第137話 ホブゴブリンの追跡

「あった、これでいいかな」

「……そんな物をどうするつもりだ?」



レイナはリュックの中から適当な道具を取り出し、一枚の皿を取り出す。それを見たリル達は不思議がるが、解析の能力を発動させたレイナは皿の詳細画面を開くと文字変換の能力で名前を別の文字へ書き写す。



「いいから見ていてくださいね……それ!!」



準備を終えるとレイナはフリスビーの要領で川に投げ込み、そのレイナの行為にリル達は呆気に取られるが、即座に皿は空中で光り輝くと形を変形させ、対岸まで続く「橋」へと変わり果てた。素材は石材でアーチ状に形成された橋であり、それを見たリル達は驚愕の表情を浮かべる。



「よし、この橋なら壊される心配ないと思うので先に進みましょう」

「そ、そうだな……相変わらず君の能力は凄いというかなんというか」

「もう何でもありだな……」

「流石はレイナ、略してさすレイ」

「ぷるるんっ(えっへん!!)」



自分の主人が褒められた事にクロミンは嬉しそうに身体を震わせ、そのまま率先して作り上げた石橋の腕を移動する。その後にレイナ達も続き、川を泳がずに先に進む事に成功した。


無事に川を渡り切るとネコミンは鼻を引く付かせ、ホブゴブリンとファングらしきの魔物の臭いをかぎ分ける。だが、川を渡る時に臭いが流されてしまったのか彼女の鼻でも臭いは分からず、困ったように眉を顰める。



「駄目、ここには臭いは残っていない……これ以上は追跡できない」

「そうか、困ったな……もうすぐ日が暮れる、今日はここで野宿するしかないか」

「リル様、どうしますか?魔除けの石を用意しますか?」

「いや、それだとホブゴブリンにも私達の存在を気付かれる恐れがある。知能が高い魔物は魔除けの石の波動さえも感じ取れるからな……場合によっては魔除けの石の波動に対する耐性を持っているかも知れない」



これまでの道中でレイナ達は魔除けの石をリュックの中に収納しており、そのせいで現在は魔物が現れても追い払う事は出来ない。このような魔物が巣食う森の中で野営を行う時は魔除けの石は必需品なのだが、状況が状況なので魔除けの石に頼る事は出来ない。


だからといって夜の中を行動するのは危険のため、ここで一晩明かさなければならない。比較的に見晴らしがよくて魔物に襲われた時もすぐに対応できる場所を探す必要があるが、ここでシロとクロが声を上げる。



「「ウォンッ!!」」

「ん?どうしたのシロ君、クロ君?お腹すいたの?クロミンを齧る?」

「ぷるんっ!?(何でっ!?)」

「「クゥ~ンッ(ちゃうちゃうっ)」」



2匹はレイナ達の服に齧りついて何かを発見した引き寄せ、何かを発見したのかとレイナ達はシロとクロに案内されるままに移動を行うと、やがて大樹の前に辿り着く。



「ウォンッ!!」

「随分と大きいな……恐らく、1000年近くの樹齢だろう」

「凄く、大きいですね」

「……レイナ君、今の台詞をもう一回言って貰えるか?」

「え?す、凄く……大きい?」

「もっと上目遣いで、出来れば火照った表情で」

「リル、そこまでにして」

「リル様……」

「ぷるりんっ(しょうがない奴だな……)」



自然にレイナに対してセクハラを行うリルに他の者達は呆れるが、どうしてシロとクロがこの場所に案内したのかというと、彼等は大木の麓に移動すると地面を掘り始める。



「「ガウッ!!」」

「ん?どうしたんだろう、急に……トイレがしたくなったのかな?」

「いや、これは地面から何かを感じ取ったのだろう。私達も手伝おう」



唐突に地面を掘り始めた2匹にレイナ達も力を貸し、その場で地面を掘り返す。しばらくすると、地中の中から複数の光る鉱石が発見され、それを見たレイナは驚きの声を上げた。



「これは……魔除けの石!?どうしてこんな所に……」

「……殆どが効力を失っているな。だが、まだ使える物も残っている」

「いったいこれはどういう事なんだ……どうして魔除けの石がこんな場所に?」

「道理でこの大木の周りだけ、魔物の気配を感じないと思った」

「「ウォンッ!!」」



シロとクロが見つけ出したのは地中の中に隠された大量の魔除けの石らしく、この2匹は魔除けの石の波動を感じ取ってこの場所まで案内したという。どうやら大木の周辺に魔物の気配が存在しないのはこの魔除けの石の効果らしく、シロとクロは訓練を受けているので魔除けの石の効果は受け付けず、ここまで辿り着く事が出来た。


どうやら二匹は森の中で魔除けの石の波動を感じたので不思議に思い、レイナ達をこの場所まで案内したらしい。2匹の頭を撫でながらもレイナは魔除けの石に視線を向け、確かにチイの言う通りに効力を失っている物も多いが、未だに発動し続けている魔除けの石も存在した。そのお陰で大木の周辺には魔物が寄り付かず、まるで大迷宮の安全地帯のような空間を築いている。

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