第129話 アルドラの暴走
「だああっ!!」
「っ!?」
レイナはフラガラッハとエクスカリバーの刃を重ね合わせ、振り下ろされたアルドラの右手の爪を弾き返す。刃に触れた彼女の爪は砕け散ったが、その一方でアルドラの左手の爪がレイナを狙う。
「死ねぇっ!!」
「だあっ!!」
迫りくる爪に対してレイナは「瞬動術」を発動させ、上空へと跳躍を行う。予想外のレイナの行動にアルドラは目を見開き、空中へ飛んだレイナは「握力」の技能を最大限に発揮して強く両手の剣を掴むとアルドラの頭部へ向けて振り下ろす。
(くっ……!!)
しかし、相手が人型の姿をしている事もあり、寸前で躊躇してしまいそうになったが、相手が殺す気で迫っている以上は手加減など出来ない。覚悟を決めたレイナは腕の筋肉を固定させるために「硬化」の固有能力を発動させた。
――ゴブリンの亜種を倒したときに得た経験石を使用して覚えた「硬化」この能力は発動させると筋肉を凝縮させて防御力を上昇させる事が出来るのは既にレイナも確認していた。だが、防御力を上昇させる他にも筋肉を硬くする事で腕や足を固定化させる事は既にリルとの夜の訓練で発覚していた。
上空から全体重を乗せた一撃をレイナはアルドラに向けて繰り出すと、彼女は反射的に左手の爪で防ごうとしたが、エクスカリバーとフラガラッハの刃によって爪は砕かれてしまう。
「はぁああああっ!!」
「ぐあっ……!?」
アルドラの肉体に聖剣が食い込み、彼女は悲鳴を上げる。フラガラッハの攻撃力3倍増、更にはレイナ自身の「剛力」の技能によって通常の何倍もの攻撃威力が強化された一撃、正確には二つの剣による攻撃なので「二撃」を受けたアルドラの肉体に鮮血が走る。
右肩から切り付けられ、胴体の部分まで切り裂かれたアルドラは血飛沫を舞い上げながら倒れ込み、その様子を地面に着地したレイナは身体を震わせる。アンデッドの場合は全身が腐りかけて化物のような風貌だったので躊躇はしなかったが、今回は人間と瓜二つの容姿をした相手だけにレイナは顔色を青くする。
(本当に斬ったのか……いや、これでいいんだ。こいつは倒すべき敵なんだ)
自分に言い聞かせるようにアルドラを斬った事を後悔しないように首を振ると、すぐに城壁を取り囲んでいたアンデッドに異変が生じる。
支配者のアルドラが斬られた事で支配から逃れたのか、地上のアンデッド達の統率が乱れ、各々が勝手に暴れ出した。
「アアッ……!?」
「ウガァッ!!」
「オオオッ!!」
生物の気配に反応してアンデッド達は城壁へ詰め寄るが、先ほどと違って自分が先に城壁を上り詰めようと行動し、他の個体と争う。
アンデッドは自分の獲物を取られまいと同士討ちまで行い始め、その様子を見ていたレイナの元にリル達が駆け寄る。
「レイナ君!!無事か!!」
「吸血鬼を倒したのか!?」
「……平気?」
「「ウォンッ!!」」
「皆っ……うん、大丈夫だよ」
リル達が来てくれた事でレイナは安心した表情を浮かべ、そんな彼を見て大分精神が消耗している事に気付き、ネコミンはレイナの身体を支えるように抱きしめる。人間と同じ意思と外見を持った相手を切った事に予想以上にレイナの精神は追い詰められているらしく、ここから先はレイナに無理はさせられないと3人は判断した。
その一方で城壁の外の方では牙竜の悲鳴が響き渡り、レイナ達が視線を向けると黒竜が自分に噛みついた3体の牙竜のアンデッドを振り払い、逆襲する光景が映し出される。
「ガアアアッ!!」
『ッ……!?』
3体の牙竜に噛みつかれた状態で黒竜は暴れまわり、恐ろしい力で牙を振り解くと2体の牙竜の頭部を両前脚で踏み潰す。
最後の1体に至っては首元に噛みついて持ち上げると、勢いよく首の骨をへし折る。その光景に城壁の兵士達は圧倒され、一方でレイナ達も黒竜が勝利した事に安堵した。
(クロミンが勝って良かった……けど、後はこの人か)
レイナは身体の半分以上も切り裂かれたアルドラに視線を向けると、まだ息はあるのかアルドラは血走った目で睨みつけ、切り裂かれた箇所を閉じさせように右腕で抑える。
しかし、誰が見ても彼女の命は風前の灯火である事は明らかであり、この状態ではもう自力で回復する事は出来ないだろう。
「おのれ……よくも、よくも……!!」
「まだ生きているか……流石の生命力だな」
「だが、ここまでだ。お前はもう死ぬ……楽に逝きたいというのなら介錯してやってもいい」
「獣人の分際で……私を愚弄するかっ!!」
「止めろ、下手に動けば死を早めるだけだぞ」
アルドラは起き上がろうとしたが、傷口から更に血液が噴出し、彼女は力なく倒れ込む。その様子を見てリルは剣を構えると、彼女の首筋に押し付けて質問を行う。
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