第116話 黒竜無双

「ガアアッ!!」

「ギャイッ!?」

「アアッ!?」

「アガァッ!?」



黒竜の猛攻によって次々とアンデッドは蹴散らされ、十数秒ほど経過すると100人近くのアンデッドが吹き飛ばされていた。その様子をキャンピングカーの上から見ていたレア達は改めて黒竜の強さを思い知った。



「お、おおっ……クロミン、凄い」

「流石は黒竜……一気に半数近くは蹴散らしたな」

「今の内だ!!ここを離れるぞっ!!」

「「ウォンッ!!」」



人数が減った事と、黒竜にアンデッドが狙いを定めた事でキャンピングカーの周囲を取り囲んでいたアンデッドも離れた隙にレア達も動き出す。


アンデッドは強い生命力を誇る生物に引き寄せられる性質を持つため、人間や獣人よりも竜種である黒竜こそが彼等にとっては極上の餌だった。そのため、村に存在するアンデッドは躊躇なく黒竜へと襲いかかる。



『アアアアッ……!!』

「グガァアアッ!!」



大抵の生物ならば黒竜の姿を見ただけで畏怖するだろう。しかし、理性を失ったアンデッドには全ての生物は「餌」でしかなく、怯える事もなく黒竜に向かう。


しかし、相手は下位とはいえ、災害の象徴とされている「竜種」である事に変わりなく、しかも通常の個体よりも突然変異によって強化された「亜種」でもある。


黒竜の圧倒的な戦闘力を前に数百人程度のアンデッドでは相手にならず、次々と肉体を蹴散らされていく。しかし、アンデッドは聖属性の武器か魔法でなければ倒す事は出来ず、肉塊と化しても死ぬことはない。腕を引きちぎられようが、足を失おうが、身体の半身が吹き飛ぼうとアンデッドは黒竜の元へ向かう。



「ガアアッ……!!」

「クロミン、頑張って!!」

「よし、ここまでくれば大丈夫だ!!逃げるぞ!!」



十分に黒竜はアンデッドを引きつけるとレア達は逃走の準備を整え、レアはクロミンに付いてくるように指示を出す。主人の言葉に従うように黒竜はアンデッドを蹴散らすと、レア達の後に続いて村の中を通り過ぎていく。



「よし、退くぞっ!!」

「レア、しっかり掴まって」

「分かった!!」

『アアアアアッ……!!』



アンデッドの大群に追いかけられながらもレア達は村を脱出する事に成功すると、そのまま草原に躍り出て村から離れた――





――アンデッドから逃れるために村を脱出してから1時間後、アンデッドを振り切る事に成功したレア達は草原に流れる川を発見し、休憩を取った。ずっと走り続けて疲れていたシロとクロと黒竜は川の水を飲み込み、その間にレア達も休む。



「ふうっ……どうにか逃げ切ったな」

「助かった……クロミンのお陰だね」

「ガアッ!!」

「うわっ!?そ、その状態で吠えるな……びっくりするだろうが!!」

「ガウッ……(小声)」



チイの言葉に黒竜は落ち込んだように頭を下げると、どうやらこちらの状態に戻っても人間の言葉は伝わるらしい。正確に言えば言葉を完全に理解しているというより、感情を読み取って相手が伝えた言葉を理解している様子だった。


黒竜の頭をレアは撫でながらも無事に乗り切れた事を安心する一方、リルの方は岩の上に腰かけて難しい表情を浮かべ、吸血鬼の物と思われる「髪の毛」を見つめる。



「……あれだけのアンデッドがあの村に住んでいたとは思えない。恐らく、この地方に吸血鬼が存在するのは間違いないだろう」

「という事は既に周辺の村は吸血鬼によって住民はアンデッドにされたのですか?」

「状況的に考えてもそう判断するしかない」

「そんな……」

「あの……どうしてアンデッドたちは地中から現れたんですか?」



レアは襲ってきたアンデッドが村の外から訪れたのではなく、地中から姿を現した事を思い出し、疑問を抱く。


あれほどの大量のアンデッドが地面の中に埋もれていた事に全く気づく事が出来ず、そもそもどうして急に現れたのか気になったので尋ねると、チイが説明を行う。



「アンデッドのような死霊系の魔物、まあ元は人間だったんだが……ともかく、死霊系の魔物は日の光を嫌う傾向がある。だから奴等は日中の間は姿を現さず、暗闇に覆われた空間でしか活動しない。だから日が照らす時間帯は完全に光を遮られる地中か、あるいは光に遮断された空間に逃げ込む」

「じゃあ、光に弱いんですか?」

「そういう事だ。特に聖属性の魔法で生み出された光には弱い。最も、聖属性の魔法を扱えるのは治癒魔導士か修道女ぐらいだが……」

「ネコミンは使えないの?」

「無理」

「ネコミンの魔法は特殊だが、無暗に使う事は出来ない。だが、その分に強力だぞ」

「へえ、そうなんだ……」



ネコミンは魔術師である事はレアも知っているが、実際に彼女が魔法を使う場面は見た事は無い。リルが火傷を負った時はレイナと再会するまでは完治していなかったため、彼女は治療を行っていない、あるいは治療する事が出来なかった可能性が高い。


大迷宮の時もネコミンは魔法を使う機会がなかったため、どのような魔法を扱えるのか気になる所ではあるが、今はアンデッドを生み出した吸血鬼をどのように対処するのかが問題だった。



「もしも吸血鬼がこの地に居たとしたら見過ごす事は出来ない。一刻も早く、始末しなければ被害が拡大化していく」

「けど、どうやって見つければ……」

「そこが一番の問題だな……とりあえず、この地方の村を探して様子を調べるしかないな」



リルの言葉にチイとネコミンは頷くが、ここでレアはある疑問を抱く。それは村の中に存在した家畜たちの事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る