第117話 家畜
「あの、気になる事があるだけど……」
「どしたの?」
「あのアンデッドたちは日中の間はあの村の地面に潜ってたんだよね。という事は昨日の夜は少なくとも村の中には存在した……間違っていないよね?」
「ああ、それは間違いないだろう。アンデッドは地中に埋まっている間は行動する事はないはずだ」
「じゃあ、なんであの村の家畜は無事だったのかなって……」
「家畜……?」
レアの言葉にリル達は村の中で生き延びていた家畜の事を思い出し、確かに少しの間は世話を放置されていた様子だったので衰弱していたが、小屋の中には牛馬や鶏は生き残っていた。
アンデッドは生物であるのならば人間を問わず、あらゆる生物に襲いかかる習性をもつ。しかし、それならばどうして村の地面の中に潜んでいたアンデッドの集団が家畜を放置していたという事実にレアは疑問を抱く。
「あの家畜たちが偶然見つかっていなかった……とは考えにくいと思うんです」
「言われてみれば確かにおかしな話だな……大分弱っていたとはいえ、あの家畜たちは襲われた形跡はなかった」
「それに吸血鬼の髪の毛が家畜小屋で見つかったというのも気になる」
「まさか……家畜達は襲わないように吸血鬼がアンデッドを操作しているのか?」
「そんな事が出来るんですか?」
「吸血鬼は自分がアンデッドへ変貌させた生物だけは操る事が出来る。だからアンデッド達に家畜小屋の動物たちは襲わないように命令をしていたとすれば有り得ない話じゃない」
「だけど、何のために……」
家畜小屋に吸血鬼の髪の毛が落ちていた以上、あの場所に吸血鬼が訪れたのは間違いはない。レア達を襲いかかったアンデッドの集団が家畜小屋に乗り込まなかった原因が吸血鬼の命令だとしたら、動物達が今日まで生き残っていた理由が証明される。
しかし、どうして吸血鬼は家畜小屋の動物達は襲わせないようにしていたのかが分からず、単純に家畜小屋の生物に何か思い入れがあって襲わせないようにしたのかとレアは考えたが、それならば世話もせずに放置していた事が気にかかった。
「家畜小屋へはアンデッドを近づけさせなかったにも関わらずに動物の世話は放置か……気になるな」
「どうします?あの村に戻って様子を調べますか?」
「いや、戻るとしても日が明けてからがいいだろう。今日は流石に疲れた、もうここで一晩過ごそう」
「賛成」
「そうですね……」
リルの提案を受け入れ、レア達は一晩過ごす。見張りに関しては黒竜に戻ったクロミンのお陰で草原の魔物達は近付く素振りも見せず、夜が明けるまで就寝に入った――
――朝日を迎える時間帯に入ると、レアはリル達に起こされて早々に村へと引き返す。村へ辿り着いた頃にはアンデッド達は姿を消しており、また無人の村と化していた。
「凄い、本当にいなくなってる……」
「アンデッドは日中は行動出来ないからな」
「建物の中とかに隠れたりしないんですか?」
「完全に日の光が遮られている空間があればアンデッドも潜んでいる可能性もある。その点は気を付けた方が良いな」
レア達は村の広場へと辿り着くと、そこには横転した状態のキャンピングカーが倒れており、どうやれレア達が消えた後にアンデッドの群れが車を倒してしまったらしい。
脱出する際は荷物は既に持ち込んでいるので特に問題はなかったが、この状態では残念ながら車は動かす事は出来ないだろう。
「ああ、せっかく作ったのに……」
「派手に倒れたな……一応、中の様子を調べておくか」
「クロミン、車を立たせてくれる?」
「ガアッ」
アンデッドの襲撃に備えてクロミンは黒竜の姿のままであり、レアが命令を行うと素直に従う。黒竜がキャンピングカーを持ち上げて車を立たせる事に成功すると、中の様子は正に惨状だった。
横転した際に車内のあらゆる物が倒れ込んだらしく、無茶苦茶な状態だった。床にはわれた食器まで散らばっているため、仕方なく土足で入り込む。その際にレアは床に落ちている食材に気付く。
「あれ、これって……?」
「どうかしたのかい?」
「いや、キャンピングカーに残してきた食材が食い散らかされてます。アンデッドの仕業かな……?」
床の上には誰かが食い漁ったような果物やスナック菓子が散らばり、どれもレアが道中で用意しておいた食料品の類だった。
キャンピングカーに残しておいた食材が食い荒らされた状態で落ちている事にレアはアンデッドの仕業かと思ったが、チイがそれらを見て驚いた顔を浮かべた。
「そんな馬鹿な……アンデッドはあくまでも生物にしか興味はないはず。奴等が好むのは死肉ではなく、生者の肉体だ。こんな植物の果物や菓子など食べるはずがない!!」
「え、じゃあ誰が……」
「小屋の方も見てきた……鶏が何匹か消えてる」
「何だって!?」
「という事は……」
ネコミンが小屋の中の家畜が消えた事を伝えると、何者かがアンデッドが巣食うこの村に乗り込み、キャンピングカーに残っていた食料を食して家畜小屋の動物を連れ去った事になる。ここでリルは今までの状況を省みてある結論に至った。
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