第131話 リルル・ウォン
「お、王女様だ……間違いない!!あれはリルル王女様だ!!」
「どうして王族がこんな場所に!?」
「うろたえるな!!今はアンデッドの駆逐にだけ集中しろ、まだ聖水を所持している者はいるか!?」
『は、はい!!』
リルの気迫に圧されて兵士達は慌てて残ったアンデッドの対応を行い、冒険者達も彼女に従う。その様子を見てリルは彼等が自分に従った事に安堵する一方、レイナにも協力を求める。
「レイナ君、悪いが残ったアンデッドの始末を頼めるか?」
「いいんですか?」
「ああ、正体を晒した以上はもう君の事をも隠す必要はない。思う存分にその力を発揮してくれ」
「……分かりました」
レイナはエクスカリバーを構えると、意識を集中させて刀身を光り輝かせる。エクスカリバーを使い始めて分かった事だが、レイナは自分の体内の「魔力」の存在を感じ取れるようになっていた。
――戦技や魔法が扱えないレイナではあるが、魔法の源である「魔力」に関しては確かに体内に宿していた。最初の内は感じとる事は出来なかったが、エクスカリバーは所有者の魔力を吸収して効果を発揮する。そのお陰でレイナは魔力を多少は操れるようになった。
エクスカリバーを握り締めたレイナは自分の体内の魔力を手元に集中させ、聖剣に送り込む。魔法は使えなくとも聖剣に魔力を宿す事は出来るようになったレイナは城壁の下に集まったアンデッドに視線を向けると、聖剣を振り払う。
「はああっ!!」
『アアアアッ……!?』
聖剣から一際大きな光刃が放たれると、アンデッドの大群を吹き飛ばす。アンデッドは光刃を掠っただけでも身体が灰と化して完全に消え去り、その様子を見ていた兵士と冒険者は圧倒される。
「す、凄い……何だ今の!?」
「あのアンデッドの大群を一撃で……」
「今のは魔法か!?という事はあの姉ちゃんは高レベルの修道女なのか!?」
「いや、でも剣を使ったぞ?」
一撃でアンデッドを数十体は灰と化したレイナに城壁の人間達は混乱するが、そんな彼等の反応を予想していたようにリルはレイナの紹介を行う。
「彼女は私の騎士団の新しい騎士だ!!聖剣の使い手でもある!!」
『おおっ!!』
「えっ……騎士?」
「そういう風に紹介しておいた方が面倒にならない」
「勇者である事を人前に明かすわけにはいかないからな……」
レイナの事をリルは自分の騎士団に入った聖剣の使い手だと紹介すると、兵士と冒険者は納得した様に頷き、すぐに戦闘に集中を行う。やがて3体の牙竜を圧倒した黒竜も駆けつけると、残されたアンデッドを一掃する。
「ガアアアッ!!」
『アアアッ……!?』
「す、すげぇっ……本当にあの牙竜、アンデッドだけを襲ってやがる」
「信じられねえ……」
「あ、あの牙竜も王女様が使役しているのですか!?」
「その通りだ!!あの竜種は我々の味方だ、絶対に攻撃するんじゃないぞ!!」
城壁の前に集まったアンデッドを薙ぎ払う黒竜の姿に兵士と冒険者は怯えるが、味方である事をリルが宣言すると安心した表情を浮かべる。
牙竜が味方だと知ればこれ以上に心強い存在はおらず、瞬く間に城外のアンデッドを駆逐する牙竜の姿に兵士達は動揺しながらも様子を見守った。
「ガァアアアッ!!」
最後の1体が灰と化したのを確認すると黒竜は勝利の咆哮を行い、城壁の人間達はその恐ろしい咆哮を耳にして身体を震わせるが、レイナが黒竜を呼び寄せて落ち着かせる。
「こら、クロミン!!そんなに大声を出したら皆が驚くでしょっ!!もう少し声を抑えなさい!!」
「ガウッ……」
「お、おい……あの黒い牙竜を叱りつけてるぞ」
「信じられねえ……しかも牙竜の方も従ってるぞ」
レイナが叱りつけると黒竜は母親に怒られた子供のように落ち込み、そんな黒竜の頭をレイナは抱き寄せる。その様子を見た者は誰もがレイナが黒竜を使役しているようにしか見えず、リルは安堵した表情を浮かべた。
これで完全に正体が街の人間に気付かれたリル達は正体を隠す事を止め、変装を解くと兵士の代表を呼び寄せて状況の説明を行う。
「警備隊長はいるか!!」
「は、はい!!ここにいます、リルル王女様!!」
「よし、では見ての通りにアンデッドを操作していた吸血鬼は私達が倒した。街の住民にはアンデッドの脅威はもうなくなったことをすぐに伝えるんだ」
「はいっ!!」
「それと……私達がここへ来た事も王都へ連絡してくれ。予定よりも大分早くの帰国になった事を父上に知らせる必要がある」
「わ、分かりました!!」
「よし、それでは私達は先に休ませてもらう。レイナ君、黒竜の事は任せたぞ」
「あ、はい……クロミン、後で迎えに来るから今日はここで大人しくしててね」
「ガウッ!!」
レイナの言葉に「早く戻ってきてね」という風に黒竜は頷くと、そのまま城壁を少し離れると身体を丸めて休む。
城壁の人間は街の近くに牙竜のしかも亜種が寝入る姿を見て内心冷や汗をかくが、レイナの文字変換の能力が回復するまでは放置するしかないので今日一晩だけは街の人間に我慢してもらわなければならなかった――
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