第163話 王都へ……

「戦士は戦闘職の中でもバランスが良く、ありとあらゆる武器に精通している。このサンちゃんも今後の鍛え方によっては十分な戦力になるだろう」

「きゅろっ?」

「でも、まだ子供ですけど……」

「子供だろうとレベルを上げれば強くなるし、それに私達と共に行動するのであればある程度は自分の身を守る術を身に着けさせておかないとまずいだろう?」

「あ、そっか……そうでしたね」



リルは命を狙われている立場にあり、彼女に協力する事を誓ったレイナも今後は命を狙われる可能性は十分にあった。そう考えると行動を共にするサンにも危険が及ぶ可能性があるため、彼女も戦える力を身に付けさせなければならなかった。



「よし、サンちゃん。これから俺と一緒に強くなろうね」

「きゅろろっ」

「まあ、当面の間は戦闘には参加させられないな。レベルを上げるには魔物を倒すか、経験石を破壊しなければならないんだが……とりあえずは王都へ戻り、経験石を販売している店を探そう」

「はい、分かりました」

「ですがリル様、シロとクロは岩山を迂回してこちらへ辿り着くまで相当な時間が掛かると思いますが……」

「そうだな……その間に私達も装備を整えておくか」

「もうボロボロ……」



これまでの道中や大迷宮の探索の際にリル達の装備品は損傷も多く、まずは王都へ戻る前に装備を整える必要があった。


その前にまずはシロとクロと待ち合わせ場所に指定した村へと向かう必要があり、新しく「サンドワーム」から「ダークエルフ」に変身した「サン」を連れてレイナ達は村へと向かう――






――牙山の近くに存在する村に辿り着いた直後、レイナ達は宿を取る前にまずはサンの衣服を購入する。何時までも裸のままでいさせるわけにはいかないので服と下着を購入する事になったのだが、ここで問題が発生した。



「きゅるるっ!!」

「あ、こらっ!!ちゃんと服を着なさい!!」

「わっ……パンツも履かないと駄目」

「ほら、スカートも持ってきたんだから履いてみて……はぐっ!?」



今まで衣服を身に着けた事がないサンドワームはリル達が持ってきた服や下着を身に着ける事を拒み、暴れて逃げようとする。しかし、裸の状態で外に出すわけにはいかず、しばらくの間は3人がかりでサンを抑え込みながら服を身に着けさせる。



「きゅろぉっ……」

「ふうっ、やっと大人しくなったか」

「結局、スカートは履いてくれませんでしたね……」

「動きやすい恰好が好きみたい」

『もう入っていいですか~?』



部屋の外で待機していたレイナが声を掛けると、すぐにサンが扉の方に駆けつける。そして扉を開くと、ボーイッシュ系の服を身に着けたサンがレイナの胸に飛び込む。



「きゅろっ♪」

「おっとと……へえ、スカートじゃなくて短パンを履かせたんですか。意外ですね」

「スカートは履いてくれなかったんだよ……折角、こんなに用意したのに」

「露出が大きい服しか来てくれなかったんだ」

「色々と買ったのに着てくれたのはそれだけ……残念」

「ぷるるんっ」



疲れた表情を浮かべる3人に対してクロミンが慰めるように鳴き声を上げると、サンはレイナの背中に乗り込む。レベル1とはいえ、普通の人間ではないので力は強く、まるで親に甘える子供のように擦り寄る。



「きゅろっ♪」

「うわっ……クロミンよりも甘えん坊だな、よしよし……」

「君にだけは大分懐いているようだな……私達には未だに噛みついてくるよ」

「全く、食事の時も手掴みで食べようとするし……これからしっかりと人の社会を学ばせなければ王都へ連れて行く事も出来ないぞ」

「大丈夫、今度からはレイナが面倒を見る」

「ええっ……まあ、俺が連れて来たんだから当然か」



今後のサンの世話はレイナが行う事が決まり、まずは彼女を人間社会に溶け込ませるため、色々と常識を教えなければならない。最もサンはレイナの言う事だけはちゃんと聞くため、それほど時間を掛からずに常識を身に着ける事が出来た――






――2日の時が流れ、村の方に疲れ果てた状態のシロとクロが辿り着く。牙山を迂回して辿り着いた2匹はリル達が先に到着している事に驚いたが、無事に合流出来た事を喜び、到着したシロとクロを1日休ませる事にして王都への出発は明日にした。


この2日の間にレイナの方もサンに人前に出る時は衣服を身に着ける事、そして食事の際は手掴みではなくスプーンとフォークを使うように指導する。最初はサンも自分で服を着る事に苦労していたが、今ではちゃんと下着も身に着け、一人で服を着れるようになった。食事の方は未だに手掴みで食べる事が多いが、スープ等はスプーンを使って食べるようになる。


シロとクロは新しく現れたサンに最初は警戒したが、すぐに打ち解けて宿屋の庭でクロミンも交えて遊ぶ程に仲良くなった。この調子ならば王都へ連れて行っても問題ないと判断したリルは翌日の朝に出発する事にした。

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