第147話 イヤンの扱い
「――くそぉっ……どうしてこんな事に」
「悪い事をするからこうなるんだ。ほら、さっさと手伝え」
「ちくしょうっ!!」
正真正銘の幼女と化したイヤンはレイナ達に命じられるがままに働き、眠りこけたホブゴブリンから装備品を外す。殆どのホブゴブリンが人間(この場合は獣人)から奪った装備品を身に着けており、他にも建物の中には大量の食糧が発見された。
恐らくはアルドラが住民をアンデッドに変化させた村々からも奪ったと思われ、相当な量の食糧が保管されていた。レイナは収納制限が存在しない鞄とリュックに次々とホブゴブリンから回収した装備品と食料を詰め込み、最後にホブゴブリンの始末を行う。
「本当に起きないなこいつら……」
「ふん、俺の作り出した昏倒玉を舐めるなよ。仮に赤毛熊であろうと1時間は何をされようと絶対に起きない代物なんだよ!!」
「口の悪い幼女だな……よし、そろそろ止めを刺そう」
「ちょっと可哀想だけど……仕方ないよね」
「同情は不要、このホブゴブリン達も人間を襲っている」
レイナ達は気絶して動かないホブゴブリンの始末を開始するため、武器を引き抜く。レイナはアスカロンを利用して次々と眠っているホブゴブリンの首を切り裂き、苦しむ暇もなく命を奪う。
他の者達もレイナと同じくホブゴブリンの始末を実行し、やがて30体近くのホブゴブリンを全て始末した。また、魔王軍の旗に関しては回収を行い、これで危機は排除された事になる。
「ふうっ……一時はどうなるかと思ったが、これでもう大丈夫だろう」
「それにしても魔王軍が既にケモノ王国内の領地に侵入し、これほどの数のホブゴブリンを用意していたとは……アルドラという吸血鬼の件も気になりますし、すぐに王都へ戻って報告した方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな、連絡役の使者も殺された事もあるし……とりあえずは街に戻って事情を説明しよう。それとホブゴブリンの死体はこのまま放置するぞ」
「何だと!?素材を剥がないというのか!?」
「そうだ。こいつらは魔王軍の一員であるという証拠だ。街の人間を連れて確かめさせ、魔王軍が既にケモノ王国の領地内に侵入している事を他の人間にも伝えねばならない」
リルの言葉にイヤンは信じられない表情を浮かべ、冒険者にとっては苦労して倒した魔物の素材を放置するなどあり得ない話だが、状況が状況だけに素材の回収は後回しになる。一応は何体かの死体はリュックに詰めこむと、今度はイヤンのこれからの扱いを話し合う。
「さて、今度は君に関して話し合わねばならないな。イヤン君?」
「な、何だと……どういう意味だ?」
「お前をこれから解放するべきか、それとも連れて行くべきかを話し合う」
「何だって!?」
イヤンはてっきり役に立てば自分を元に戻して解放すると思い込んでいたが、大迷宮の一件の事を考えると簡単に許すわけにはいかず、そもそも彼は人を殺している。
「言っておくがお前は恋人が死んで半狂乱に陥り、私達を殺そうとしただろう?実際に暴狼団の連中はお前に殺されてしまったからな。その罪を忘れたとは言わせないぞ?」
「うっ……あ、あの時の事は悪いと思っているよ。だけど、暴狼団の連中に関してはお前等だって迷惑がっていただろう!?」
「そんな言葉を吐けるうちはどうやら反省していないようだな。確かに暴狼団は私達に突っかかっていたが、それでも殺したいほど憎い相手ではなかった」
「ま、待てよ!!それなら俺を殺すつもりか!?」
「そんな事をすれば私達もお前と同じ過ちを犯した人間になってしまうだろう。殺しはしない……が、相応の罰を受けて貰う」
「ば、罰……!?」
イヤンは怯えた表情を浮かべて身体を縮こまセると、外見が幼女なのでとても可哀想に想えるが、決して彼の罪は軽い物ではない。リルは考えた結果、ある判決を下す。
「これから君は――」
――その後、どうにか街に戻ったレイナ達は使者が殺された事、そしてこの近辺で略奪を繰り返していたホブゴブリンの集団の始末を行ったことを警備兵と民衆に伝えた。最初は驚かれたが、持ち帰ったホブゴブリンの死体と略奪されていた武器や防具や食料などを見せると話を信じて貰う。
すぐに街の警備兵はリル達の案内の元でホブゴブリンが住処としていた廃村へと訪れ、他のホブゴブリンの死体とアルドラが残したと思われる魔王軍の旗を確認する。彼等も直に目にした以上はリル達の話を信じたらしく、もしも王都から問い合わせられた時に証人になる事を誓う。
「リル様、この度の件は誠にありがとうございます。これでこの近隣の村や街に平和が取り戻せました」
「気にする事はない、領主殿もこれで魔物共に頭を悩まされる事はなくなっただろう」
「おっしゃる通りですな。はははっ……」
リル達はこの近隣の領地を治める領主の元に赴き、事態の説明を行う。領主の男は長い間も頭を悩ませていたホブゴブリンの集団が討伐された事でリル達に深く感謝し、彼女達を快く迎え入れる。
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