第107話 黒竜の追跡
「……駄目です、距離が開きません!!」
「くっ……流石に竜種を相手に逃げ切るのは難しいか」
「どうするの?」
「一応、魔除けの石のお陰で近づいてくる事はないと思いますけど……」
「ガアアアッ!!」
黒竜は一定の距離を保ったまま追跡を行い、シロとクロの脚力では距離を開く事は出来ない。速度が上回る相手に障害物もない草原で逃げ切る事は不可能だと判断したリルは仕方なくレイナに振り返り、この状況を打破する方法がないのかを尋ねる。
「レイナ君、君の力でどうにか出来ないか?」
「……やってみます」
レイナは追跡を行う黒竜に視線を向け、どのような手段で黒竜を「撃破」するのかを考える。最初に思いついたのは文字変換の能力で物体を別の物に変換させ、黒竜を打倒す武器を作れないのかとレイナは考えた。
だが、武器といってもレイナが思いつくのはこの世界に存在する「聖剣」あるいは地球の「兵器」の二つしか思いつかない。聖剣に関しては帝都を脱出する前に武器屋で飾られていた聖剣の模造品がいくつか残っており、既にレイナが作り出した「フラガラッハ」や「アスカロン」とは別の聖剣をこの場で作り出す事は出来る。
しかし、いくら伝説の聖剣を文字変換の能力で作り出したとしても、どんなに凄い性能を誇ろうと「剣」という性質上は牙竜を相手に接近戦を挑む事になる。しかも聖剣を扱えるのは製作者のレイナだけのため、剣に関しては扱うのは初めてではないが相手が凶悪な竜種となると勝てる自信はない。
(聖剣には頼れない……となると、やっぱり地球の兵器かな?)
地球の兵器を作り出す場合、遠距離攻撃を行える物に限られ、レイナの習得している技能の「剛力(攻撃力4倍)」とフラガラッハの「攻撃力3倍増」が組み合わされば地球の武器も驚異的な効果を発揮する事は既に証明されている。
最初にレイナが思いついたのは「ロケットランチャー」や「グレネードランチャー」というFPSを取り扱うゲームでは定番の高火力の兵器が頭に浮かぶ。だが、ここで大きな問題としてどちらも作り出した所でレイナが取り扱えるのかという不安があった。
マグナムや手榴弾でさえも扱うときも危険が多く、多様は出来なかった。しかも下手に取り扱って暴発でも引き起こせば大惨事に繋がり、何の知識も訓練も受けずに素人が高火力の兵器を扱えるはずがない。
(駄目だ、どうすればいいんだ……戦車を作り出す?いや、そっちの方が難しいだろ……)
戦車などの乗物を作り出す事も出来るだろうが、乗物関連も初めて扱うレイナが乗りこなせるはずがない。考えている間にも黒竜は追跡を行い、遂に攻撃を実行した。
「グガァッ!!」
「危ないっ!?避けろっ!!」
「「ウォンッ!?」」
「うわっ!?」
「にゃうっ!?」
後方を追跡する黒竜は移動中に草原に存在した岩を利用し、恐るべき腕力で吹き飛ばして前方を走るレイナ達に向けて岩石を放つ。咄嗟にリルが気付いてシロとクロに指示を与えた事で飛んできた岩を回避する事に成功したが、30メートル近くも距離を離されながらも攻撃を仕掛けてきた黒竜にレイナ達は背筋が凍る。
30メートルを離れていても安全とは言い切れず、もしも立ち止まっても黒竜は攻撃を諦めず、別の方法で攻撃を仕掛けてくるだろう。魔除けの石の効果で黒竜自身が接近する事がないとはいえ、もしも先ほどのように岩石を投げ飛ばされて魔除けの石が壊されれば絶対に安全とは言い切れない。
(まずい……ゆっくり考えている暇もない。このままだと本当に殺される)
距離が開いていても黒竜の放つ威圧感にレイナは圧倒され、ますます頭が回らなくなってしまう。このまま自分達は成す術もなく殺されるのかと焦った時、ネコミンがレイナの不安を「嗅覚」で感じ取ったのか元気づけた。
「レイナ、落ち着いて……大丈夫、レイナならなんとか出来る!!」
「ネコミン……」
「そうだ!!お前は本当に凄い奴だ!!だから、頼む!!」
「レイナ君、無茶を言っているのは分かっている……だが、この状況を切り抜けられるとしたら君だけだ!!頑張れっ!!」
リル達の声援を受けたレイナは頷き、ここで諦めれば自分だけではなく彼女達も死ぬことを意味する。その事を理解するとレイナは心を落ち着かせるように頬を叩き、冷静に考える。
(落ち着くんだ……文字変換の能力で出来る事を思い出せ)
この状況下でレイナは自分が扱える「文字変換」の能力を見つめ直し、そしてある事を思い出す。文字変換の能力は物体を別の物に変換させるだけではなく、自身や他の人間のステータスの改変を行えるという事実を思い出す。
追い込められていた事でレイナも忘れていたが、彼女には文字変換の他に「解析」の能力があり、早速レイナは黒竜に振り返って解析の能力を発動させ、黒竜の「詳細画面」を視界に表示させた。
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