第165話 ケマイヌ

「つまり、そのギャンが黒幕という事ですか?」

「そういう事になるな。最も、奴が無能な人間ならば暗殺者でも送り込んですぐに始末できるのだが……元は大手の商人だっただけに人の扱い方が上手い。それに奴から賄賂を受け取っている家臣も味方している。嘆かわしい事だがな……」

「なるほど……」

「きゅろろっ?」



何の話しをしているのかとサンが不思議そうに首を傾げると、レイナはそんな彼女の頭を撫でながら王都へ到着後の自分の扱いはどうなるのかを尋ねる。



「王都へ辿り着いた場合、俺はどうなるんでしょうか?」

「君が勇者だと証明出来れば間違いなく国王陛下は君の事を歓迎するだろう。それほど勇者という存在は特別なんだ。間違ってもヒトノ帝国の時のように追放される事はない」

「ですがリル様、レイナは私達と引き剥がされるのでは……」

「その可能性は高いな。だが、勇者であるといっても隔離される事はないはずだ。これまでに召喚された勇者は戦闘方面で活躍する事が多く、それを考慮して国王陛下も君の事を新しい戦力が手に入ったと判断するだろう」

「戦力、ですか」

「このケモノ王国の方でも魔物の被害が続出している。その対応に君や私達も駆り出されるだろう……当然、騎士団を結成したガオもだろうが」



リルが危惧しているのは国王がレイナを受け入れた場合、彼の扱いをガオに任せるのではないかという点である。ガオに勇者という戦力を与え、大きな功績を上げさせれば彼の王位の継承に反対する者も黙らせる事が出来るだろう。


国王はリルよりもガオを王位に継承させようとしており、もしもレイナをガオに奪われた場合は非常に厄介なことになる。当然、ここまでの道中でレイナの人となりを知っているリルは彼が自分に不利益になるような行為は行わないと信じてはいたが、それでも不安はあった。



「レイナ君、そろそろ元の姿に戻ってくれるか?攫われた勇者が男だと通達されている以上、その恰好で君を紹介するのは少々まずい」

「あ、そうですね……ふう、やっと元に戻れる」

「きゅろっ?」



何の話をしているのかとサンは首を傾げると、彼女をレイナはリルに押し付けると、ステータス画面を開いて自分の性別の項目を確認する。



(久々に男に戻れる……というより、よくよく考えたらこれからはもう男の姿で過ごせるんじゃないのか?)



男の勇者として迎えいれられるのであればレイナが女性に変化する必要はなくなり、やっと自分の本当の姿で受け入れられる事に嬉しく思う。表示されたステータス画面に指を向け、レイナは文字変換の能力を発動しようとした時、不意にシロとクロが何かに気付いた様に鳴き声を上げた。



「「ウォンッ!?」」

「何!?」

「どうした!?」

「……敵襲!!」

「ぷるるんっ!?」

「きゅろっ?」



シロとクロが鳴き声を上げるの同時にレイナの「気配感知」と「魔力感知」も発動し、周囲から大勢の人間が接近する反応を掴む。すぐにチイが「地図製作」を発動させて周囲の様子を確認すると、自分達が取り囲まれている事を告げる。



「リル様、囲まれています!!」

「戦闘体勢!!円陣を組め!!」

「了解」



リルの指示の元、全員が一か所に集まって背中合わせになると、馬の足音と鎧が鳴り響く音が聞こえ、姿を現したのは馬に乗り込んだ獣人族の集団だった。最初はケモノ王国の兵士かとレイナは考えたが、何故か全員が漆黒で統一した鎧を被っていた。


漆黒の鎧に身を包んだ集団は馬を停止させると、レイナ達を取り囲む。その様子を見てリルは警戒しながらも剣を引き抜くと、一人の男が高笑いを浮かべる。



「これはこれはリルル(リルの本名)王女様……こんな所で会うとは奇遇ですね」

「お前は……ケマイヌ!!どうしてお前がここにいる!?」

「ケマイヌ……?」

「ガオ王子の側近を勤める男だ」



ケマイヌと呼ばれた男はリル達の存在に気付くと醜悪な笑みを浮かべ、彼は王族をぁ亭にしているのに馬から降りる事もせず、槍を構えたまま告げた。



「リルル王女様、貴女は国王陛下から任務を受けて現在はヒトノ帝国に滞在しているはず……それなのにどうしてこのような場所におられるのですか?」

「貴様等の方こそ何の真似だ!!リル様は王族であらせられるぞ!?馬から降りて平伏しろ!!」

「ふん、腰巾着如きが何を偉そうに……平民の分際でしゃしゃり出るな!!」

「私の配下を侮辱するな……斬られたいのか?」



チイを侮辱したケマイヌに対してリルは目元を鋭くさせて睨みつけると、彼は一瞬だが怯えた表情を浮かべる。しかし、すぐに気を取り直したように怒鳴り返す。



「ちょ、調子に乗っているのはそちらでしょう!?任務を放棄し、帰還命令を与えていないのに戻って来た王女様の方こそを何を考えておられる!!理由を説明してもらいましょうか?」

「たかが弟の側仕え如きに話す事などない!!貴様等、私を誰だと思っている!!ケモノ王国の第一王女に対し、無礼だとは思わないのか!?」

『…………』



リルの言葉を受けた他の兵士達は困惑するように顔を合わせるが、慌ててケマイヌが言い返す。

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