第108話 文字変換の真の使い方
―――――牙竜―――――
種族:下位竜種(亜種)
性別:雄
状態:興奮
特徴:竜種の中でも下位種に位置する「牙竜」の亜種。突然変異によって誕生し、その獰猛性は通常種の比ではなく、同族であろうと餌と認識して襲いかかる。体格、戦闘力は通常種の倍は存在し、現在は激しい飢餓に襲われている。獲物を殺しても別の獲物を発見すると襲いかからずにはいられず、視界の範囲内の全ての生物を駆逐しない限りは餌にもありつかない
――――――――――――
視界に表示された画面を見てレイナは冷や汗を流し、黒竜の正体が突然変異によって誕生した牙竜だと判明した。また、現在は腹を空かせているにも関わらず、獲物を追跡する事に夢中で我を失っているらしい。
詳細画面を確認したレイナは最初に思いついたのは状態の項目を「興奮」から別の文字へ変換させればいいと考えた。今回の場合、黒竜の危険性を考えて放置は出来ず、ここで始末するべきかと考えた。
(前にリルさんに「麻痺」と書き込んだ時は身体を麻痺させる事に成功した。レッドゴブリンの時のように「即死」と打ち込めば倒せるけど、その場合だと経験値は入らないな……)
状態の項目を「興奮」から別の二文字へ書き換えればその通りの現象が起きるのは確認済みのため、レイナは黒竜の危険性を考慮してここで葬るべきだと指先を伸ばす。だが、ここでレイナの頭の中にある二文字の言葉が思い浮かぶ。
(……待てよ、もしもこの文字を使ったらどうなるんだ?)
即死という文字を書き込もうとした指先が止まり、レイナは詳細画面に視線を向けたまま動けなくなった。レイナの様子の変化にリル達は戸惑い、何か問題が起きたのか心配するが、当のレイナは自分の発想に身体が震える。
(いや、でも……こんな事が上手く行くのか?失敗するかも……けど、失敗しても何も問題はないのか?)
指先が躊躇うように震え、我慢できずにレイナは黒竜に視線を向けた。未だにレイナ達を逃すつもりはない黒竜は一定の距離を開けて追跡を続け、様子を伺うように睨みつける。その獰猛な瞳にレイナは冷や汗を流すが、もしもレイナの企みが成功すれば黒竜の身に途轍もない変化が生じる。
一か八かの賭け、というよりは「実験」のためにレイナは指先を画面に走らせた。状態の項目の「興奮」を消し去ると、続いて指先で文字を書き込む。その直後、画面が更新された。
「ガアッ……!?」
画面が更新した瞬間、黒竜は目を見開くと時間が停止した様に動かなくなってしまう。硬直して立ち止まった黒竜を見てリルとチイはシロとクロに走らせるのを止めさせると、黒竜の様子を伺う。
「……止まった?」
「や、やったのか?」
「レイナ君、何をしたんだ?」
「……これ、持っててください」
「えっ……お、おい!?」
レイナはチイに魔除けの石を渡すと自分の鞄からアスカロンとフラガラッハを取り出し、そのまま降りて黒竜の元へ向かう。レイナの唐突な行動にリル達は呆気に取られるが、黒竜が動く様子はない。
黒竜の元に近付いたレイナはその圧倒的な威圧感を誇る風貌に気圧されるが、それでも恐れずに近寄ると、武器を構えた状態で黒竜と向かい合う。
レイナの行動をリル達は止める事が出来ず、このまま黒竜に止めを刺すのかと思われた時、黒竜がゆっくりと両腕を下ろしてレイナの前に顔を近づける。
「……伏せろ」
「ガウッ……」
『っ……!?』
――レイナが言葉を掛けた瞬間、信じられない事に黒竜は身体を伏せてる。そしてレイナは武器を手放すと、恐る恐る黒竜の頭に触れた。リル達はレイナの行動に信じられない表情を浮かべるが、餌としか認識していないはずの人間に触れられても黒竜は抵抗する様子はなく、黙って受け入れた。
いったい何が起きているのかリル達には理解できなかったが、この中で一番驚いているのはレイナであり、まさか本当に自分の考えが上手く成功した事に動揺を隠せない。
レイナが黒竜の詳細画面に書き込んだ文字は「服従」この文字を書き込んだ瞬間に黒竜はレイナの僕と化したかの如く大人しくなり、レイナの命令を聞く。
「……解析」
黒竜の頭を撫でながら用心のためにレイナは解析の能力を発動させると、開かれた画面には驚くべき内容が表示されていた。
―――黒竜―――
種族:下位竜種――牙竜(亜種)
性別:雄
状態:服従
特徴:竜種の中でも下位種に位置する牙竜の亜種。突然変異によって誕生し、その獰猛性は通常種の比ではなく、同族であろうと餌と認識して襲いかかる。体格、戦闘力は通常種の倍は存在し、現在は激しい飢餓に襲われている。獲物を殺しても別の獲物を発見すると襲いかからずにはいられず、視界の範囲内の全ての生物を駆逐しない限りは餌にもありつかない。現在は「霧崎レア」に忠誠を誓い、あらゆる命令を聞き入れる。
――――――――
特徴の最後の文章が更新されており、新しく「現在は「霧崎レア」に忠誠を誓い、あらゆる命令を聞き入れる」という文が追加されていた。
それを確認したレイナは本当に黒竜が自分のいう事に従うのかを確かめるため、緊張した面持ちで命令を与えた。
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