第115話 吸血鬼
「リル?急にどうしたの?」
「……アンデッドを作り出せるのは死霊使いか、あるいは魔人族の「吸血鬼」だけだ。もしもこの髪の毛の正体が吸血鬼の物だとしたら……レア君、これを見てくれ」
「えっ……」
髪の毛をハンカチから取り出したリルはレアに見せつけると、こんな状況で彼女の行動の意味が分からず、何か言おうとしたがレアは髪の毛を見た途端に身体が硬直してしまう。
髪の毛を目にした瞬間、このような状況下でレアは唐突に身体が熱くなり、心臓の鼓動が高まった。自分の身体の変化にレアは戸惑い、頭を抑える。
「う、くぅっ……」
「ど、どうしたレア?」
「ウォンッ?」
「気分が悪いの?」
「いや、その……ううっ」
「やはり……レア君、正直に答えてくれ。君は今、私達に「欲情」したか?」
「はいっ!?急に何を言い出すんですかリル様!?」
リルの爆弾発言にチイとネコミンは驚き、シロ達は言葉の意味が理解出来ずに首を傾げる。しかし、リル本人は至って真面目に聞いているらしく、彼女は自分が掴んだ髪の毛を眺めながら答えた。
「吸血鬼は「魅了」と呼ばれる固有スキルを所有している。奴等はこの能力を利用して他の生物であろうと自分の虜にさせて下僕のように付き従えるという。だが、魅了の能力は「異性」にしか通じない。また、吸血鬼の身体の一部が切り離された場合でも「魅了」の効果はしばらくの間は消えないと言われている」
「じゃあ、今のレアの身体の異変は……」
「そうだ、この髪の毛を見て欲情しているんだ」
「欲情って……お、おい、大丈夫なのか?」
「ど、どうにか……髪の毛を見なければ何とか」
欲情という言葉にチイは頬を赤らめて胸元を隠し、一応はレアを心配して尋ねる。レアは頭を抑えながらもリル達を見ないように気を付け、ここで自分の身体の不調の原因がリルが摘まむ髪の毛である事に気付く。
確かに昼間にチイが発見した髪の毛を見てからレアの身体はおかしくなり、妙にリル達の事を異性として意識してしまう。最初は男に戻った反動かと思ったが、どうやら原因はリルが所有する「吸血鬼」と思われる髪の毛が原因であると判明した。
「恐らく、この髪の毛の主は女性の吸血鬼だ。だから私達は魅了にかからなかったが、男の子のレア君には効果覿面のようだな」
「お、おい……お前の事は信じているが、冷静でいろよ」
「ご、ごめん……出来ればそっとしておいてくれる?」
「それは難しい……アンデッドの数がまた増えてきた」
『アアアアッ……!!』
話している間にもアンデッドは数を増やし、その人数はもう200を超えようとしていた。その様子を見てリル達はどうするべきか悩み、一方でレアはステータス画面を開いて文字数の確認を行う。
(文字数はもう回復している……という事は日付はもう過ぎているのか。なら、文字変換の能力は使える)
周囲をアンデッドの大群に取り囲まれた状況の中、レアはこの絶望的な状況を切り抜ける方法を思いつき、クロミンへと視線を向けた。
「クロミン……おめえの出番だぞ」
「ぷるんっ?」
「レア?」
頭を抑えながらもレアはクロミンを抱き上げると、クロミンは不思議そうにレアの顔を見つめ、リル達も戸惑う。だが、この状況下で危機を脱するにはクロミンの力を借りるしかなく、レアは解析の能力を発動させて詳細画面を開く。
話している間にもキャンピングカーにアンデッドの大群が押し寄せ、既に車内に入り込んだアンデッドは二階の窓から車体の上に乗り込もうとしていた。リル達は武器を構えてアンデッドを迎え撃とうとするが、押し寄せるアンデッドたちによって車体が傾き始め、横転するのも時間の問題だった。
「リル様!!もう持ちません!!」
「こっちも限界」
「くっ……何とか時間を稼げ!!」
「「ウォンッ!!」」
『アアアアアッ……!!』
アンデッドをリル達は払いのけ、その間にレアは指先を操作してクロミンの詳細画面を種族の項目を変化させると、最後にクロミンを空中へ向けて放り投げる。
「行け、クロミン!!君に決めたっ!!」
「ぷるるるんっ!!」
「な、何だぁっ!?」
空に放りだされたクロミンは「合点だ!!」とばかりに鳴き声をあげながら身体を震わせると、空中にて身体が光り輝き始め、やがて肉体の形が徐々に変化を行う。
レアが実行したのは種族名を「スライム」から「下位竜種」と変更した事であり、次の瞬間にクロミンの姿は可愛らしいスライムから、威圧感溢れる恐ろしい生物へと変貌した。
――ガァアアアアアッ!!
村の中に咆哮が響き渡り、突如として空中に出現した牙竜の亜種の「黒竜」は地上へと着地する。唐突に出現した黒竜に対してアンデッドの大群は視線を向けると、レナ達よりも「生命力」が溢れる生物が出現した事によって標的を変更させる。
『アアアアッ……!!』
「グガァアアアアッ!!」
アンデッドの大群が元の姿へ復活を果たした黒竜へと殺到するが、黒竜は自分に迫るアンデッドに対して腕を振り払うと十数人のアンデッドを蹴散らす。いくら不死身の存在とは言え、竜種の強烈な一撃を受けては無事では済まず、アンデッドは肉塊と化す。
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