第136話 解析の本領発揮

「ホブゴブリン?」

「どうした?何か分かったのか?」

「いや……なんか、馬車を壊したのはホブゴブリンの仕業みたいです」

「ホブゴブリン……?盗賊の仕業じゃないのか?」



レイナの言葉にリル達は疑問を抱き、彼女達は馬車に襲撃したのはファングを飼いならす盗賊の仕業だと思っていた。しかし、解析の能力によってレイナは馬車に何が起きたのかを調べると、再び詳細画面が更新されて新しい文章が表示される。



『馬車(破損)――ファングを従えたホブゴブリンの攻撃を受けて破壊された馬車。中に乗っていた兵士は皆殺しにされ、装備品を剥ぎ取られた』

「やっぱり、ホブゴブリンの仕業のようです。ファングを従えたホブゴブリンが馬車を襲ってたみたいです」

「ホブゴブリンがファングを従えた……?そんな事が有り得るのか?」

「いや、可能性は十分にある。通常種のゴブリンはともかく、上位種であるホブゴブリンは知能も力も高く、他の魔物を従える知恵を身に着く事があると文献で見た事がある」

「ぷるん?(そうなの?)」



リルの知識では「ホブゴブリン」と呼ばれる魔物は通常種のゴブリンが進化を果たした上位種であり、普通のゴブリンよりも身体能力も知能が高いという。中には人語を完全に理解して話す事も出来る個体も存在し、そんなホブゴブリンならばファングを従えて行動を共にする事も不可能とは言い切れない。


レイナの解析の能力によって馬車を襲撃したのはファングを従えたホブゴブリンである事は確定し、そうなるとこれまでの旅人や商団を襲撃した事件の犯人は人間の盗賊ではなく、ホブゴブリンの仕業だと判明する。



「ですがリル様、ホブゴブリンがこのケモノ王国に生息するなど聞いた事もありませんよ?」

「だが、事実としてこの馬車を襲ったのはホブゴブリンだ。レイナ君が言うのだから間違いはないだろう、今はホブゴブリンの出自を調べるよりも奪われた荷物を取り返す必要がある。この兵士達の仇も打たなければならないからな」

「それなら任せて……臭いを辿ればいい」

「「ウォンッ!!」」



幸いというべきか現場には強い獣臭が残っており、恐らくはファングの物だと思われ、この臭いを辿ればホブゴブリンが逃げた方角が分かる。嗅覚が獣人族の中でも人一倍鋭いネコミンと、白狼種と黒狼種であるシロとクロならば追跡は容易かった。


レイナ達は兵士の死体を後で埋葬する事を約束した後、彼等に両手を合わせて今は追跡に専念する事にした。ホブゴブリンから荷物を取り戻し、この周辺地域に暮らす住民の脅威を取り除くためにもレイナ達は追跡を開始した――






――臭いを辿って草原を移動すると、レイナ達は森へと辿り着く。地図を確認した限りでは名前すらない森のようだが、森の前には注意書きが記された看板が立てられていた。



「……この先、赤毛熊が出没するので注意、か」

「どうしますかリル様?何の準備も無しに森の中へ入るのは危険ですが……」

「ここまで来た以上、引き返す事は出来ない。ネコミン、まだ臭いは残っているか?」

「大丈夫、はっきりと残ってる」



ネコミンの先導の元、レイナ達は周囲を警戒しながら森の中へと入っていく。時刻は間もなく夕方を迎えようとしており、出来る事ならば日が暮れる前にホブゴブリンを見つけ出して始末しておきたい。


移動を開始してから数十分後、日が暮れかけてきたときにレイナ達は森の中に存在する大きな川を発見した。そこでネコミンは眉を顰め、どうやらここで臭いが途切れているらしい。



「……駄目、ここから先は臭いが残っていない。多分、この川を渡ったとは思うけど……」

「川を渡った時に臭いを落としたわけか。故意なのか、それともこの先に住処があるのか……」

「どうしますリル様?もう夜を迎えようとしています、これ以上先に進むのは危険では……」

「……もう少しだけ先を進もう」



川の幅は10メートルは存在し、底に関してはかなり深く、リル達の首元まで存在した。川の流れはそれほど強くはないので乗物がなくとも移動は出来るだろうが、移動の際中に見つかったら厄介な事になる。


対岸に視線を向けると木々が広がっているだけで特に魔物の姿は見えないが、川の中を移動中にもしも魔物に見つかったら厄介な事になる。水中で自由が利かない状態で襲われたらひとたまりもなく、用心して進まなければならない。



「川を渡る乗物がない以上、このまま進むしかないか……仕方ない、全員服を脱いで頭に抱えて進もう」

「えっ!?いや、ちょっと待ってください!!それなら俺が橋を作りますから!!」

「橋を作る?」



リルは当たり前の様に脱ぎ出そうとしたので慌ててレイナは引き留めると、彼女は王城を脱出したときのように一文字の道具を探し出して川に橋を作ろうとした。

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