んでいると、レイナがため息を吐き出しながら近寄る。



「リルさん、その人に触れてもいいですか?」

「レイナ君?いったい何を……ああ、なるほど。そういう事か」

「レイナ?」

「……あ、なるほど」



レイナの質問にリルは眉をひそめるが、すぐにレイナの意図を察してケマイヌを差し出す。その行為にチイは不思議に思うが、ネコミンはすぐに何かに気付いた様に頷く。


ケマイヌは近付いてきたレイナの顔を見て疑問を抱き、そもそも彼女が何者なのか気付いていない様子だった。レイナの存在はまだガオの陣営には気付かれていない様子であり、それを確認したレイナはケマイヌの頬に触れて笑みを浮かべる。



「従え」

「何、をっ……!?」



頬に触れた状態でレイナは微笑みかけるのと同時に「魅了」の固有能力を発動させた瞬間、ケマイヌの態度が一変する。彼はレイナに微笑みかけられた瞬間に何とも言えない多幸感に襲われ、彼女の言う事ならば何でもしたがいたいという欲求に襲われる。


吸血鬼を倒したときに得た「魅了」の能力は異性に対してのみ、相手を魅了して自分の僕と化す能力だった。そして現在のレイナは女性であるため、男性であるケマイヌに対して絶大な効果を発揮した。



「今からガオ王子ではなく、リル王女に従ってくれますよね?」

「は、はひっ!!従います!!」

「た、隊長……!?」

「急にどうしたんだこの人……」



まるで飼い犬のようにレイナの足元にすり寄って彼女の命令に従うケマイヌの姿に他の者達は呆気に取られ、そんなケマイヌに対してレイナは頼む。



「何があろうとリル王女の味方をしてください。いいですね?」

「はい、誓います!!私はリル王女に忠誠を誓います!!だ、だからご褒美を下さい!!」

「え?ご褒美?えっと……頭を撫でれば良いの?」

「うおおおんっ!!一生、貴女様に従いますぅうう!!」

「うわぁっ……」

「……きもい」

「ふむ、これが魅了の能力か……便利な能力だな」

「きゅろっ……(←引いている)」

「ぷるぷるっ(←嫉妬)」

「「ウォンッ!?(←驚く)」」



レイナに頭を撫でられた途端に感動の涙を浮かべるケマイヌに周囲の者達は若干引いてしまうが、この様子ならばケマイヌが裏切るとは思えず、こうして不本意ながらにリル達はガオ王子に対抗する有力な味方を手に入れた――





――その後、兵士達の方はあくまでもガオ王子に利用されたという事で罪はないとリルは告げると、彼等が抱えている借金に関しても話を聞く。そして彼等に対して自分の味方となり、ガオに利用された人間として証言してくれるならば彼等の借金をリルが受け持つと約束して共に王都へ連れて行く事にした。

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