第158話 サンドワーム
「……何か、変な臭いがする」
「臭い?」
「これは……壁の中から音が聞こえる。まるで、なにかが壁の中を移動しているような……!!」
「いかん!!走れ、すぐにここを通り抜けるんだ!!」
「えっ!?は、はい!!」
リルの言葉にレイナ達は即座に従い、松明を抱えた状態でトンネルを急いで走る。移動中、徐々にトンネル内に振動が走り、時間が経過するごとに揺れが激しくなっていく事をレイナも感じ取った。
何が起きているのか分からないが、トンネルの外の光が零れ落ちる出口がレイナ達の視界に映しだされた頃にはあまりの振動に地面や天井に亀裂が走り、このままでは崩壊するのではないかという程に激しい振動が襲い掛かる。いったい何が起きているのかレイナは理解出来ず、急いで出口へ向かう。
「止まるな、走れっ!!」
「あと少しだ!!」
「頑張って!!」
「は、はい!!」
「ぷるぷる~んっ!!」
単純な足の早さは獣人族であるリル達の方が勝り、レイナは彼女達に置いて行かれないように走り続けた。一応はレイナも「神速(速度が4倍)」の技能を習得しているが、単純な脚力はリル達の方が勝るらしく、置いて行かれないように付いていくのがやっとである。
それでも出口まで20メートルほどに近付くと、振動が徐々に収まり、壁や地面に広がっていた亀裂も止まる。振動が収まった事にレイナは不思議に思うが、先に走っていたリル達は唐突に停止した。
「くっ!?」
「うっ!?」
「にゃうっ!?」
「ぷるるんっ……!!」
「はっ、はあっ……ど、どうしたんですか?」
先へ進もうとしない3人にレイナは戸惑うと、リル達はトンネルの地面や壁に視線を向け、警戒するように武器を引き抜く。その様子を見てレイナは嫌な予感を覚え、自分も鞄から聖剣を取り出そうとした時、突如として出口付近の天井の亀裂が広がり、崩壊した。
――ギュロロロロッ!!
天井から崩れ落ちた瓦礫と共に巨大な物体が出現したのをレイナは確認すると、直後に生物が発したと思われる奇怪な鳴き声がトンネル内に響く。そのあまりの声量にレイナ達は堪らずに耳を抑えるが、やがて天井に出来た大穴から超巨大な大蛇の如き生物が出現した。
外見は正確には蛇というよりも巨大なミミズを想像させるが、ミミズには存在しない眼球が8つも存在し、更には口元の部分は動物の牙というよりも、まるで鋭利に研ぎ澄まされた刃物のような歯が揃えられていた。皮膚の色は赤茶色で体長はレイナがこれまでに遭遇した魔物の中でも一番の大きさを誇る。
「さ、サンドワーム……!!」
「くっ……どうしてこんな時に限って」
「……流石にやばい」
「ぷるぷるっ……!!」
「これが、サンドワーム……!?」
リル達の言葉を聞いて目の前に現れた巨大生物の正体がサンドワームだと知ったレイナは目を見開き、想像していたよりも禍々しく恐ろしい外見に身体が震える。一方でサンドワームはトンネルの出入口を完全に封じると、レイナ達の方に黙って顔を向けたまま動かない。
どうやらトンネルを作り出した事でサンドワームに存在が気付かれたらしく、レイナは抱えていた鞄に手を伸ばす。移動の際中、邪魔になるので魔除けの石は持ち込んではいなかったので魔除けの石を取り出せば退散させる事が出来るのではないかと考えた。だが、そのレイナの考えを読み取ったようにリルがレイナの腕を止める。
「駄目だ、レイナ君……サンドワームには魔除けの石は効かないんだ」
「えっ!?ど、どうして?」
「このサンドワームの好物は鉱石、特に魔力を発する鉱石を好む傾向にある。つまり、魔石などはサンドワームにとっては好物だ。だからこそ魔除けの石であろうと魔力を発する時点で奴にとっては好物でしかない」
「だからこそ、この牙山には誰も近づかないんだ。魔除けの石を所持していても意味はなく、それどころか魔力に釣られてこんな化物が現れるからな……」
「けど、サンドワームは本当なら人畜無害の生物……怒らせなければ襲われる心配はない、はず」
「ぷるぷるっ……」
サンドワームは黙ってレイナ達に視線を向けたまま特に反応は示さず、恐ろしい外見はしているが他の魔物と違って容赦なく襲いかかる様子はない。だが、出口を塞がれたままではレイナ達も先へは進めず、膠着状態に陥った。
(どうしようこの状況……そうだ、クロミンの時みたいにサンドワームを従えさせられるかな?)
レイナは解析の能力を発動させ、クロミンの時と同様にサンドワームを従える事が出来るのか試そうとした。
(解析……うわ、何だこれ!?)
視界にサンドワームの詳細画面が表示された瞬間、その内容を見てレイナは驚かされる。
―――サンドワーム―――
種族:サンドワーム種
性別:雌
状態:興奮
特徴:牙山に生息する魔物の主、他のサンドワームは絶命したのでケモノ王国にはこの1体しか存在しない
―――――――――――
画面に表示された文字を見てレイナは「サンドワーム」が種族名である事も知り、しかも目の前に存在するサンドワーム以外の個体は存在しない事を知る。
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