第118話 謎は解けた
「なるほど……恐らく、この村の何処かに吸血鬼が潜んでいるんだろう」
「え?この村に?」
「じゃあ、この村の何処かに今も隠れているんですか?」
「その可能性はある」
「どうしてそう言い切れるの?」
リルの言葉に全員が不思議に思うと、キャンピングカーの中で食い散らかされた食糧と家畜小屋から消えた鶏の存在を知ってある仮説を立てた。
「アンデッドと違い、吸血鬼は人間の生気を吸う存在ではあるが、同時に生身の生物でもある。分かりやすく言えば普通の人間のような食事も必要だろう」
「そうなんですか?てっきり、血とか吸っているイメージなんですけど……」
「一般的にはそう思われても仕方がないな。だが、吸血鬼の場合は血液を吸い上げるというよりは生気を吸収して糧とするんだ。噛みつく際に口元に血液が滲む事から血を吸い上げているように見えるかもしれないが、実際は違う」
「じゃあ、吸血鬼は人間のように普通の食べ物も食さないと生きていけないんですか?」
「彼等にとって人間の生気は「好物」であり、吸えば吸う程に強さを増すと言われている。だが、それとは別に普通の食事も必要だと聞いた事がある。つまり、この村の家畜を食していたのは吸血鬼だ」
「なるほど……でも、それならどうして家畜の世話をしなかったんでしょうか?自分の食べ物になるなら少しぐらい面倒を見たらいいのに……」
リルの仮説を聞いてレアは納得するが、それならばどうして家畜が放置されているのか疑問を抱く。家畜の面倒を見ずに逃げ出してしまったり、あるいは餓死すれば困るのは吸血鬼の方である。
自分の食糧にするぐらいならば少しぐらいは家畜の世話をするべきではないかと思うが、リルによると考えられるとしたら二つの可能性があるという。
「家畜の世話をするのも面倒で放置しているのか、それとも家畜の世話を出来ない状態の二つだな」
「家畜の世話が出来ない……?」
「これを見ろ、食料の食べ方を見ても普通の人間の仕業だとは思えないだろう?」
リルは床に散らばった食い散らかされた食料品を指差し、袋が噛み千切られて中身が食された菓子を示す。確かに普通の人間ならば袋を開けて中身の菓子を食べるだろうが、噛みつき具合から考えても食した者は袋ごと噛み千切って食べたようにしか見えない。
仮に初めて見る食べ物だったとしても、袋その物に噛みつくなど考えにくい話なのでリルは恐らく吸血鬼がまともな精神状態ではない事を予測する。
「恐らく、吸血鬼は私達が去った後にここへ訪れて食料を食い散らかしたんだろう。という事は今日の夜もここに現れる可能性もある。まだ生き残っている家畜がいるからね」
「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「簡単な話だ。あの家畜小屋に隠れて吸血鬼が訪れた所を待ち伏せする。ですよねリル様?」
「ああ、そういう事になるが……問題があるとすればあの大量のアンデッドをどうやって始末するかだ」
吸血鬼を倒したとしてもアンデッドに関しては対抗策が難しく、聖属性の武器でしか倒す事が出来ない相手となると対応が難しい。黒竜ならばアンデッドを蹴散らす事が出来るだろうが、倒すまでには至らない。いくら肉塊になるまで痛めつけようとアンデッドという特性上、不死の存在なので完全に倒すまでには至らない。
アンデッドに対して有効的な手段を持つのは「聖剣」を所有するレアだけだが、彼一人で数百体のアンデッドを始末するのは難しい。戦技も魔法も使えないレアではアンデッドを一気に殲滅する戦力はない。だが、レアはここで今まで鞄の中に隠していた武器の事を思い出す。
「あの……聞きたいことがあるんですけど――」
――その日の晩、レアは家畜小屋に移動すると一人で静かに夜を迎えるまで小屋の中に隠れる。隠れて過ごすというだけならば「隠密」「無音歩行」「気配遮断」の技能を持つレア以上に適任の人間は存在せず、吸血鬼が現れるまでレアは過ごす。
(この作戦、上手く行くと良いけど……)
レアは体育座りで小屋の隅の方に隠れ、黙って吸血鬼が訪れるのを待ち構えた。万が一の場合を備え、自分のステータス画面は常に開き、リュックも置いておく。レアは吸血鬼が訪れるまでの間、一人で過ごす。
それから更に時間が流れ、眠気を抱いてきた頃にレアは外の様子が騒がしい事に気付く。窓に視線を向けると、どうやらアンデッドが目を覚ます時間を迎えたらしく、再び村の広場にアンデッドの集団が地中から出現する光景が映し出された。
『アアアアッ……!!』
幸いにもアンデッドはレアの正体に気付いた様子はなく、どうやらレアが発動している技能のお陰なのかアンデッドにも存在を気付かれないらしい。アンデッドに気付かれないようにレアは窓から離れると、家畜小屋の出入口の方から物音が聞こえ、誰かが入り込む。
「気配感知」の技能で気配を感じ取ったレアは身に着けていたフラガラッハを引き抜き、こっそりと様子を伺う。すると鶏がいる檻の方にて物音が鳴り響き、ゆっくりとレアは近付くと、そこには鶏に食らいつく「少女」が存在した。
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