第170話 兵士達との交流
その後、夜が更けて来たので一晩過ごした後に王都へ戻る事にすると、兵士達にレイナは食事を用意した。どうやら全員が兵士として働いている間は碌な食事も与えられていなかったようであり、彼等はレイナが要した食べ物を受け取ると感動する。
「う、美味い!!なんだこの食べ物は……今までに食べた事がない!!」
「美味い、美味いぞぉおおっ!!」
「ああっ……こんな美味しい物、久しぶりだ!!」
兵士達にはレナ達がこれまでの旅路で持ち込んだ食料を全て渡す。その中にはカップラーメンも含まれ、彼等は初めて食べる料理に感動する。
ケマイヌに関してはシロとクロが見張り行い、その間にリル達は兵士達を親交を深める。彼等の証言がリルに有利に立たせるのは間違いなく、ここで少しでも印象をよくするためにリルは彼等と話し合う。
「いや、俺達みたいな平民が王女様と話をする機会が訪れるなんて思ってもいませんでしたよ!!」
「そうなのかい?私は結構、城下町には顔を出してるんだけどね」
「ん?あ、そういえば何処かで見覚えがある顔だと思ったら……まさか、あの銀狼隊の冒険者様ではないですか!?」
「おっと、気付かれたか……一応はバレないように変装していたつもりだったんだがな。この事は内密だぞ?」
「は、はい!!承知しました!!」
社交性が高いのかリルは瞬く間に兵士達と仲が良くなり、チイとネコミンの方もリルの率いる「白狼騎士団」の団員として有名な存在なので騎士に憧れた女性達に話しかけられていた。
「ええっ!?二人はそんなにお若いのですか!?」
「年齢なんて関係はない、騎士を志すのならばそれ相応の力を身に着ければいい。そこに身分など関係ない、実力があれば平民だろうと騎士になれる」
「でも、簡単にはなれない。騎士になるにはいっぱい努力をする必要がある」
「そ、そうなんですか……なら、私のような生産職の人間でも騎士になれると思いますか?」
「職業など関係ない、努力を怠らずに能力を磨き、騎士として相応しい力を身に着ければどんな人間だろうと騎士になれる。ケモノ王国は実力社会だ、本気で騎士を目指すのであれば諦めずに力を身に着けてみせろ」
「はい!!頑張ります!!」
チイとネコミンは若手の女性達に囲まれて自分達が騎士に至るまでの話を行い、騎士になるための指導を行う。一方でサンとクロミンの方は子供がいる大人たちに可愛がられていた。
「きゅろろっ!!」
「おお、いい食べっぷりだな嬢ちゃん!!俺の分も食べるか?」
「きゅろっ(頷く)」
「このお嬢ちゃん、言葉が喋れないという割には俺達の言う事は分かるんだな」
「きゅろ、という鳴き声も可愛いじゃないか。はあ、俺もお嬢ちゃんぐらいの娘がいるんだよ。会いたいな……」
「畜生、借金なんてしなければな……」
「ぷるぷるっ」
「お、なんだスライム?慰めてくれるのか?いい奴だなお前……」
子供を持つ大人はサンの様子を見て自分達の子供の事を思い出し、最近は兵士の仕事ばかりで碌に構っていない事を思い出す。今回の仕事を終えれば借金を返済し、家族の元に戻れると信じて彼等はサンとクロミンを可愛がった。
周りの者達が兵士達と上手くやっている一方、レイナだけは皆と距離を置いて考え込む。話の流れで結局は男の姿に戻る事が出来ず、どのようなタイミングで自分が男に戻ればいいのか分からずに途方に暮れてしまう。
(困ったな……この様子だと男に戻れないや)
レイナはケマイヌの方に視線を向け、ため息を吐き出す。ケマイヌは今の所は大人しくしているが、それはレイナが魅了の能力で従わせているだけであり、彼が命令を聞くのはレイナが女性時の姿だけである。
魅了はあくまでも異性を対象にした能力のため、もしも男に戻ればケマイヌの魅了の効果は切れてしまう可能性が高い。だからこそレイナは男に戻る事が出来ず、困り果てた。
「はあっ……」
「お、おい……あの綺麗な女の人もリル様に仕える女騎士なのかな?」
「おかしいな、白狼騎士団の中であんな可愛い子がいるなんて聞いた事がないぞ」
「それにさっき、ケマイヌの野郎が急にあの子にだけは従ったよな。もしかして、何か特別な力を持っているのかな?」
「……どうでもいいんじゃないのか?俺達のために食料を渡してくれたんだ。あの子はいい子だよ」
「そうだな……それに可愛いし、優しいし、正に天使のような子だ」
「私の子供の嫁に欲しいわね」
「っ……!?」
兵士達が自分を見てなにやら話し合っているのを知ったレイナは何故か背筋に悪寒を覚え、このままだと見合い話でも持ち込まれるかもしれず、早く夜が明ける事を願う――
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