第135話 盗賊?
「この人達も死んでる。でも、それにしては身体が不自然に綺麗な気がする」
「え、それってどういう意味?」
「これを見ろ、傷を負っているのは首筋だけだ。つまり、首を切られて出血死したという事だな」
兵士達の死体は何故か全員が首筋を噛み千切られた跡があり、こちらの方は馬を殺したファングという魔物の仕業だと思われるが、全員が同じ殺され方である事にリル達は疑問を抱く。
「ファングは性格は獰猛だが、基本的に人間を食べる事は少ない。余程腹が減っていたのならともかく、基本的にファングの主食は獣の肉だけ……人間を餌として喰らう事は滅多にないはずだが……」
「でも、実際にこの人達は襲われてますよね?」
「確かにそうだが、死体は綺麗なままだ。首筋以外に傷を負っていない……それに腹を減らして襲ってきたのならば馬の死体が残っているのも気にかかる」
もしも馬車を襲ったファングの狙いが餌を得るためだった場合、兵士や馬の死体が残っている事はあり得ない話だった。襲いかかったファングが少数、あるいは単体で全ての死体を食いきれなかったとしても、それならば兵士の死体の装備が剥ぎ取られている事が説明できない。
魔獣種であるファングが人間の装備を奪うはずがなく、そもそも綺麗に死体から服を剥ぎ取るなど出来るはずがない。ならば考えられるのはファングの他に何者かが兵士達の死体から装備を剥ぎ取ったとしか考えられなかった。
「この横転した馬車も気にかかる。ファングだけでこんな大きな馬車を倒れさせることが出来るとは思えない」
「じゃあ、ファング以外の何かに襲われたんですか?もしかして、人間?」
「その可能性もある。考えられるとしたらファングを飼っている盗賊の仕業とか……」
「盗賊……そういえば街で聞き込みを行った時、最近この周辺で盗賊が現れたという話を聞いています」
チイは街で聞いた噂の事を思い出し、その内容を語る。半年ほど前から旅人や商人が襲われるという事件が多発しているらしい。
「私達が宿泊した街だけではなく、この地域に存在する村や他の街の人間も被害を受けているそうです。何でも用事があって他の街に行こうとした人間達が道中で襲われ、その後は荷物も装備も全て奪われた状態で放置されるとか……」
「ふむ、その噂の内容と確かに一致しているな」
「ですが、何度も冒険者や兵士がこの地域一帯の調査を行ったようですが、盗賊らしき存在は確認されていないとの事です。被害者の遺族に泣きつかれて何度も入念に調査を行ったそうなんですが、結局は盗賊の存在は確認されませんでした」
「なるほど、余程用心深い相手という事か」
周辺地域の村や街の人間達が何度も調査を行ったが、結局は盗賊の姿は発見されず、調査は断念してしまう。それが一か月前の出来事だった。
最後の調査が打ち切られた後は盗賊の被害はなくなったので調査した人間達は既に盗賊が別の地方へ逃げたと判断したが、今現在の状況はその盗賊とやらに使者が襲われたとしか思えない。
「リル、これからどうする?」
「……とりあえずは彼等の事を街の人間に報告する前に、まずは現場の調査を行う。まだ近くにその例の盗賊とやらもいるかもしれない」
「レイナ、お前の能力で何か分からないのか?」
「う~ん……とりあえず調べてみる」
チイの言葉にレイナは兵士達の死体に視線を向け、まずは両手を合わせて彼等の冥福を祈った後、解析の能力を発動した。だが、予想通りというべきか死体に対しては解析の「詳細画面」は開くことはなく、彼等が誰に殺されたのかは分からなかった。
レイナはやはりダメだった事をリル達に伝えようとすると、不意に横転した馬車が視界に入り、こちらならば解析の能力が発動して何か手掛かりを掴めるのではないかと試しに解析を行う。
(解析)
馬車を視界に納めた状態でレナは解析を発動させると、死体と違ってこちらの方は詳細画面が表示され、どのような経緯で馬車が壊れたのかを確認できた。
『馬車(破損)――右側の車輪に強い衝撃を受け、横転した際に破損』
武器や魔道具の場合とは異なり、表示される画面は質素な物だが壊れた経緯を確認する事は出来た。文章によると右側から強い衝撃を受けて壊れたようだが、確かに馬車の右側の車輪は砕け散った状態だった。
(もう少し詳しい内容を調べられないかな……あ、出来た)
レイナが破壊に至るまでの経緯を知りたがると、自動的に画面が更新されて内容が変更し、正に「詳細」が表示される。
『馬車(破損)――移動中、ファングを従えたホブゴブリンの攻撃を受けて右側の車輪ごと破壊され、そのまま横転した』
更新された文章を見てレイナは驚き、内容を見るとどうやら盗賊の襲撃だと思われたが、実際はファングを従えた「ホブゴブリン」の仕業であると判明した。
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