第164話 王都までの道のり
――早朝を迎え、宿屋の主人に頼んで朝食の代わりに弁当を受け取ったレイナ達は事前に用意していた馬車をシロとクロに繋げる。ここから先は馬車で移動する事に決め、王都へ向かう。
「リル様、どうして馬車を買ったのですか?」
「これだけの人数になるとシロとクロに乗り込むのも色々と無理があるだろう。それならば馬車を購入した方が良い。それにここから先は草原だと考えると馬車の移動も大きな負担にはならない」
「私も賛成、馬車の方が疲れない」
リルの提案に他の者達も納得し、ここから先は馬車で向かう事が決定した。だが、レイナは馬車に乗り込む際にある事に気付く。
(あれ……別に馬車なんて購入しなくても、俺の能力で作り出せたのに……)
わざわざ馬車を購入せずとも、事前にレイナが相談を受けてれば文字変換の能力で馬車を作り出しても良かったのだが、リルに何か考えがあるのかもしれないと判断してレイナは敢えて何も言わない事にした。
最もリル本人がレイナの力を借りずに馬車を購入したのは深い意味はなく、単純に彼女がレイナの能力で馬車を作り出せる事を忘れていただけである。だが、その事実に気付かないままにレイナ達は王都へ向けて出発する。
「よし、出発だ!!ここから王都までは3日もかからない、それまでの間はのんびりと過ごそうじゃないか」
「ガオ王子や黒狼騎士団の警戒はしないんですか?」
「問題ないさ、奴等はまだ私達が牙山を越えた事も気づいていないだろう。それに気付かれたところで奴等が牙山を迂回する前に私達の方が王都へ先に辿り着くさ」
リルの言葉にチイとネコミンも頷き、ここから先はガオの配下が待ち伏せする可能性は低く、安全に進める事を確信していた。だが、レイナだけはこれまでの流れから本当に無事に辿り着けるのか不安を抱かざるを得ない――
――王都へ向けて出発してから二日が経過すると、レイナの予想に反して旅路は非常に順調だった。途中で魔物や盗賊に襲われる事もなく、途中で村や街に立ち寄って補給を行いながらもレイナ達は順調に進んでいた。
日が暮れ始めた頃、リルは馬車を止めると早めに野営の準備を行う。レイナが用意した魔除けの石のお陰で魔物が近づく事もないが、サンが魔除けの石から放たれる魔力に引き寄せられて舐め尽くすという事態も発生したが、特に何事もなく王都の近くまで辿り着く事に成功した。
「リル様、この調子ならば明日の昼には王都へ到着します」
「ふむ、予定よりも随分と早く帰還する事になったからな。父上には色々と言い訳を考えておかなければ……」
「そういえばリルさんのお父さん……いや、国王様はどんな人なんですか?」
「きゅろろっ?」
「ぷるぷるっ?」
膝の上にサンを乗せ、頭の上にはクロミンを乗せたレイナがリルに父親の事を尋ねると、彼女は難しい表情を浮かべる。その様子を見てレイナはリルが父親とあまり仲が良くない事を思い出し、悪い事を聞いてしまったかと謝罪する。
「あ、すいません……言いにくい事なら無理に話さなくていいです」
「いや、まあ確かに昔ほど仲が良いという訳ではないが……そうだな、私の父、つまり国王陛下は正直に言わせてもらうと気が弱い御方だ」
「気が弱い?」
「ああ、国王にも関わらずに常に他の人間の顔色を伺い、臣下に対しても強気に出られずにいる。しかも現在は宰相の「ギャン」という男の言いなりになっている節があるな」
「ギャン?」
「我が国の宰相の名前だ。宰相と言っても、こいつは元々はただの商人だった。だが、上手く国王様に取り入って宰相の地位を掴み、現在はその立場を利用して好き勝手にやっている。しかもこいつはよりにもよってガオ王子の派閥の人間だから質が悪い……」
「ガオが急に王位を継ごうと行動を始めたのも、このギャンが宰相になってからだ。恐らく、ギャンにとってはガオが王位を継ぐ方が色々と都合がいいのだろう」
「どうして?」
「ギャンは元々はガオ王子の教育係だった。それが何時の間にか国王に媚びを売って臣下に加わり、賄賂を使って位を昇進させ、遂には宰相にまでなった男だ。幼い頃から面倒を見ていたガオはギャンのいう事ならば何でも聞くだろう……だが、私はあの男の事を昔からいけ好かない奴だと知っていた。だからギャンにとっては私よりも弟が王位を継承させようとしている」
ギャンが現れた事でリルとガオは不仲となり、しかも宰相の立場を利用してガオ王子を国王の継承者として勧めるため、リルとしてはギャンは明確な政敵と言える。今回のガオが作り出した黒狼騎士団もギャンの後押しがあったからだと考えられ、気の弱い国王は彼等の言う事を反対できなかったのだとリルは予想していた。
最もギャンが原因だとしても現在のガオは王位を狙っているという事実に違いはなく、彼がギャンと結託してリルの命を奪おうとしている事実に変わりはない。だが、リルもケモノ王国の未来を守るため、国王の座をガオには譲れないという強い思いを抱く。
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