第159話 サンドワームの餌付け

「ギュロロロロッ……!!」

「くっ……な、なんて気味の悪い生き物だ」

「気持ち悪い……」

「……生理的に受け付けない」

「ぷるぷるっ(怖い)」



外見がミミズと酷似している辺り、女性陣は薄気味悪い表情を浮かべて距離を取り、クロミンの方もレイナの背中に隠れる。そんな皆の態度にサンドワームは何かを感じ取ったのか、口内から液体を放つ。



「ギュロォッ!!」

「いかん、避けろっ!?」

「うわっ!?」

「きゃいんっ!?」

「にゃうっ!?」

「ぷるんっ!?」



リルの掛け声の元、レイナ達は咄嗟に離れるとサンドワームは口内から黄色の液体を吐き出し、地面に降り注ぐ。その結果、地面が溶解して大きな穴が生まれ、それを見たリルは液体の正体を見抜く。



「しょ、消化液を吐き出したのか……しかもなんて溶解性だ」

「消化液?」

「要するに……ゲロだ。こいつはどうやら強い酸性のゲロを吐き出せるようだ」

「ギュルルルッ……!!」



サンドワームは体内に強酸性の消化液を生み出せるらしく、この力を利用してあらゆる物を溶かして栄養として接種するのだろう。環境が厳しい牙山で今まで生き残れたのはこの消化液でありとあらゆる物を溶かし、栄養として吸収して生き延びてきたからだった。


体内の消化液を吐き出してきたサンドワームに対してリル達は警戒心を抱き、戦闘は避けられないのかと剣を抜く。だが、そんな彼女達を庇うようにレイナは前に出ると、視界に表示された画面を確認する。



(状態の項目が「興奮」から「飢餓」に変化してる……もしかしてお腹が減っているから気が立っているのか?)



人畜無害と言われているにも関わらず、唐突に現れて自分達に消化液を吐きかけようとしたサンドワームに対してレイナは空腹で気が立っているから襲いかかって来たのではないかと判断する。そのレイナの予測は間違っておらず、姿を現したサンドワームはレイナ達の事を餌と認識していた。


あらゆる物を溶かす消化液ではあるが、逆に言えばどんな物もすぐに溶かしてしまうので常に何かを食べ続けなければ空腹が満たされる事は無い。そのためにサンドワームは牙山に潜り込み、鉱石や地中の中の生物を捕食して生きている。


しかし、レイナが作り出したトンネルのせいで岩山の中を潜り込んでいる時にトンネルの存在に気付いて姿を現してしまう。サンドワームは突如として出現したトンネルに戸惑う一方、久しぶりに訪れた地上の生物を見て餌として認識してしまう。



「ギュロロロッ……!!」

「くっ、下がるんだレイナ君!!こいつは戦ってどうにかなる相手じゃない!!」

「レイナ、逃げるぞ!!」

「私も逃げた方が良いと思う……絶対」

「いや、大丈夫です。ここは俺に任せてください」

「ぷるぷるっ(大丈夫?)」



逃げるように促すリル達を落ち着かせてレイナはサンドワームに近付くと、警戒させないように両手を広げて近寄る。自分を恐れずに近づいてくるレイナに対してサンドワームは不思議そうに首を傾げ、どうして自分を見ても逃げようとしないのかと鳴き声を上げる。



「ギュロロッ?」

「大丈夫、怖くない……怖くないよ」

「れ、レイナ君……止めろ、止めた方が良い」

「そうだ、こいつは人の言う事を聞くような相手じゃないんだぞ……」

「……嫌な予感がする、逃げた方が良い」

「ぷるぷるっ……」



リル達は必死にレイナを呼び止めるが、ここで逃げたとしても逆にサンドワームを刺激するだけであり、レイナは覚悟を決めて鞄に手を伸ばす。そして保管していたありったけの食糧を地面に置く。



「これ、全部食べていいから……落ち着いて、ね?」

「ギュロロッ……?」



鞄の大きさから考えても有り得ない量の食糧を出したレイナに対してサンドワームは複数の眼を動かし、地面に散らばった食料品を覗き込む。これまでにレイナが預かっていた食料品を全て地面に放置すると、サンドワームは口元を近づけ、少し警戒しながらも食料品を一飲みした。



「ギュロロッ……♪」

「よ、喜んでいるのか?」

「まさか、こいつを餌付けするつもりか?そんな無茶な……」

「……逃げた方が良いのに」

「ぷるぷるっ?」



食糧を与えたレイナに対してリル達は戸惑うが、レイナの狙いは食料に夢中な間に次の手を打つためであり、サンドワームが食糧を味わっている間にレイナは指先を画面に近付ける。



(この文字変換の能力が魔法の一種なのかは分からないけど……もしも魔法の力だとしたらサンドワームが反応して襲ってくるかもしれない。だけど、今なら……)



レイナがすぐに文字変換の能力を発動しなかった理由は、サンドワームが魔石に反応する性質を持つと聞いたからであり、もしも魔法の力を使えばサンドワームが反応して襲ってくるかもしれないと判断したからである。文字変換の能力が魔法の力なのかはレイナも把握しておらず、迂闊な真似は出来なかった。


しかし、仮に文字変換の能力が魔法の一種だとしても食糧を渡して夢中になっている今ならば発動しても問題ないと判断したレイナは急いで画面に指先を向けて改竄を行う。

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