第121話 魅了の習得
「あれ、勝手に開いた?何か覚えたのか……げっ!?」
『魅了――異性を引き寄せ、自分の虜へとさせる』
ステータス画面の固有能力の一覧にとんでもない能力が追加され、どうやら吸血鬼を倒した事で覚えたらしい。少し前に初めて「亜種」を倒したときのように能力が追加された事を思い出し、どうやら吸血鬼などの存在を倒しても能力を覚える事がある事が発覚した。
気になる事があるとすれば、どうして吸血鬼を倒したときにこちらの画面が表示されなかった事だが、恐らく考えられるとしたら吸血鬼が操作していたアンデッドを全て倒した事が原因かもしれない。吸血鬼本体を倒すだけではなく、吸血鬼が生み出した「
(それにしても魅了って……これはまたとんでもない能力を身に着けたな)
魅了という能力は異性限定に効果があるらしく、もしもこの姿の状態で発動したらと思うとレイナは背筋が凍り付く。女性に化けている時も何度か男性に声を掛けられたが、この能力を使えば更に多くの男性に言い寄られるかもしれず、はっきりと言って冗談ではなかった。
但し、能力自体は貴重だと思われるので時と場合によっては使い分けるのも悪くないかもしれない。一先ずは家畜小屋の方へと戻ると、レイナはリュックの中に収納しているリル達を呼び出す事にした――
――呼び出したときには既に吸血鬼もアンデッドを葬っていたという事態にリル達は戸惑うが、結果としては犠牲も出さずに吸血鬼を討伐を果たした事は喜ばしい。しかし、リルはレイナから吸血鬼の少女の話を少々気になる事があった。
「吸血鬼は小さな少女……しかも精神状態がまともじゃなかった?」
「はい、なんというか……アンデッドのように理性を失っていたように見えました」
「リル様、これはもしかしたら……」
「ああ……恐らく、その少女は完全には適合出来なかったんだろう」
「適合?」
リルの言葉にレイナは戸惑い、いったいどういう意味なのかと尋ねる前にネコミンが説明する。
「魔物の中には吸血鬼のように普通の人間に力を与えて、自分たちと同じ種族へと変える存在もいる。だけど、必ずしも人間が他の種族になれるとは限らない。上手く種族が変化したとしても、まるで獣のように理性を失ったり、力を使いこなせい場合も多い」
「そんな人間の事を「不適合者」と呼ぶ。今回の場合、その少女は吸血鬼に完全に変異出来なかった事から不適合者だったんだろう」
「そうなんですか……え、ちょっと待ってください。という事は……」
「その少女を吸血鬼に変貌させた別の存在がいる、という事になるな」
吸血鬼の少女を倒した事で事態は解決されたと思い込んでいたレイナだったが、リル達の話を聞いてまだ問題は解決していない事を知る。吸血鬼の少女が不適合者という事は他の何者かが彼女を吸血鬼に変異させた事は間違いない。
まだ吸血鬼が存在するという事実にレイナ達は油断できず、すぐに場所を移動してレイナ達は周辺の様子や他の村がないのかを探索する必要があった――
――それから二日後、予想通りというべきか既に吸血鬼の襲撃を受けて廃村となった村をいくつも発見する。
残念ながら生き残った住民は存在せず、村は壊滅状態だった。だが、やっとの事でレイナ達はまだ襲われていない大きな街を発見し、住民に話を聞くことが出来た。
「あんたら、よく無事に辿り着けたな!!最近、ここら辺にはアンデッドが出没するようになってな……」
「この村にも毎晩、アンデッドが押し寄せてくるんだよ。警備兵だけじゃ対応できなくて、俺達一般人も駆り出されている始末だよ」
「悪いが、今は余所者をもてなす余裕はないんだ。この村に泊まりたいというのならあんたらも手伝ってくれや」
街の人間たちの話を聞くところによると、こちらの村の方にもアンデッドが出没するらしく、街の人間は力を合わせて村を守っているという。しかし、聖属性の武器か魔法で攻撃しなければ完全に倒す事が出来ないアンデッドを相手に抵抗する事も難しい。
今現在はどうにか警備兵と街の男達が協力して街を取り囲む防壁を守護しているが、アンデッドは日が傾くと地中から出現し、襲いかかってくるので彼等は碌に寝付けもしなかった。日中でも夜を迎えるとアンデッドが襲いかかってくるという事実に恐怖に苛まれ、碌に休む事も出来ない。
レイナ達は外見が冒険者を装っている事からも村人たちに協力を求められ、共に戦うように願われる。アンデッドの件は放置出来ないため、リルは快く承諾したが街の警護を行う警備隊長に話しかける。
「他の街の警備兵や冒険者に応援は頼んでいないのかい?このままだと耐え切れないんだろう?」
「もうとっくの昔に使者は送っている!!だが、一向に戻ってくる気配がないんだ!!ここから別の街まで二日も掛からないのに一週間も返事が無しなんだぞ!!」
「……なるほど」
連日の街の防衛でナーバス気味になった警備隊長の言葉を聞いたリルは納得すると、レイナ達の元に戻って彼女はこの街に留まる事を告げた。
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