第119話 魅了を破る方法
「ぐううっ……あがぁっ!!」
「っ……!?」
レアは声を上げないように口元を抑え、最初はアンデッドが鶏に襲いかかっているのかと思った。だが、よくよく観察すると少女の身なりは汚いが、肌に関しては他のアンデッドが腐敗化しているのに対し、瑞々しく張りのある肌をしていた。
年齢に関しては恐らくは12、3歳程度だと思われるが、金色の髪の毛が美しく、妙に肉感的な肉体をしていた。少女の様子を見ていたレアは頭を抑え、身体が異様に熱くなる。
(くっ……まずい、身体が火照ってきた……!?)
チイが発見した髪の毛を見た時のように身体に異変が起きた事からレアは目の前の少女が「吸血鬼」だと確信すると、すぐに身を隠して彼女の身体を直視しないように気を付ける。意識が乱れれば技能の効果が失い、存在が気付かれてしまう可能性もあった。
レアはゆっくりと自分が隠れていた場所に移動を行い、用意していたリュックを開く。事前の作戦では吸血鬼を発見次第、リュックの中の異空間に収納した「リル達」を呼び寄せる手はずだった。
『えっ!?また異空間の中にリルさん達を入れるんですか?』
『その通りだ。私達は君のように上手く存在を隠す事は出来ない、だから私達をそのリュックの中に入れてくれ』
『吸血鬼を見つけたらすぐに私達を呼び出すんだぞ!!恐らく、吸血鬼は女だ。お前が男である以上は「魅了」の力には抗えないだろうからな』
『レア、頑張って。吸血鬼なんかに虜にされたら駄目』
作戦を告げられた時はレアは驚かされたが、現在の吸血鬼は食事に夢中で完全に意識を奪われており、自分以外の存在が小屋の中に居る事に気付いている様子はない。これならばリル達を呼び出し、彼女たちに吸血鬼に止めを刺してもらうのが一番だろう。
周囲をアンデッドに取り囲まれているはずだが、吸血鬼の命令によって小屋の中にはアンデッドは入り込めないはずであり、レアは震える腕をリュックに伸ばす。だが、ここでレアは異常なまでに身体が熱くなり、耐え切れずに膝を付く。
(まずい、意識が……!!)
吸血鬼の姿を捉えた事で「魅了」の能力を直に受けたレアは今にも理性を失いかねず、このままでは意識を失いかねない。どうにか腕を伸ばそうとしたが、途中で力尽きたかのように倒れてしまう。
その際に物音を立ててしまい、食事中だった吸血鬼が異変に気付く。彼女は食い散らかした鶏を放り投げると、物音がした方に移動を行う。
「ぐぎぎっ……!!」
歯ぎしりを行いながら自分の食事の邪魔をしようとする存在に怒りを抱き、小屋の隅の方で倒れているレアの姿に気付く。
彼女は初めて見た人間に訝しむが、すぐに気を取り直したように口を開き、獣の牙のように発達した犬歯で噛みつこうとした。
「がああっ!!」
「……だあっ!!」
「ぎゃうっ!?」
しかし、レアの身体に噛みつこうとした寸前で彼女は危険を察して背後に退避すると、気絶していたと思われるレアが起き上がり、身体の下に隠していたフラガラッハを握り締める。
唐突に起き上がったレアに吸血鬼は戸惑い、その一方でレアの方も冷や汗を流しながらも剣を構える。ここで吸血鬼はレアの身体を見渡すと、先ほどまでは男性だと思いこんでいたが、現在のレアの姿は「女性」へと変貌していた。
「間に合った……流石に今のはやばかった」
「ぐるるるっ……!!」
――気を失う寸前でレアは視界の端で捉えた自分のステータス画面に文字変換を発動させ、性別を「女性」へと変更する。その結果、肉体が女性に切り替わった事で吸血鬼の「魅了」の効果を打ち破り、無事に意識を取り戻した。
吸血鬼の「魅了」の能力はあくまでも「異性」にしか効果はなく、女性となった事で「レア」から「レイナ」に切り替わり、魅了の効果を破る事に成功する。身体の火照りも収まり、フラガラッハを手にしたレイナは吸血鬼と向かい合う。
存在を知られた以上は戦うしか方法はなく、吸血鬼と化した少女を見てレイナは剣を震わせながらも身構える。
相手が元々は人間であり、外見もアンデッドと比べて人間に近い事からレイナは斬る事を躊躇するが、そんな彼女の不安を見抜いた様に吸血鬼の少女は両手の爪を刃物のように伸ばして攻撃を仕掛けた。
「しゃあっ!!」
「くっ!?」
金属音が小屋の中に鳴り響き、フラガラッハの刀身に少女の爪が触れた。咄嗟に防御には成功したレイナだが、相手は両手で10本の指を操作して斬りつけてくる。
「しゃああっ!!」
「うわっ!?このっ……!!」
まるで獣のように夢中に爪を切りつけてくる少女に対してレナは押し込まれ、ただの直感だが彼女の攻撃を受けるのはまずいと判断した。爪に触れないように気をつけながらもレイナは反撃の手段を模索し、大迷宮でも使用した戦法を行う。
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