第146話 イヤンの解放
――時刻は少し遡り、高台と村の外に配置されていたホブゴブリンを始末したレイナ達は村から一旦離れると、今まで鞄の中に封じ込めていたイヤンを解放した。異空間の中に収納されていたイヤンを引きずり出すと、意識を取り戻した彼はレイナ達の存在に気付くと半狂乱になって逃げようとした。
「ひいいっ!?も、もう嫌だ!!勘弁してくれ!!」
「逃がすか!!クロミン、シロ、クロ、抑えつけろ!!」
「「ウォンッ!!」」
「ぷるぷるんっ!!」
逃げようとしたイヤンに対してシロとクロが背中から飛び乗って抑えつけると、クロミンが頭上に体当たりを行う。地面に抑えつけられたイヤンは怯えた表情を浮かべ、レイナ達を見上げる。
「ううっ……ゆ、許してくれ、もうお前等の事は誰にも言わない!!暴狼団の奴等の事を殺した事も白状する!!だからもう許してくれよぉっ……!!」
「どうやら完全に心が折れたようですね」
「そうだな……とはいえ、ただで許すわけにはいかん。それ相応の罰を受けて貰うぞ」
「ば、罰って……!?」
「お前が私達に仕掛けた罠をもう一度作れるのか?」
大迷宮にてリル達は自分達を気絶させた「煙玉」をイヤンにもう一度作るように促すと、彼は戸惑いの表情を浮かべながら尋ねた。
「こ、昏倒玉の事を言っているのか?言っておくが、あれは元々は魔物を眠らせるための道具だぞ……いったい何に使うつもりだ?」
「いいから質問に答えろ!!その昏倒玉とやらをお前は作り出す事が出来るのかと聞いてるんだ!!」
「つ、作れと言われても……材料と道具が無ければどうしようも出来ねえよ。俺の荷物があれば別だが……」
「荷物ならあるよ」
レイナはイヤンから回収していた荷物を取り出すと、彼に差し出す。ちなみに大迷宮の第四階層から抜け出した際、レイナ達は暴狼団とイヤンとマイの装備品を冒険者ギルドに渡しているが、イヤンが抱えていた荷物の方は回収したままだった。
荷物の中身を確認したイヤンは怯えた表情を浮かべながらも頷き、材料も道具もあるのでレイナ達が欲する道具は作り出せる事を告げる。そんな彼に対してリルは取引を申し込む。
「いいか、イヤン。お前がした事は決して人として許される事ではない。だが、ここで協力してくれるというのであればお前の命だけは助けてやる。私達の指示通り、薬を作るんだ」
「わ、分かった……だけど、作り終えた後に俺はどうなるんだ?警備兵に突き出すのか?」
「生憎とそれが出来れば苦労はしない」
既にリル達はケモノ王国へと移動をしており、帝国の警備兵に彼を突き出す事は出来なかった。そもそも既に大迷宮で死亡したと報告しているはずのイヤンを警備兵に突き出すのは色々と問題があり、彼はリル達の正体を知ってしまっている。その事を考えてもレイナ達は今までイヤンを異空間の中に放置するしかなかった。
しかし、これからもイヤンを連れ続けるわけにもいかず、ここでレイナはイヤンを解放する事にした。但し、彼が自分達の正体を他の人間に晒しても問題ないようにするため、ある方法を思いつく。
(騙すような形になるけど、仕方ないよね……まあ、死ぬよりはましかな?)
必死に薬の調合を行うイヤンを見てレイナは少しだけ同情するが、そもそも彼が大迷宮で問題を起こさなければレイナ達はわざわざ危険を犯して急いでケモノ王国へ戻る理由もなかった。ここは心を鬼にしてレイナは調合を終えたイヤンに向き直る。
「ほ、ほら!!出来たぞ、こいつに強い衝撃を与えれば煙が噴き出す。そいつを吸えば大型の魔物だって一発で眠っちまう!!」
「なるほど、助かったぞ」
「そ、それで俺をどうするつもりだ?本当に殺すつもりはないんだろうな?」
「ああ、約束だからな……レイナ君、頼む」
「はい……解析!!」
「な、何だ!?」
解析の能力を発動させたレイナは指先を伸ばすと、イヤンは怯えた表情を浮かべて縮こまる。そんな彼に対してレイナは詳細画面に視線を向け、表示されたイヤンのステータスに改竄を行う。
「これでよしっと……」
「お、おい!!いったい何をして……うわっ!?」
「こ、この光は……!?」
「レイナと同じ光……!!」
改竄を終えた直後にイヤンの身体が光り輝くと、やがて肉体が徐々に変形し、小さくなっていく。その様子を見ていたレイナ達は目を見開き、やがて光が収まった頃には成人男性の衣服の中から小さな女の子が現れる。
外見は可愛らしい幼女だが、目元だけは悪く、三白眼が特徴的な女の子だった。最初の内は幼女は何が起きたのか理解できずに自分の身体を見渡すが、やがて理解が追い付いたのか悲鳴を上げた。
「な、なんじゃこりゃああああっ!?」
森の中に幼女の悲鳴が響き渡り、イヤンは性別を「女性」そして年齢を「9才」にまで若返らせた結果、彼改め彼女は正真正銘の幼女へと変貌した。
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