解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き残ります

第109話 黒竜の対処

――文字変換の能力によって黒竜を「服従」させるという大業を成し遂げたレイナだったが、問題なのは従えた黒竜をどのように扱うべきかだった。一先ずはリル達は牙路に留まり、一晩明かす事にした。

「グゥウウウッ……」

「黒竜の奴、もう寝ちゃった……お腹いっぱいになって眠くなったのかな」

「……何度見ても信じられない光景だな。竜種が人に懐くなんて」

「懐く、というよりは完全に従っていますね」

「レイナは凄い……けど、黒竜は怖い」

「「クゥ～ンッ」」

レイナに寄り添うように黒竜は身体を伏せて眠ると、その光景を距離を離してリル達は様子を伺う。何度見ても信じられない光景であり、彼女達にとって竜種という存在は恐怖の象徴である。そんな竜種を従えたレイナには尊敬の念すら抱く。

しかし、黒竜を討伐せずに従えた事には問題があり、このまま黒竜を連れ出せば当然だが何処の村も街も大混乱に陥る。下手をしたら黒竜を従える得体の知れない存在と警戒され、警備兵が派遣される可能性もあった。

「おい、レイナ……そいつをこれからどうするつもりだ？まさか、一緒に連れて行くつもりか？」

「う～ん……とりあえず、名前はガルと名付けようと思う」

「いや、そんな悠長なことを言っている場合か！？」

「分かってるよ……けど、どうすればいいのかな」

黒竜は今の所はレイナに完全に従っており、試しにレイナがいくつか命令を与えると、全て命令通りに実行した。飢餓状態に陥っていてもレイナの命令を優先するらしく、試しに他の魔物が遭遇した時でさえも我を忘れずに襲いかかる事は無く、レイナの傍を離れなかった。

牙路に存在した牙竜の複数の死体を築き上げたのは黒竜の仕業である事は間違いなく、レナは餌の代わりに牙竜の死体を捕食するように命じると黒竜は素直に従う。ちなみに餌に関してはたった一食で牙竜の死体１体丸ごと骨まで残さず食べ尽くす。

「黒竜を連れて行くとなると問題は多い。戦力という点ではこれ以上に心強い存在はいないが、村や街に立ち寄るだけでも大騒ぎになりそうだ」

「旅を続けるだけでも問題がありますよ！！もしも旅の途中で他の人間に見つかりでもしたら私達が黒竜を従えていると知られてしまいます！！」

「なら、ここに残していく？」

「それはそれで問題があると思うけど……」

レイナが一言「ここに残れ」と言えば黒竜は素直に従うだろう。しかし、その場合だと牙路を黒竜が支配するという状況は変わりない。それに黒竜が牙路に生息する生物を全て食い尽くした場合、その後の脅威は獣人王国やヒトノ帝国の領地に黒竜が進出する可能性もある。

既に牙路を縄張りにしていた牙竜を食い尽くしたという事実もあるため、黒竜が住処を移動する可能性は否定できない。仮にレイナが「人間」を襲うなと命じれば人間を襲わない可能性もあるが、それでも食糧を求めて人里を襲来し、人間以外の存在に襲いかかる事態に陥る可能性も高い。

「レイナ、やはりこいつはここで始末するべきだ。お前が命じればこいつは自害もするだろう？」

「それは……ちょっと、可哀想じゃないかな」

「そうだな、私も安易に殺すべきではないだろう。ここまで人間に従う竜種など歴史上でも初めてだろう。それに黒竜の戦力という点を考えれば殺すのは惜しい」

「ですが……」

チイは黒竜を始末するように進言するが、レイナとしては自分の力で従えた黒竜を殺す事は躊躇し、リルも人に従う竜種を無暗に殺す行為に反対する。しかし、実際問題として黒竜を連れて旅をするのは難しい。

色々と話し合った結果、黒竜を始末するのは惜しいという結論に至り、どうにか他の人間に警戒心を与えず、黒竜を連れて行く方法を考える。

「黒竜を連れて行く場合、問題となるのはこの外見だな……流石に首輪を付けて連れて行ったとしても他の人間に警戒されてしまう」

「そもそも竜種に取りつける首輪などありますかね……」

「なら、私とは離れさせてこっそり連れて行く？」

「その場合は黒竜が単独の時に他の人間に見つかれば問題だろう。下手をしたら討伐軍が送り込まれる可能性がある」

「王都までリルさん達が先に向かって、迎えの人を呼び出すとかは……」

「駄目だ、私の立場ではそれは難しい。それにここから王都まで移動するには２週間は掛かる。往復で一か月も君だけを残す事は出来ない」

「なら、困った時のレイナ頼み。レイナの力で黒竜を別の生き物に変化できない？」

「それは……どうだろう？」

ネコミンの何気ない言葉にレイナは首を傾げ、試しに解析を発動させて黒竜の詳細画面を開く。そして種族の項目に視線を向け、この「種族：下位竜種（亜種）」という文字を上手く変化させれば黒竜を他の種族の生物に変化する事が出来るのではないかと考える。