第145話 夜襲成功

――しばらく時間が経過した後、村の中央にて殆どのホブゴブリン達が寝静まった頃、4体のホブゴブリンが眠たそうに瞼を擦りながら起き上がった。


この4体は高台の見張りと村の外の見回り役を行っているホブゴブリン達と交代するため、渋々と眠気を抑えるように瞼を擦りながら村の出入口の方角へ向かう。



「グギィッ……」

「ギィアッ!!」

「ギャンッ!?」



半ば眠りについていたホブゴブリンを他の個体が頭を叩いて強制的に目覚めさせると、4体は村の出入口に向けてのろのろと移動を開始する。しかし、その途中で彼等は奇妙な生物と邂逅した。



「ぷるぷるっ」

『グギィッ……?』



4体の前に現れたのは頭の上に布袋を抱えたスライムであり、体色が黒いので暗闇に紛れて見分けがつきにくかったが、黒色のスライムが近づいてくる事に気付く。4体のホブゴブリンは村の中に変わった色合いのスライムが存在する事に戸惑うが、そのままスライムは4体を通り過ぎていく。


別にスライムなど特に珍しい生き物でもなく、川辺から離れてこの村の中にスライムが紛れ込んだのかと判断したホブゴブリン達だが、この場合はどうするべきか悩む。別にスライムの1匹が入り込もうと特に問題はないように思われるが、それでも彼等はアルドラからの命令を受けてこの村には自分達以外に何者も入れるなと言われていた。



「ぷるぷる~んっ!!」

「ギイイッ?」

「ギギィッ……」

「ギィアッ」



スライムの鳴き声を耳にした他のホブゴブリン達も目を覚まし、いったい何事かと視線を向ける。やがてスライムは村の中央部に移動を行うと頭の上に乗せていた布袋を下ろし、周囲の状況を見渡す。



「ぷるぷるっ……ぷるっくりんっ!!」

『ギギィッ!?』



目を覚ましたホブゴブリンの大群に取り囲まれた状態でスライム改め「クロミン」は跳躍を行うと、そのまま布袋に向けて勢いよく着地を行う。その瞬間、布袋の中から白煙が発生すると、そのまま周囲に拡散してホブゴブリン達を飲み込む。


唐突な煙に寝ぼけ眼のホブゴブリン達も驚いて煙を振り払おうとするが、直後に強烈な眠気に襲われて殆どの個体が意識を失って地面に倒れ込む。位置的には一番離れていた4体のホブゴブリンの方にも煙が迫り、何とか4体は逃げようとした。



「グギィッ!?」

「ギギィッ!?」

「おっと、逃がすか」



しかし、逃走を開始しようとした4体のホブゴブリンの前に4つの人影が現れると、それぞれが武器を振り翳してホブゴブリンに襲いかかる。



「兜割り!!」

「牙斬!!」

「魔爪術!!」

「エクスカリバー!!」

『ギィアアアアッ!?』



4体のホブゴブリンの悲鳴が響き渡ると、地面に死体が倒れる音が鳴り響き、残されたのは気絶したホブゴブリンの集団と、大きな鼻提灯を作りながら眠りこけるクロミンだけだった――






――白煙が完全に消え去った後、レイナ達は口元に布を巻きつけて気絶したホブゴブリン達の様子を伺う。全てのホブゴブリンが完全に意識を失っており、しばらくは目が覚ましそうになかった。その様子を見てレイナは安堵すると、眠りこけているクロミンを抱きかかえる。



「クロミン、よくやったね」

「ZZZ……」

「返事がない……ただのしか○ねのようだ」

「何を言ってるんだお前は……」

「まだ生きてる、縁起でもない」

「あ、本当だ。なら……返事がない、ただのスライムのようだ」

「それなら問題ない」

「いや、問題ないのか!?」



定番のボケを行うレイナにチイが呆れるが、クロミンを頭に抱えてレイナは地面に落ちた布袋を拾い上げる。扱いには気を付けながらも布袋を回収すると、リルに振り返って頷く。



「作戦は成功したようだな……よし、出てきてもいいぞ」

「…………」



リルが大声を上げると、建物の陰から人影が現れた。そして現れたのは目つきが悪い「幼女」であり、彼女に対してリル達はにやにやとわざとらしい笑顔を浮かべながら迎え入れる。



「いやいや、君のお陰で助かったよ。見ての通り、ホブゴブリンを一掃する事に成功した」

「本当に助かったぞ、それにしても……随分と可愛いらしい容姿になったな」

「将来が楽しみ」

「うるせえっ!!このくそアマ共がぁっ!!」

「ま、まあまあ……落ち着いて」



幼女はリル達の言葉に対して怒り心頭で殴りかかろうとしたが、レイナに抑えられてしまう。彼女は必死にレイナを振り解こうとするが、子供の力ではレイナには及ばず、結局は持ち上げられた状態でリルにからかわれてしまう。



「口の利き方には気を付けた方が良いぞお嬢ちゃん?君がこうして生きていられるのは誰のお陰だと思っている?」

「ぐぎぎっ……!!」

「リル様、からかうのはそれぐらいにした方が良いかと……」

「少し可哀想になってきた」

「それもそうだな。まあ、結果的にはこの子のお陰でホブゴブリンは何とか出来そうだ。よくやったよイヤン君」

「ちっくしょお~!!」



イヤンと呼ばれた幼女の悔し気な声が村中に響き渡り、彼がここまでに至る経緯をレイナは思い返す――

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