第130話 魔王軍の真相

「お、おい!!あんたら、何してんだ!?」

「悪いが少し黙っててくれ。この吸血鬼には色々と聞きたい事がある」

「聞きたいことがあるって言われても……まだアンデッドは残ってるんだぞ!?それにあのバカでかい牙竜だっているのに!!」



吸血鬼が死ぬ前に尋問を始めようとしたリルに他の兵士や冒険者達は戸惑い、未だに街の城壁にアンデッドが群がっているという事実は変わりはない。黒竜に関しても街の人間から見れば唐突に現れた魔物にしか見えなかった。


だが、ここで吸血鬼から魔王軍の情報を得られるのであればリルは他の人間に構っている暇はなく、彼女に質問を行う。



「さあ、答えろ!!魔王軍とはいったいどういう事だ!!お前等は何者だ!?」

「ぐうっ……殺せ」

「リル様、この女はもう……」



エクスカリバーの攻撃を二度も受けたアルドラの身体は徐々に痩せ細り、既にミイラのように変化していた。その様子を見てレイナは戸惑うと、彼女の状態をチイが推察する。



「吸血鬼にされた人間はその時点で肉体が年齢を重ねる事も無くなり、永久に姿は変わらないと言われている。しかし、聖属性の魔法や死を迎える重傷を負った時、肉体が一気に実年齢分まで老化するという話を聞いた事があるが……まさか、事実だったのか」

「あああっ……いや、だ。こんな醜い姿を見るなっ……」

「……介錯して欲しければ答えろ。これ以上に姿を見られたくないというのであれば、な」



徐々に老け始めていく自分の姿にアルドラは涙を流し、彼女は必死にこれ以上自分の事を他の人間に見られる前に殺す事を嘆願した。そんなアルドラにリルは魔王軍の正体を話せば楽にする事を告げると、彼女は語り始めた。



「魔王軍、は……復活、した……もう、間もなく……行動を再開する手筈になっている」

「いったいどういう意味だ!?」

「リル様、もうこの者は……」



既にアルドラの意識は途絶え、虚ろな瞳で空を見上げたまま動かなくなってしまう。リルはその様子を見てもう彼女からこれ以上の情報を聞き取れないと判断して剣を振り下ろそうとした時、レイナがそれを止めた。



「あの、待ってください!!」

「……どうした?もうこの状態だと助からないんだぞ?まさか助けたいと言い出すつもりじゃ……」

「いや、違います……その、顔を見せてください」



レイナはアルドラが事切れる前に彼女の顔に視線を向け、一か八かだが「解析」を発動させる。視界に詳細画面が表示されると、レイナはアルドラが完全に事切れる前に内容を確認する


以前にオロカという人攫いを相手にしたときのように解析の能力を使えばアルドラの正体を見抜く事が出来るのではないかと考えた。



(まだ生きているなら「解析」が使えるはず……!!)



アルドラが完全に死ぬ前にレナは彼女に「解析」を発動させると、視界に詳細画面が表示された。



―――アルドラ・ファウスト―――


種族:吸血鬼


性別:女性


年齢:852才


状態:瀕死


特徴:魔王軍幹部「七星将」を勤め、渾名は「紅血のアルドラ」かつて滅ぼされた魔王軍の唯一の生き残りであり、帝国大臣ウサンと手を組んで魔王軍の再建を計る。獣人王国に赴いた理由は帝国領土から離れ、獣人王国を支配するため――


――――――――――



視界に表示された画面の文字を全て読み切る前に画面が閉じてしまい、驚いたレイナはアルドラに視線を向けると、どうやら事切れたのかぴくりとも動かなかった。その様子を見てレイナは黙ってアルドラの瞼を閉じる。



「……アルドラの正体が少しだけ分かりました。この人は過去に滅ぼされた魔王軍の生き残りのようです」

「本当か?」

「そ、そんな事まで分かるのか?」

「はい、それとどうやらこの人の語る魔王軍はやっぱりウサン大臣の作り出した魔王軍のようです」

「そうか……くそ、あの男め!!自国だけではなく、我々の国にまで迷惑をかけるつもりか!!」

「お、おい……どうしたんだよあんたら?」



リル達の行為に兵士も冒険者達も戸惑いを隠せず、いったい彼女達は何をしているのかと疑問を抱く。周囲の反応を察したリルは懐に手を伸ばす。


これ以上は隠し通せないと判断すると、彼女は服の中に隠していた王家の紋章が刻まれた純銀のペンダントを取り出す。



「皆の者、よく聞け!!私の名前はリルル・ウォン!!獣人王国の第一王女である!!」

「何だって!?」

「リルル王女!?」



リルが自分の本名を名乗った瞬間、戦闘中であった者達でさえも驚愕して彼女に視線を向ける。それだけにリルルという名前は有名らしく、リルルは号令を行う。



「兵士達諸君、混乱するのは分かるが今はアンデッドの駆逐に集中せよ!!それとあの黒鱗の牙竜は我々の味方だ!!決して手を出すな!!」

「ほ、本当に王女様なのですか!?」

「あのペンダント……間違いない、王家の紋章が刻まれているぞ!!」

「そ、そうだ思い出したぞ!!あの御方は王都で一度見た事がある!!まさか本当に……」

「今は戦闘に集中しろ!!取り乱すな、もう吸血鬼は死んだ!!あとはアンデッドを駆逐するだけだ!!」



リルが一喝すると兵士も冒険者も気を引き締め直し、その様子を見ていたレイナは普段の態度から忘れていたが、リルが本当のこの国の王女である事を思い出す。





※リルの本名を「リルル・ウォン」に変更しました。

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