第168話 ガオの計画

「そういえばお前達は例の黒狼騎士団とやらか?」

「は、はい……その通りです王女様」

「お前たちの態度を見る限り、全員が平民なのか?」

「はい。ここにいる全員は隊長を除き、全員が平民です」



配下の兵士達によると彼等も黒狼騎士団の隊員らしいが、ここにいる全員が平民だという。チイは鎧兜を拾い上げると、その出来の悪さを見て呆れてしまう。



「なんだこれは……鉄で出来ているかと思ったら、木造製の鎧を黒く塗っただけじゃないか。こんな物を身に着けていたのか?」

「はい。鎧に関しては我々よりも上の階級の騎士様にしか配備されていません。それに鉄製の鎧兜は重く、我々のレベルでは着こなせませんので……」

「お前達のレベルはいくつだ?」

「ここにいる全員がレベルが10~15程度です」

「それでは城内の兵士と大差ないではないか……全員が戦闘職か?」

「いえ、中には殆どの農民などの生産職です」

「生産職?」

「戦闘職にも魔法職にも適さず、生産系の技能を覚える職業の事」



兵士によるとこの場の全員が「農民」であるらしく、噂ではガオは優秀な武人を募集して黒狼騎士団に加入させているという話ではあるが、中には農民の職業の一般人も募集しているという。


彼等は元々は王都の住民らしく、金に困っていた所にガオの配下の誘いを受けて兵士になったという。だが、渡された鎧は木造製の鎧を黒く塗った物であり、武器に関しても鈍ら同然の粗悪品だった。



「リル様、この者達も鎧も兜も粗悪品です。こんな装備では魔物とも碌に戦えません」

「なるほど……お前達は戦闘訓練は行っているか?」

「いいえ、毎日王都の周辺を見回りするだけで訓練なんて行っていません。今までに何度か魔物と戦ったことがありますが、殆どが一角兎などの小型の魔獣だけです」

「何だと?訓練さえも受けずに兵士になったというのか?」

「は、はい……ここにいる全員、借金で困っていた所をガオ王子様が立て替えてくれるのを条件に自分に従うように言われました」

「ガオがそんな事を……なるほど、読めてきたぞ」



リルはケマイヌに視線を向けると、彼は冷や汗を流して視線を逸らすが、そんなケマイヌに対してリルは背中を踏みつける。



「ふんっ!!お前達の考えは読めたぞ、負け犬め!!」

「ぐえっ!?」

「おっと、お前の名前はケマイヌだったな?すまない、名前を呼び間違えたよ」

「ぐぐぐっ……ぶ、無礼な!!私は仮にも貴族だぞ、いくら王族だからといって……ひいっ!?」

「無礼だと!?リル様の命を狙っておいてなんという言い草だ!!」



あまりの自分の対応の酷さにケマイヌは文句を告げようとするが、そんな彼に対してチイが目の前に短刀を突きつけると怯えてしまう。ネコミンとレイナも彼に近付くとケマイヌは自分の立場を理解したのか顔色を青くさせて謝罪を行う。



「も、申し訳ありません!!どうか、命だけは……」

「ケマイヌ、私の質問に答えろ。もしも嘘を吐けばお前の命はない、分かったな?」

「は、はい!!」

「まずはどうして王都の住民である彼等を黒狼騎士団に引き入れた?」

「そ、それは……」



リルの質問に対してケマイヌは怯えながらもゆっくりと語りだす。案の定というべきか、リルの考えた予想が的中した。



「か、彼等を利用して、王女様の命を絶つためにガオ王子が引き入れたのです……借金に困っている人間達を利用し、王女様を捕まえて始末した後、王女様を殺した罪を彼等に擦り付けるためです」

「な、何だって!?」

「どういうことですか隊長!!聞いてませんよそんな事!!」



王女を殺害した罪を自分達に擦り付けるという言葉に兵士達は驚き、彼等の反応を見てリルはケマイヌに再度尋ねる。



「平民である彼等を兵士に引き入れたのは私の命を狙うためか?借金を抱えている人間を引き入れたのは何故だ?」

「借金の返済の条件として兵士達にはガオ王子に忠誠を誓わせ、王女様を殺した後に彼等に罪を擦り付けるためです……多額の借金と引き換えに王女殺しの罪を彼等に被せようと考えていました」

「な、何てことを……」

「そんなふざけた話があるか!!」



自分達の借金と引き換えに王女殺しに加担させようとしていたというケマイヌの言葉に兵士達は激高した。


いくら彼等が借金に困っているといってもケモノ王国の王女を殺した罪を背負えば死刑は免れない。だが、ガオは彼等が断った時の事も配慮して既に別の手を打っていた。



「もしも断るようならば兵士の家族を人質にしてでも罪を被せろと命じられています……ここにいる兵士全員の身元は調べ、家族の居場所を把握しております」

「なんて事を……」

「こ、こいつ!!よくも俺達を利用しようとしたな!!」

「落ち着け!!」



ケマイヌの告白を聞いて兵士達は憤慨するが、そんな彼等をリルが一喝すると兵士達は黙り込む。

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