第120話 新たな聖剣

「ふうっ……」

「ああっ……!?」



レイナは戦闘の際中に解除してしまった「隠密」と「気配遮断」の技能を再び発動すると、ほんの一瞬ではあるが吸血鬼の少女の目にはレイナの姿が透けたように感じられた。


どちらも存在感を消す能力であり、それを同時に発動する事によって敵の目から見たらレイナの存在が感じ取れなくなり、まるで透明になったように見える。


冷静に対処すればレイナの姿を捉えているので見失うはずがないのだが、目の前に確かに実在するはずなのに存在感を感じられないという感覚には大抵の物が戸惑う。その隙を突いてレイナは攻撃を仕掛けた。



「だあっ!!」

「あがっ!?」



フラガラッハで切り付けるのではなく、少女の身体に目掛けてレイナは蹴りを叩き込む。こちらはリルから教わった戦法であり、獣人王国の剣士は攻撃の際は剣だけではなく、体術も交えるのが彼等の剣法でもある。


剣だけに注意を向けていた少女はレイナの攻撃に体勢を崩し、その隙を逃さずにレイナはフラガラッハを構え、覚悟を決めて振りぬく。


相手がいくら少女のような姿をしていても、もう既に人間ではない。ここで放置すれば彼女のせいでこれからも多くの人間がアンデッドへと変わり果てるかもしれない。



「はぁああああっ!!」

「がああっ!?」



フラガラッハが少女の肩に突き刺さり、そのままレイナは壁際へと追い込む。肩を突き刺された少女は悲鳴を上げて暴れるが、フラガラッハの刺した箇所から赤色の煙が上がり、少女の身体が徐々に力が抜けていく。



「ああああっ……!?」

「くっ……本当に聖属性の武器が通じた」



アンデッドと同様に吸血鬼も聖属性の武器には弱く、フラガラッハのような聖剣で突き刺された吸血鬼の少女は徐々に身体が痩せ細り、やがて力を失う。その様子を見てレイナは少女に哀れみの視線を向けるが、直後に小屋の外が騒がしくなった。


どうやら吸血鬼の少女が死亡した事で操られていたアンデッドが動き出したらしく、小屋の中の生物の気配を感じ取って接近しているらしい。この状況でリル達を呼び出すのは危険だと判断したレイナは腰の鞄に視線を向け、鞄の中から一本の新しい剣を取り出す。



(俺の世界では多分、一番有名な聖剣……今はこれに頼るしかない)



フラガラッハ、アスカロンに続いてレイナが作り出したのは「エクスカリバー」と呼ばれる聖剣だった。この世界においては全ての聖剣の中でも最も美しく、知名度が高い聖剣である。


エクスカリバーを握り締めたレイナは小屋の出入口に視線を向けると、既に数体のアンデッドが押し寄せ、彼女の姿を見て真っ先に襲いかかろうとしてきた。



『アアアアッ!!』

「頼む……力を貸してくれっ!!」



祈りも込めてレイナはエクスカリバーを振り翳すと、刀身が光り輝いた瞬間、レイナが振りぬいた方向へ向けて「白刃」が放たれる。三日月の形をした白刃はアンデッドに触れた瞬間、彼等の身体を通り過ぎた。



『アアッ……!?』



白刃が身体を通り抜けたアンデッド達は目を見開くと、直後に身体が灰と化して消えてしまう。その様子を見てレイナは驚愕するのと同時に歓喜の表情を浮かべ、事前にリル達から聞いていたエクスカリバーの伝承を思い出す。



『エクスカリバーの別名は「不殺の聖剣」と言われている』

『不殺の聖剣、ですか?』

『エクスカリバーは生者ではなく、死者を葬るために作り出された聖剣だと言われている。この場合の死者というのはアンデッドや怨霊などの類を差すと言われいるな』

『エクスカリバーは「人」を傷つける事は出来ない。正確には刃に付与されている聖属性の魔力が強大過ぎて、生物に切りつけたとしてもすぐに傷が再生してしまうみたい。だけど、怨霊系の魔物に対しては絶大な効果を発揮する』

『だからこそエクスカリバーは「退魔の聖剣」という異名もある。アンデッドと戦うとすればこれ以上に相応しい武器はないだろう』



リル達との会話を思い出したレイナはエクスカリバーに視線を向け、フラガラッハと共に握り締めて外へ赴く。そこには300体近くのアンデッドが屯しており、姿を現したレイナに一斉に襲いかかろうとした。



『ウアアアッ!!』

「うおおおおっ!!」



周囲から押し寄せるアンデッドに対してレイナはエクスカリバーを大きく振り翳し、同時に反対の腕で掴む。フラガラッハに視線を向け、今まで何度も窮地を救ってくれた自分の聖剣を信じる。


フラガラッハの特性は「攻撃力3倍増」が存在し、この効果はフラガラッハを装備中ならば他の武器にも効果を発揮した。しかもレイナの場合は「剛力」のお陰で攻撃力が最初から4倍にまで強化されているため、普通の「12倍」の攻撃を行える計算だった。



「だあああっ!!」

『ギャアアアアアッ!?』



回転しながら振り翳したエクスカリバーから「天使の輪」を想像させる白刃が放たれ、周囲に存在したアンデッドの身体をすり抜けると、一瞬にして灰と化す。ほんの一撃で全てのアンデッドは葬りさる事に成功したレイナの視界に「ステータス画面」が自動的に開く。

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