第157話 トンネル

「あ、上手く行った……わあっ!?」

「な、何だ!?」

「わわっ……落ちる」

「しっかり掴まれ!!」

「ぷるぷるっ!?」



フォークが消えた瞬間に牙山に振動が走り、レイナ達は足元を滑らせないように気を付けると、徐々に岩壁の方に異変が生じた。


フォークが吸い込まれるように消えた箇所から光り輝き、やがて洞穴のような大穴が誕生した。それを見たリル達は驚くが、レイナは自分の考えが上手く行ったことに安堵する。



「良かった、成功したみたいだ」

「お、おい!!何だこれは……洞穴なのか?」

「かなり奥が深そう……」

「これはいったい何なんだレイナ君!?」

「あ、すいません!!えっと、これは「トンネル」です!!」



事前に説明しておくべきだったとレイナは皆に謝罪した後、突如として誕生した洞穴の正体を「トンネル」だと説明した。



「と、とんねる……何だそれは?洞穴や洞窟とは違うのか?」

「分かりやすく言えば山をくりぬいて作り上げた通り道のような物です。多分、山の向こう側まで続いているはずですからここを通れば大丈夫だと思います」

「何だと……この穴が向こう側まで通じているというのか!?」



トンネルを初めて見たリル達は動揺するが、レイナ自身もまさかフォークをトンネルに変化できた事に驚きを隠せない。駄目元で試してみたのだが、どうやら条件によっては文字変換の能力で作り出せるのは物体以外の物も作り出せるらしい。


出来上がったトンネルの大きさはレイナの想像通り、車が通れるほどの大きさを誇っていた。ちゃんと奥まで続いているらしく、このまま通り抜ければ山の反対側まで移動できるだろう。



「崖を登るより、ここを通った方が安全で早く辿り着けると思います。すいません、説明もなしに勝手に作って……」

「全く、驚いたぞ。今度からはちゃんと事前に説明してくれ」

「ですがリル様、このとんねるとやらがあればここを通るさいはもう危険を犯さずに済みます。これで私達も安全に通れますよ」

「おおっ、チイが珍しくレイナに優しい。今日は雨が降る」

「どういう意味だ!?」

「ぷるぷるっ」



ネコミンに対してチイは犬耳を逆立てて叱りつけるが、これで結果的にはトンネルを通過する事で安全に牙山を通り越す事が出来そうだった。



「だが……こんな物を作れるのだったらシロとクロと別行動にさせなくても良かったな」

「すいません、もっと早く思いついていれば……」

「仕方ないさ、誰が悪いというわけでもない」



ちなみにシロとクロに関しては2匹は崖を登る事は出来ないため、人間が通れない道を利用して別のルートから山越えを行っている。予定ではレイナ達が山を越える前に先に牙山の近くに存在する村で合流するはずだったが、この様子では2匹よりも先にレイナ達が村へと辿り着けそうだった。


何はともあれトンネルを作り出した事でレイナ達は安全に通れるようになり、これで危険な崖のぼりをせずに反対側に存在する崖道まで移動を行う。トンネルを潜り抜ければ王都までそれほど時間を掛けずに到着できるはずであり、もうすぐケモノ王国の王都に勇者として迎えいれられる事にレイナは内心落ち着かない。



(このトンネルを抜ければ王都までもうすぐか……緊張してきた。あ、というかこの恰好のままだと問題あるんじゃ……)



移動中にレイナは自分の姿に気付き、未だに女性の姿である事を思い出す。女性の姿の方が色々と便利なためにずっと変身していたが、よくよく考えればリル達は解析の勇者である「レア」を王都へ連れ出すために赴いたのだ。



「リルさん、そろそろ俺も男に戻った方がいいですか?」

「ん……あ、ああ、そうだな。確かにここから王都へ向かう以上は私の知り合いとも多く会う事になる。そうなると女性の姿のままというのは問題か……すまないが、村に入る前に元の姿に戻ってくれるか?」

「おおっ、遂にレイナが男に戻る時が来た」

「男の姿はあまり慣れないが……まあ、仕方ないか」



リルもレイナに指摘されて女の姿のまま共に行動するのは問題があると判断し、このトンネルを抜け出した後に立ち寄る村に辿り着く前に男性の姿に戻るように頼む。レイナもやっと自分が男に戻れる事に安心する一方、松明を抱えてトンネルの様子を伺う。



「それにしても随分と歩いてるけど、まだ外が見えませんね」

「そうだな、こんな事なら益々シロとクロを連れてくるべきだったな」

「ですが、崖を登るよりは安全で楽でしょう。歩いて辿り着けるだけなら我々としても助かります」

「まあ、それはそうだが……ん?」

「どうしました?」

「いや、今揺れなかったか?」



先頭を歩いていたリルは立ちどまり、不審な表情を浮かべて周囲を見渡す。レイナは気付かなかったが、他の二人とクロミンは何かを感じ取ったのか警戒するように壁に手を押し当て、ネコミンは鼻を鳴らす。

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